第4話 勝てません

未だに動かない二人に接近する小さな影があった。その影は2人の側につくなり二人を指差して


「ママ、あの二人ラブラブしてる!!」

「「っ!!」」


その声を聞いて二人は一斉に離れた。

ちなみに小さな影は颯爽と現れた母親に連れ去られたのでもういない。

残されたのは真っ赤に顔を染めた二人とそんな二人を見て様々な意味の視線を向ける周囲の人々だけだった。


「「‥‥‥‥っぷ」」


しばらく無言だったが二人は同時に吹き出した。そして


「「あははっ!!」」


笑い声を上げた。目尻に涙を貯めて


「あはは、か、カイなんです?そんなに赤くして、普段の取り澄ました顔はどこにいきました?」

「そ、ソフィーこそ顔赤いぞ?いつもしている傲慢実質な態度はどこいった?」

「誰が傲慢実質ですか!?」

「お前だ、お前」

「なんですとー?」

「事実だろ?」


先程まで笑っていた二人は笑みを消し睨み合う、やがて


「「ぷっ、あははは!!」」


また二人同時に吹き出した。

だが、ただ今度は先程と変わり、楽しく笑うカイとはべつにソフィアは泣きながら笑っていた。

その異変にカイは遅れて気付き驚いてソフィアに駆け寄る。


「ど、どうした!?どこかいたいのか!?」

「ん、んん!!ぐす、んっ、か、カイが、ようやくあの頃のように笑ってくれる事が嬉しくてつい、あ、あれ?な、涙がとまらないですよ‥‥んっ、」


と、とうとうソフィアは両手で顔を抑えうつ向いてしまった。


「お、おいっ、大丈夫か!?」

「ん、はっ、う、うん、大丈夫で、です、少しだけ、少しだけです、ちょっと待ってください、少ししたら落ち着きます、から‥‥」


そういうとソフィアはカイの胸に寄りかかった。カイは無言でただただ自身の胸でなくソフィアを見下ろした。その姿が意地らしく、ソフィアを抱き締めたいと強く思ってしまった。カイは無意識に上がった手を理性を総動員して無理やり止めた。

このままでソフィアを抱き締めてしまう。いくら恋人設定があるとは言え、一国の皇女をそれも婚姻が決まった女性を自分が抱き締めるわけにはいかないと、カイは自分に必死に言い聞かせた。


⭐⭐⭐


暫くするとソフィアはカイから離れた。

そして手で目を軽く擦りながらカイに笑いかけながら


「ふぅ~、ごめんなさい、もう、大丈夫だです‥‥すいません」

「いえ、俺も大丈夫です。」

「‥‥‥」


ソフィアが泣いている間カイは自身に自分とソフィアの明確な身分の差や立場を言い聞かせた。そうしなければ自分はソフィアをどうしていたか分からなかった。


元の騎士としてカイの態度にソフィアは物言いたげだったが、追求はしなかった。


「じ、じゃ行きましょう」

「はい、」


そして二人は歩きだした。

暫く歩くと


「あそこのお店に行きましょう」


とソフィアは雑貨屋を指差して告げた。

カイの頷き一緒に入店する。

棚には可愛らしい装飾がされた置物や文房具などが置かれ、店員の女性がカイとソフィアの前に現れた。


「いらっしゃいませ~、本日はどのような物をお求めですか?」


愛想のいい店員にカイはなんと言うか悩んだがカイより先にソフィアが動いた。


「この店で好みのアクセサリーを作成してくれると友人から聞いたのですが、本当ですか?」

「はい!!承っております、少々お待ち下さい」


そう言うや店員の女性は店の奥に消えて行った。そのやり取りを見てカイはソフィアに尋ねた。


「姫様、この店をご存知だったのですか?」

「‥‥‥」


だがソフィアからの返事はなかった。

どうかしたのかと顔をみようとするとぷいっとカイのいる場所とは反対を向いてしまう。


「姫様?」

「‥‥‥ソフィー」


疑問に思い再度声掛けをするとぼそりとソフィアは溢した。それを聞いてカイは内心頭をかかえた。姫が何をしてほしいか察したからだ。分かったならするべきだ、だが、それでは必死に自身に言い聞かせた事をたかだか数刻で破ることになってしまうし、せっかく落ち着いた心をまた乱してしまう、だが呼ばなくては姫様と会話ができないし、この後の行動に支障がでるだろう。

頭の中で議論を続けるが一向に答えがでない、早くしないと店員が戻ってきてしまう。追い詰められたカイは


「そ、ソフィー、悪かった、許してくれ‥‥」


と今にも泣き出しそうな弱々しい声でソフィアを呼んだ。

するとソフィアはばっとカイのほうを向き


「‥‥、許してあげます‥‥」


と穏やかなえみを浮かべた、その笑みにはどこか勝ちました!!と伝わる色が見てとれ。

カイはそれをソフィアに勝てないとがっくりと肩を落としたのだった。

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