異世界共和国栄達記

感無量

第1話

 この国のためになりたい。


 そう思って小さいときから勉強し、ついに私、石田健也はある程度の地位を築くことが出来た。


 それなりの大学を出て成ったのは所謂官僚で、歳はもう40だ。


 しかし今になっても思うのは、この国はどうなるのだろうか?ということだ。

 メディアの報道は以前と変わり、個人も自由に意見を発信できるようになった。

 私たちは公に尽くす役割である以上、それらに面と向かって意見することが避けなければならない。


 若手の時から政府への批判は多くあったが、近年はその批判が個人的なものになり、負担も大きくなっている。


 今日こんなことを改めて思っているのは、部下から辞表を受け取ったからである。




 「石田さん、今お時間宜しいでしょうか?」


 「島君、ちょうどよかった。今空いているか?」


 「いえ…先にこれを査収願います。」


 そう言って島君は私に辞表を出した。


 (島君もか…)


 ここ数年、部下からの退職願いが多い。無論、私の所属組織だけでない。政府実務全体でこのような状況なのだ。

 島君は中でも優秀な人材なので、私も引き止めたい。が


 「優秀な君が考えてこれを出したのだから、もう決意は固く、私を納得させる論理もあるのだろう」


 「はい…申し訳ありませんが。

 このままここに残っても、私のやりたいことは出来ません。最早この国を変えるにはより影響力を持って外部から働きかけなければならないでしょう。

 私は政府を出て、自分のやりたいことに邁進したく存じます。」


 「君の言い分ももっともだろう。受理する。

 一応、君も知っているだろうが退職手続に時間が掛かる。

 全体平均として三か月ほどかかっているから、島君も引継ぎ等しつつ準備しておいてくれ。」


 「承知致しました。ご高配感謝致します。」


 そう言って島君は行ってしまった。

 さて、頼もうとしていた仕事は何だったか…


 優秀な彼の退職が決まり目の前が真っ暗になる思いだが、他の部署も人員が足りない以上今いる人員で回すしかない…




 三か月後、島君を呼んだ。


 「島君、今までの8年間ご苦労だった。君の辞表は正式に受理された。」


 「ありがとうございます。石田さんの下で働いたのは2年でしたが、一番学びの多かった時間だと思います。」


 「それは重畳。これからの活躍を祈っているよ。」


 「はい…石田さんも、お体にはお気をつけください。

失礼致します。」


 …さて、仕事に戻るか。

 そう思うと、今度は本当に目の前が真っ暗になってしまった。自分が机に倒れる音が最後だ。


 (過労だろうか?…私のやったことが少しでも国のためになれば良いが…)

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