第91話 最高のカップル

 それから俺はグラウンド、教室とヒナノがいそうな場所をくまなく捜索したけど……どこにも彼女の姿はなかったんだ。


「……くそっ」


 一体どこにいるんだ。もしかして家に帰ったのだろうか? ここまで探して見つからないのだから……その可能性は高いよな。


「……」


 ……でも。きっとまだいる。きっとどこかでマジックの練習をしているハズだ。


 これはただの俺の願望かもしれないけど……いつもヒナノが俺を信じてくれたように。俺だって最後までヒナノを信じ続けよう。


 そう決意した俺は、学校を飛び出した。


 ──


 それから俺はずっとずっと走って。辿り着いた場所は静かな川だった。


 覚えているだろうか。俺とヒナノが花火大会の場所を間違えて来て……そしてここで俺が告白をして、成功した場所。それがこの川、射瑠々川だ。


 ここは屋上とは違って、本当に俺とヒナノだけしか知らない秘密の場所。


 だからもしかしたらヒナノがいるんじゃないかなって。本当に僅かな望みで来てみたんだけど……


「……ふっ! ふうっ!」


 まさか……本当にいるとは思わないじゃんか。


 俺の目の前にはトランプを振り回した少女が1人、川辺に立っていた。どこからどう見ても……その少女はヒナノである。


「……」


 俺は声よりも先に……足が動いていた。


「んっ?」


 俺の気配を感じ取ったのだろう。ヒナノは手を止めて、こちらを振り向いた。


「わっ! えっ……しゅ、シュン君──!?」


 ──刹那、ヒナノの持っていたトランプが川辺に飛び散った。


 俺が彼女の身体を抱きしめていたのだ。


「ヒナノっ……ごめん。こめんなっ……!」


「えっ、シュン君……?」


「俺、ヒナノをきちんと受け止められずにいた。ヒナノの言葉から目を背けて……ずっと自分の閉じた世界で物事を考えていたよ……!」


「……」


「こんなに好きなのに……ヒナノのことを全部信じきれてなかったんだ。謝っても許されることじゃないのは分かってるけど……どうか謝らせてくれっ、ごめん……!」


 俺はそう言って、小さなヒナノの身体を更に強く。包み込んだ。


 そしたらヒナノは嫌がる素振りなんか見せずに。よしよしと、俺を慰めるように撫で返してくれたんだ。


 本当に情けないけど……それがとっても心地よくて。安心して。やっぱりヒナノがいないと俺はダメなんだって。再確認したんだ。


 それから長い時間抱き合っていたが、俺が落ち着いたと見るなりヒナノはゆっくり手を離して……俺の顔を見た。そしてポツリと。


「……良かった」


「えっ……?」


「シュン君が私の想いにちゃんと気付いてくれて、伝わって。本当に良かったよ!」


 そう言ってヒナノは優しく微笑んだ。そしてヒナノはさっき落としたトランプ……ハートのエースを手に取って。


「私ね、本気なんだ。またまた同じこと言うけど、シュン君の為なら好きな部活辞めるくらい……難しいマジックを手伝うくらい。ううん、もっとだよ。本当に何だってね、どんなこともやれちゃうんだよ?」


 そうやって言い切った。分かってはいたことだけど、ヒナノの中にある俺の存在は相当大きなものらしい。


「うん……嬉しい。とっても嬉しいけど……ヒナノはどうしてそこまで──」


「好きだから!」


「え」


「どうしようもないくらい、シュン君のことが好きだから!」


 ──それは。これ以上ないくらいに真っ直ぐで眩しい。ヒナノが俺に向けた、愛の言葉だった。


「重たい女の子って思われるかもしれないけどっ! いいの! それでもいいの! それくらいシュン君が好きなんだもん!」


「……」


 思わず俺は言葉を失う。


 もちろんヒナノにそうやって言われたのは、マジでめちゃくちゃ嬉しい。ただ……それと同じくらい驚き、困惑、恥ずかしさも同時に襲ってきたから……俺は何も言えずにいたのだ。


 そんな顔を赤らめたまま固まった俺を見かねたのか、ヒナノは。


「それに……こんなことを言うのは恥ずかしいから、あまり言いたくはないんだけど……シュン君だってそうでしょ?」


「え?」


「私が何か困ってたら。辛いことがあったら。手伝って欲しいことがあったら。自分の時間を使ってでも、絶対に助けてくれるでしょ? だって──」


 ヒナノはトランプで顔を隠すようにして……


「シュン君も私のことが大好きだもんね!」


 そのヒナノの自信満々の言いっぷりに、俺は思わず笑みをこぼしてしまう。


「あははっ……うん。そうだね! ヒナノの言う通りだよ!」


 そしたらつられたように、ヒナノも笑顔を浮かべて。


「うん! だから今は私が頑張る番! もちろん心配しなくても、すぐにシュン君が頑張る番が回ってくるから安心してね!」


「ああ! 分かった!」


 ああ……そうだ。俺達はお互いに支え合って、協力し合って、補って。こんな風に楽しくやっていく。そんな最高のカップルなのだ。


「よしヒナノ! もう時間が無いから、今からいけるとこまで一気に覚えてしまおう!」


「うん! 頑張るよ!」


 そうして仲直りを終えた俺達はまた、暗くなるまでマジックの練習を行ったのだった。

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