陰キャ兼天才マジシャンの少年、隣の席の元気っ子美少女に懐かれてしまう

第65話 超人気美少女と付き合うということ

　そして高円寺は電池の切れかかったおもちゃのように、同じ言葉を何度も繰り返す。

「あばばばばばば。あっありありありありえない」

「心美ちゃん……？ どうしちゃったの？」

「ままままさかヒナヒナが、こっ、こんなの選ぶなんて……！ ヒナヒナならこんなのより、100倍いい男捕まえられるのにっ……！」

「……」

　普通に失礼なこと言ってるけど……実際マジでその通りなので、俺は何も言い返すことが出来なかった。

　……というか高円寺ってさ、俺がヒナノのことが好きだってこと知ってたよな。それなら、俺がヒナノに告白するってことも容易に想像出来たはずだ。

　それなのにここまで驚いているってことは……俺の告白が成功するなんて、これっぽっちも思ってなかったってことだよな……なんか普通に腹立ってきたぞ。

　そんな俺の怒りゲージが徐々に溜まっている間……ヒナノは高円寺に向かってこう言ったんだ。

「こっ、心美ちゃん！ 流石にそれは言い過ぎだよ……！ いくら私でも……おっ、怒るよ……？」

「えっ、そっ、そんな！？」

「……」

　そしてヒナノの無言の視線に耐えきれなくなった高円寺は、ブルブルと震えた手を握りしめて……小さく頭を下げて謝るのだった。

「……ぐっ。ごっ、ご……ごめんなさい……！」

　どうしてお前はそんな悔しそうなんだよ。そんなに俺が気に食わないのかよ。

　そんな中、委員長が俺に話しかけてくる。

「しかし……ここまでお前達が進んでいたとはな。私の知ったことではないが……藍野。夜道とかには気を付けた方がいいんしゃないか？」

　ん……なんか物騒なワードが聞こえてきたよ？

「えっと……つまり？」

　そしたら委員長は腕を組んで……

「雨宮はクラスで……いや、学年で1、2を争う程の人気者なのは当然知ってるだろ？ だから雨宮の熱狂的ファンも数多く存在している」

「……あっ」

「だから、雨宮が彼氏持ち……しかもその相手が、停学という前科持ちの藍野だと知られたら……一体、どうなってしまうんだろうな？」

　委員長は珍しく、頬を緩ませてそう言った……いやいや。それ全然面白くないって！！

「あぁ……怖くなってきた」

「しかもさっきの『お姫様抱っこ』の件もあるしな。フフっ、バレるのは時間の問題だろうな」

「やっ、やめてくれよ……！！」

　確かに……俺達の関係が他の生徒に知れ渡ったら、俺は当然のこと。ヒナノも嫌がらせの被害に遭ってしまうかもしれない。

　それだけは絶対に避けたい。だからこれからは……今まで以上に、校内でヒナノと接触するのは、慎重にならなきゃいけないんだ。

「まぁ私は黙っててやるが……そこの2人はどうだろうな？」

「えっ？」

　その言葉で、俺とヒナノは同時に高円寺と草刈の方を見た。

「……」

「……」

　両方とも、死んだ魚のような目をしていた。

　えっと……きっと今は2人ともびっくりしていて、正気じゃないだけで。TRPGっぽく言うなら一時的狂気の状態になってるから、こんなことになってるワケで。

　普段はとーっても優しい人だから、そんな言いふらしたりするようなマネはしないよね……？ マジでしないよね……？

「心美ちゃん……？」

　何も言わなくなった高円寺を心配しているのか、ヒナノは高円寺の正面に立った。そして。

「えっと、いきなり『付き合ってる』なんて言ったら驚くのは当たり前だよね。心美ちゃん、まだびっくりしてるよね……」

「……いいの」

「えっ？」

「うっ……ウチは。ウチはヒナヒナが幸せなら……！ それでいいの！ ヒナヒナが選んだ相手があいのーんなら！ ウチはもう何も言わないよ！！」

　……さっき思いっきり言ってたけどな。

「うん。ありがとね！ 心美ちゃん！」

　そしてヒナノは……高円寺にハグをした。

「あぁ……ヒナヒナの腕の中。ふわふわしてて気持ちいよぉ…………だけど」

「だけど？」

「あいのーんがこのヒナヒナのいい匂いを何回も味わっているという事実が、とてもとても恨めしいよ」

「……」

　何も言わないんじゃなかったのかお前。

　というか俺、ヒナノに抱きしめられたことなんて1度も…………いや、1回だけあったっけ。

　停学中に行った文化祭の日。あの時ヒナノは、泣きながら俺のことを抱きしめたんだよな……

　……ヒナノは。あの時から、俺のことを好きでいてくれたんだろうか？

　そしてヒナノは若干困ったように、高円寺に向かってこう言った。

「え、えっと……心美ちゃんなら私、いつでも抱きしめてあげるよ！」

「えっ、本当に！？ わぁーいヒナヒナ大好きー！」

　そしてまたギュッと抱きしめてもらった高円寺は横目で。

「……へっ」

　俺を見た……まさか見せつけているつもりなのか？

　つーか何で高円寺は俺を敵視してんだよ。ここまできたなら仲良くやろうって。

「……」

　そして……次は俺のターンみたいだな。俺は死んだ目をした草刈に近付いて声をかけた。

「なぁ、草刈君も協力してくれないか？」

「……藍野氏は。本当に童貞なのでござるか？」

「……」

　まだ言ってたよこいつ。どんだけ気になってんだよ。女子もここにいるっていうのに……でも草刈を説得するには、会話を続けなければならない……！

「ああそうだよ。俺は童貞だ……今のところはね」

「……！？」

　そう答えると、草刈と一緒に女子組の肩が揺れた。どうやら言葉のチョイスを完全に間違えたみたいだけど……ここで後悔しても仕方ない。

　俺は進むしかないんだ……！ 俺は止まるワケには……いかねぇんだ！！

「いっ……！？ 今のところというのは……！？」

「それよりっ！ 草刈君は！ 俺が童貞じゃなくなってしまったら、友達ではいられないのか！？」

「むむ、それは……」

「違うだろ！ 俺達はズッ友だろ！？ 童貞かそうじゃないかなんて、そんなのッ……そんなの、些細なことじゃないかっ！！」

　俺は何を言ってんだ？

「そう……で、ござるね。藍野氏の言う通りですな。我が間違ってたでござるよ！」

　それで何で説得されてんだ？

「ああ、目が覚めたでござる。我も、2人の交際を全力で応援するでござるよ！ もちろん、誰にも他言はしないですぞ！」

「あっ、ああ。ありがとう、草刈君」

　ま、まぁともかく……俺の謎のパッションが伝わったみたいで、草刈も納得してもらえたよ。はぁ、良かった良かった……

「……ねぇ、ヒナヒナ。やっぱりあんな人と付き合うのはやめといた方がいいんじゃない？ まだ間に合うよ？」

「同感だ……藍野は檻の外に出てはいけないタイプの人間かもしれん」

「……」

　それを代償に……女子達の好感度は馬鹿みたいに下がってしまったけども。