第2話
《Re:Union 第2話》
同刻、部室内の角でひっそりと漫画を読んでいた前髪で目が覆われている1人が、扉が開いて閉まったところを目撃していた。
「ん?」
「どうした、茶釜(ちゃがま)?」
「たぶん、新入生」
180cm程の身長の男がまたそれに気付き、言われるがままに扉を開ける。するとそこに赤川はいた。
「何だ、入って来ないのか?」
「あ、えと、ま、間違えましたぁ〜・・・」
背の高い男は立ち去ろうとしている彼の襟を掴んで部室内へと引っ張り込む。
「んなっ!?強っ!」
ドサッと奥の体育の器械運動で使うであろう厚手のマットの上に投げ飛ばされた赤川に、複数人の魔の手が忍び寄る。男達はあれよあれよと彼の服を脱がし、パンツ一丁に剥かれてしまった。今日のパンツは青のボーダーだ。
「な、な、何するんですかー!?」
思わず胸と股間を隠す赤川だが、剥いた張本人らは道を作るように整列し、その向こうには筋骨隆々な坊主頭の巨人が腕を組んで仁王立ちしていた。その唯ならぬオーラにたじろぎ、言葉を詰まらせた。
「い、一応聞きますけど、先輩ですよね・・・?」
「そうだ」
男は答えた。
「俺は3年の黒田 源太郎(くろだ げんたろう)だ。野球部の部長で、ポジションはサード、宜しくな」
と黒田は机に膝を付いて腕相撲のポーズで歓迎した。
「好きな物は肉と年上の女性、特技はベンチプレス、趣味は・・・腕相撲だ」
「だいたい予想付きました」
赤川は即座にツッコミを入れるが、黒田は構えた腕を引こうとしなかった。彼の参戦を待っているようで、目を光らせていた。
「いや、やりませんよ」
そう答えると残念そうに黒田は腕を引っ込めたが、突然ユニフォームを着出した。それを見ると他の複数の上裸だった部員もユニフォームを着、ガラッと部室の扉を開けた。
「よし、じゃあお前の実力を見てやる。何やってんだ、さっさと服を着ろ」
(そっちが脱がせたんでしょうが)
しぶしぶジャージを再び着ると、不思議と景色が変わったような錯覚に陥った。それは先程までふざけ倒していた諸先輩たちの顔が、ユニフォームを着たことにより凛々しくなったからだ。
「おっ・・・」
期待をしつつ、赤川はその背中に着いて行き、グローブを片手にグラウンドに出た。
「よーし!じゃあ行くぞー!!」
『おー!!』
「だーるーまーさーんーがー こーろーんーだ!!!」
部長の黒田がホームベースに後ろ向きで立ち、掛け声と共に振り返る。紛れもなくこれは【だるまさんが転んだ】という子供の遊びをしている。それには参加せず、赤川は落胆した様子で離れたところで見ていた。
「俺、もう帰ろうかな・・・」
そんな様子を同じく傍観していた、赤川より少し背の高い男も、腕を組んで溜め息を吐いていた。
「まぁ、真面目に野球がやりたいんなら、あまり期待しない方が良いよ」
「あ、えと・・・」
「2年の白谷 誠一(しろや せいいち)だよ。ポジションはー・・・、控えキャッチャー、かな」
白谷は右手を出し、握手を求めてきた。
「あ、すいません、1年の赤川 陽介と言います!ポジションは、中学ではピッチャーをしてました!宜しくお願いします」
握手の手を取り、そのまま頭を下げる赤川。
「君、ピッチャーなんだ?良かったら受けてあげようか」
白谷はキャッチャーミットを左手に填(は)め、パシッパシッとボールが収まる部分を叩いている。
「はい!ありがとうございます!」
赤川はグラウンドの端に作られたマウンドに立ち、白谷はマスクとプロテクターは着けず、ニコッと笑う。
「本気で投げてこいよ!」
(中学軟式野球上がりだからまともに投げれたら上々だろう)
硬式球を赤川に投げ、離れて座ると、ヘラッとしていた雰囲気から一変した彼の様子に違和感を覚えた。ボールをコロコロと右手の中で転がす。そして赤川はワインドアップポジションから左腿を上げ、大きく踏み出した勢いで右腕を振り抜いた。その一連の流れる動作に見惚れていたのか、白谷が気付いた時にはボールは目の前に来ていた。
「!?」
しかし捕球できずにミットの指先が触れ、思わず後逸してしまった。転々とするボールは、遊んでいた黒田の足元まで転がった。
「・・・驚いたな」
白谷は転がるボールを見つめる。
『お前が後ろに逸らすなんて珍しいな!』
黒田がボールを拾い、遊ぶのを辞めてこちらに歩いてきた。
「そんなに凄い球だったのか?」
「いやぁ、中学軟式上がりの割に良い球を放るんで、ビックリしただけですよ・・・」
(縫い目が見えなかった・・・)
ボールを受け取ると、赤川に視線を向け、ゴクリと唾を飲む。
「お前、何で公立にーーー
『お疲れ様でーす!!!』
白谷の声に被るように、若々しい声の挨拶が複数飛んできた。そちらを振り返ると、ジャージを着た1年生と思われる5人がグローブを片手に整列していた。
「赤川、お前も向こうに並べ」
黒田は後ろ手に指を刺す。
「はい!」
返事もそこそこに、彼がそちらに並ぶと、どこかで見た顔があり、声を上げる。
「あー!!」
『?』
「お前ら、あの時のジョギングしてた奴と俺を笑った彼氏の方!!」
『は?』
反応した2人は、背が高い筋肉質な男と性格の悪そうなメガネの男だった。
「誰だ、お前は」
「なっ・・・!」
「別に、女なんて星の数ほどいるし」
「あ!?」
背が高い男は赤川と目が合った時なんて覚えているはずもなく、性格の悪そうなメガネの男はヤレヤレと言ったジェスチャーで態度を露わにした。
「何だ、お前ら知り合いか?」
黒田の言葉に、背が高い音と性格の悪そうな眼鏡の男は首を横に振った。
「まぁ良いや、お前らとりあえず自己紹介しろ」
腕を組んだ黒田はまるで監督かのように振る舞い、1年生は赤川たちとは逆の方から自己紹介が始まった。その間赤川は2人を睨み、その当の本人らは素知らぬ顔で前を見ていた。
「次!」
と、明らかに赤川に掛けられた声に反応し、彼は自己紹介を大きな声でし始めた。
「は、はい!井馬田(いまだ)中学出身、赤川 陽介です!右投げ右打ち、ポジションはピッチャーやってました!宜しくお願いします!」
最初は吃(ども)ったものの、後半はスラスラと言えた事に後の2人にドヤ顔で示したが、2人とも興味が無さそうだった。
「次!」
そして背の高い男が自己紹介を始めた。
「はい、小野寺シニア出身、黄島 善晴(きじま よしはる)です。左投げ左打ち、ポジションはファースト。宜しくお願いします」
深々と頭を下げる黄島。その飄々(ひょうひょう)とした様子に赤川はムッとした。
「次!」
「はーい、青井 潤(あおい じゅん)でーす。右投げ左打ち、真壁シニアでショートやってましたー。宜しくお願いしまーす」
頭は下げず、目も合わせず、青井は軽いノリで自己紹介を済ました。それも気に食わないのか、わざとらしく歯を食いしばって見せる赤川は、この2人からはただならぬ空気を感じていた。
(小野寺シニアと真壁シニア・・・。2つとも地区代表に近いシニアチームだったよな・・・。何で公立に・・・?)
「よーし、これで新入生は全員だな?!実力を見るためにシートノックするぞー!2、3年も入れー!」
『はい!』
赤川や黄島、青井を初めとする6人は、黒田からのノックを受けるために、各々ポジションに着いた。
《Re:Union 第3話》へ続く。
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