第6話イジョウナニチジョウⅥ

「鈴村先輩が犯人なわけがないだろ!それに僕、私は!殺害方法だって知っているんだぞ。」 


「殺害方法を知っている。か、知っているだと犯人じゃないように聞こえるんだけどな。それに殺害方法についてはあらかた検討がついているよ。献血だろ。鈴村智弘は、献血で取っておいた花江瑠美の血を殺害後に撒き散らしたんだよ。」


 雲谷は続ける。


「確か花江瑠美の遺体は全身をズタズタに切り裂かれていたんだよな、なら体の前の方も切り裂かれていた筈だ。犯人の顔だって見ていると考えていい。犯人の顔を見た花江瑠美は、それが誰か伝えようとする筈だろ。」


「ダイイングメッセージ…」


 私の呟きを聞き雲谷はさらに続ける。


「そう。それを隠すため一度帰宅して花江瑠美の血液を入手し、米村と共にもう一度花江宅に行った。誤算だったのは、もう一度家に行く前に花江母と弟が帰宅してきたことだろう。」


 おかしい。その推理には穴がある。


「だったら、先に遺体を見ているお母さんと弟が血液の量が違うことに気づく筈だ。それに私と一緒にいたのだから血液を撒く時間なんてなかった筈だ。」


「それについては僕も聞きたいんだ。本当に米村は死体を見たのか?」


 何を言っている。


「本当に警察に連絡する前に米村は死体を見ているのかと聞いている。」


 確かあのとき、インターホン押しても返事がなくて、それでドアが空いてたから入ろうって先輩が…家の中に入ったら凄い匂いがして先輩が部屋の奥に走っていって、奥から私に電話しろって…


「見ていないんだな。」


 私の反応を見て雲谷が確信する。


「家族に関してもこんな姿を見せられないとでも言っておけば、血を撒いた後の死体を見せないことはできる。」


「母親に血液の量について聞いてないのか?」


「聞いているよ、報告書には多かったって答えたと書いてあるね。ただ、ズタズタに切り裂かれた死体を見たことある人なんていないからね。そりゃあ今まで見たどれよりも多い出血量だろうよ。血の準備については元医者の父親の勤務先だろうな。現在の勤務先はなんとか法人と言っていたが、赤十字社は、認可法人だからな。」


「血の、血の持ち運びは!どうやったんだよ。」


「楽器ケースだ。中に楽器を入れなければ大量の輸血パックを入れられる。」


「だけど、だけど!私の瑠美を好きだという気持ちは本物なんだよ!」


 私の叫びを聞き、ふぅーと雲谷が大きくいきは吐いた。


「そこなんだ。それを僕は米村に聞きたい。お前は、いったい誰に騙されて、花江を好きだと思い込んでいるんだ?」

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