第83話 ヒナヒナ見てるー?
「いやぁー流石だね、あいのーん。こんなに弱った状態のウチを見ても全く手を出してこないしさー。逆にこっちが心配したよ?」
「お前なぁ……」
……それからまた少し時間が経って、俺らは病院の1階にあるレストランに来ていた。今は昼だし、せっかくだから俺もここで食べないか、と高円寺に誘われたんだが……
「いやー。これもヒナヒナの愛情のおかげですかねぇ? 羨ましいねぇ?」
「……」
か弱い乙女に戻ったかと思えば、すぐコレだ。はぁ……やはりこのふざけた高円寺も、素顔の一部なんだろうか。
……まぁ悔しいことに、それに安心している自分がいるのも確かなんだけど。
「……あ、パスタ来たよあいのーん!」
「ん、ああ」
そしたら俺が注文していたパスタが来た。普通に美味しそうな和風のキノコパスタだ。
「わー、うまそー。ねぇねぇ、ひと口……」
「ダメだ」
「むー。あいのーんのケチ。陰キャ。なのにマジシャン。オマケにロリコン」
「……喧嘩したいの?」
高円寺を睨みつつ、置かれたバスタに手をつけようとしたその時。『ピポパポン』と電話の音が俺のスマホから鳴り出した。
「ん、誰だ?」
どれどれ見てみると、委員長の名前が。あぁ……確かさっきもかけてきてたよな。何か俺に用でもあるのか?
まぁ……ここは電話使用可能の場所らしいし、とりあえず出てみよう。そう思った俺は応答ボタンを押し、スマホを耳に当てた。
「はい、もしもし?」
そしたら委員長のいつもの落ち着いた声が聞こえてきて。
「藍野。顔が見えないぞ」
「え? 電話なんだから当然でしょ……」
「違う違う、これはテレビ電話だ」
「えっ?」
言われてスマホの画面を顔の前に持ってくると、屋上から見える青空をバックに委員長とヒナノと草刈の姿が映っていた。
「うおっ、全員屋上に集まっているのか?」
「うん! 今は昼休みだから!」
ヒナノが画面の向こうで元気よく答えてくれる。ああ、画面越しでも癒しのオーラが伝わってくるよ……!
「雨宮のスマホの充電が切れたらしくてな。だから私ので電話してやっているんだが……雨宮がテレビ電話じゃなきゃ嫌だって、どーもうるさくてな」
「ちょ、ちょっと、委員長ってば!!」
焦っているヒナノもかわいいなぁ……そして今の俺の顔。すっげぇニヤけてるんだろうなぁ。
「それで藍野氏も画面を映すでござるよ。そっちの状況も知りたいでござる」
「状況つってもな……というか俺、そっちに映ってなかったの?」
「ええ、こっちの画面は真っ黒ですぞ」
さっきの顔が見られていなかったことに、俺は少し安堵する。まぁキリッとした顔に戻った今なら映してやってもいいんだが……
「これ……どうやってすれば映るんだ?」
「カメラ機能をオンにするのでござるよ」
「それが分からないから聞いているんだけどな……これか? いや、違うな……」
そうやって俺がスマホの画面をポチポチしてると、俺の機械オンチに痺れを切らしたのか、高円寺がこっちの席までやって来て。
「はぁ……ちょっとそれ貸して。ウチがやったげるから」
と。
「え、ああ、助かる」
俺は高円寺にスマホを手渡す……そしたら向こうの画面は何やらざわめきだして。
「……えっ? さっき高円寺氏の声がした気がするんでござるが」
「ははは。まさかそんなことはないだろ。それが本当なら、藍野は作戦を失敗したことになるんだからな」
どうしてコイツら綺麗なフラグを立てるんだよ。つーか忘れてたけど、アンタの電話で作戦失敗したんだからな。
……いや、ヒナノが委員長に頼んで電話したのなら、アレは実質ヒナノからの連絡……? それなら俺は許す! 完全に許した!!
「えーとここを押して、カメラを使えるようにして……っと」
「やっぱり心美ちゃんの声するよ?」
「ははは雨宮まで何を……」
委員長がそう言った瞬間、無事にカメラが作動したようで。
「あ、映ったよあいのーん」
小さな画面に、俺らの姿が現れた。
「……」
それに反して、画面の向こうのみんなは固まってしまった。どうやら電波状況が悪い……訳ではなさそうだ。
まぁ作戦失敗したってことが、高円寺映した時点で確定しちゃったからな。そんな表情になるのも無理はないけど……何とか言ってくれよ。
そしてその状況を瞬時に理解した高円寺は、まだ癖が治っていないのか、この場を和ませようとギャグを言い放つのだった。
「あっ……うえーい! ヒナヒナ見てるー? 今からあいのーんと一緒に……この細長いモノをチュルチュルしたいと思いまーす!」
「パスタ食うって言え馬鹿」
ギャグの内容はホントにマジで史上最悪なモノだったけど。
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