第66話 ギャルをたずねて三千ミリ
それで次の日。
俺が教室に入るなり、クラスメイトは一斉に視線をこっちに向けてきた。
何だ? どうしてそんな見詰めてくるんだ? 急に俺のモテ期でも来たと言うのか? やめてくれよ、俺には既に愛する人が……
「……」
いやまぁ……現実的に考えるとそんなの起こるわけなくて。どうせ俺の変な噂でも流されたんだろうな。
でも何も悪いことした覚えはないし、停学の件も結構ほとぼり冷めたハズなんだけどな。それなら……何なんだ?
気になった俺は、席で本を読んでいた委員長に声をかけてみたんだ。
「おはよう委員長」
「藍野か。何か用でもあるのか?」
「あっ、うん。あの……何かさっきからやたら視線を感じるんだけど。俺、何か変なことやったっけ?」
「はぁ……もう忘れたのか?」
「えっ?」
「昨日藍野、雨宮をお姫様抱っこしたじゃないか。あれ、このクラスだけでなくて他のクラスまで話題になってるらしいぞ」
「えっ、ええっ!?」
話題になっているなんて……そんな馬鹿な。
というか……そうか。『ヒナノと付き合っている』ことがバレたのは勉強会メンバーだけだったけど……
『お姫様抱っこ』の件は、もう全員に知れ渡っているのか……もうこれ、隠し通せる気がしないんだけど。
「それで……どんな風に話題になっているの?」
「それは知らん。自分でその辺の奴に聞いてみたらどうだ?」
「絶対嫌だ……というか無理だよ」
何かこうやって委員長とかと話していると忘れがちだけど、俺はコミュ障なんだよ。
本当に心が打ち解けていないと、こうやってマトモに会話が出来ないんだよ、俺は。
……ん? なら、あいつらのこと。俺は心を許しているってことになるなのか……?
「……話はそれだけか? それじゃあな」
「あっ、まっ、待って! それなら委員長が詳しく話を聞いてきてよ!」
「はぁ? どうして私がそんなことをしなきゃならんのだ。草刈にでも頼めばいいだろ」
「だってヒナノも草刈もまだ来てないし!」
「なら高円寺は来てるのか?」
「今日はあいつ遅刻だよ!」
俺は高円寺の法則に最近気付いた。
高円寺が時間通りに学校に来た次の日は、必ず遅刻をするということを……多分、この世で最も要らない情報だがな。
そして委員長は露骨に嫌そうな顔をする。
「はぁ……どうして藍野はそこまでして知りたがるんだ?」
「だって『話題になっている』ってとても怖い言葉なんだよ!? せめて良い話題か悪い話題になっているかを知りたいんだよ!」
「……つまりどういうことだ?」
「だから! 俺がヒナノをお姫様抱っこしたことで、『きゃーあんなに素早く助けるなんて、藍野君ってやっぱりかっこいいなぁー!』って話題になるのと『あの陰キャ、ヒナノちゃんに触れたよ……しかもあんな場所でお姫様抱っこなんてマジでありえないんだけど! 早く処刑しろ!!』って話題になるのは全く違うんだよ! 分かる!?」
「長い」
「あんたが説明しろって言ったんだろうがぁ!!」
聞いておいてそんな白けたような反応されるのは、普通に傷付くよ。
「ま、要するにプラスの話題かマイナスの話題かが知りたいってことか?」
「うん、そうそう。最悪それだけでも知りたいんだよ」
「……」
そしたら委員長は少しだけ考える仕草を取って……こう言った。
「仕方ないな……じゃあアレだ。マックのポテトのでかいの。あれを奢ってくれ」
「えっ? まぁ……いいけど」
それくらいなら別に構わないんだけど……何だろう。委員長ってこういう時、いつも奢ってもらおうとしてるよな。
もしかして節約家なのか、お金がないのか、それとも……ただ単にポテトにハマっただけなのか。
「あとナゲット」
「はいはい分かったよ……」
「それとテリヤキ……」
「いけるとこまでいこうとすんな!!」
委員長はどれだけ俺の財布のダイエットに協力してくれるんだ。それにメガ牛丼の件、俺はまだ忘れてないからな……
それで委員長は納得したのか。
「はぁ、仕方ないな……それで誰に聞けばいいんだ?」
「えっ? それは……」
あっ、そこまで考えていなかったや。
えっと、話題に食いつくのが好きで、それを拡散させる力を持っている人物と言えば……うん、この人しかいない!!
「……ギャルだ」
「殴っていいか?」
「何で! 俺は大真面目だよ!」
ギャルは……情報の収集力、拡散力、発言力……どれを取ってもトップクラスだ。しかも基本的に勉強以外のスペックが高い。
だから本当にクラスを支配しているのは、肩書きだけを持った委員長ではなくて……
「ギャルなんだよ」
「……」
委員長は冷酷な目付きで俺を睨みつけてくる……でも! 今度こそ! 俺はそんな圧なんかに負けない……よ……よ。
「……」
「てっ……てりやきバーガーも付けます」
「よし」
よしじゃねぇよ。つーかそっちが狙いだったのかよ。
「しかし、このクラスにいるギャルって一体誰なんだ?」
「それは委員長の方が詳しいでしょ。女子なんだし……それとも俺みたいに、友達作るの苦手だったりするの?」
俺がそう言うと、委員長はいつもの冷静な喋り方とはまた違った、人を見下すような喋り方で答えるのだった。
「ふん……そもそも私はそんな人とつるむのが好きではないんだ。それに、謎のSNSでダンス動画を撮っているような、知能の低そうな連中の仲間にはなりたくはないな」
「偏見が過ぎるよ委員長……」
というか今更だけど……この高校。マジ校の偏差値はそこまで高くはない。
だから委員長の言ったような、ちょっと頭の足りない人は実際、いるにはいるんだ……文化祭の道具壊したカス共とかな。
それなら一層、委員長がこの学校に通っているのが謎なんだけどな……
「まぁいい。とりあえず、あそこに座っているおさげの子に話を聞いてみよう」
「……ん?」
いやおさげって、ギャルから1番遠い髪型じゃないか? いや、女子の髪型とか詳しく知らないから分からんけどさ。
そして委員長を止める間もなく、そのおさげの子の席まで歩いていく。
そして……その子の目の前に立った委員長はその子に向かって、こう尋ねたのだった。
「……君がギャルで間違いないか?」
「………………え、えっ?」
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