第37話 魂が……ぬけるぅ〜

 ……そして最後に俺は、今1番気になっていたことをヒナノに尋ねるのだった。


「……それでヒナノ。高円寺が提案した勝負についてだけど……どうしてアレに賛成したんだ? 俺達が委員長に勝てる可能性は限りなく低いのに……」


 俺がそこまで言うと、ヒナノは素直に答えてくれた。


「えっとね。それは分かってるけど……でも、お願いごとを聞いてもらえるかもって思ったら。私もチャレンジしてみたくなっちゃって!」


「ああ、そうなのか」


 理由は分かったけれど……ヒナノは、そこまでしてまで叶えたい願いがあるのか?


「んー。それならシュン君は? 何か叶えたいお願いごとってあるの?」


「俺?」


 俺の願いか……うーんそうだな。今の生活は結構楽しいし……別にわざわざお願いするようなことはないかな……いや、でもな。


 ちょっと贅沢を言っていいのなら……ヒナノと2人で遊んだり。遠くに出かけたり。食事をしたり。そーんな何気ないことがやってみたいな……なーんて……


「ふふっ、考えてる考えてる。何かお願いごと、思い付いた?」


「え、えっと……」


 流石に恥ずかしくて、ヒナノ本人には言えないけどね……まだ、みんなの前とかだったら、ふざけた感じで言えるかもしれないけど……


「あっ、そうだ! もし2人のどっちかがさ、1番を取れたらさ……みんなの前では嘘のお願いごとをしようよ!」


「嘘?」


「うん! 嘘というか、2番目に叶えたいお願いごとをするの! それで……それが終わったら、私とシュン君。どっちか1位を取った方が、本当のお願いごとを教えて……相手に叶えてもらうの!」


「なるほど、面白そうだ」


 2人だけしか知らないお願いごとなんて、何かいいな。ロマンチックというか、何というか。


「でも……それってさ、俺が叶えられるようなお願いなの?」


「ええっと……うん! シュン君に叶えられる、ということだけは教えておくよ! シュン君は?」


「……うん。俺のお願いも、ヒナノになら叶えられると思うよ」


 というかまぁ……ヒナノにしか叶えられないんですけどね。


「そっか! じゃあ……お互いに頑張ろうね!」


「うん。頑張ろう」


 2人だけの約束を交わした俺達は、暗くなるまで教室に残って勉強を続けたのだった。


 ──


 それから俺は1位を取るために、必死に現代文を勉強をした。でも勉強の仕方がマジで分からなかったので……結局草刈の勉強法を真似してしまった。不覚。


 それでもちろん自分の声は聞きたくないので、機械音声で読んでくれるソフトを使って、教科書の内容を読ませてみたが……何か腹立つな。これ。


 そしてその音声をひたすら垂れ流し続けながら、漢字を書き続け……無心で問題を解きまくるのだった。


 ──


 ……そして迎えたテスト当日。別に特筆することがなかったので、結果だけ言おう。


 まぁーー結構解けた!!!!


 ──


 そんでそれから1週間くらい経過した。


 そして今日はテスト明け、初めての現代文の時間だ。つまり今日で……この中から勝者が決まる。


「あいのーん、今の気持ちは?」


「まぁ普通かな……どうなるか分からないからさ」


「ほうほう」


 そんな感じでスカして言ったけど……自信ありまくりだ。俺がどれだけ棒読みの音声聴いたと思ってんだ。狂いそうになったんだぞ。


 それで……この中で敵になるのは委員長くらいだろう。だから委員長の点数で、俺の勝敗が決まる……という訳だ。やってやろうじゃねぇか……!


「あっ、先生来たよ! 席、戻らなきゃ!」


 ヒナノの声で、俺達は自分の席へと戻るのだった。


 ──


 そして授業の最初にテスト返却が行われた。当然、出席番号順に呼ばれるから、俺が最初に受け取ることが出来る……こういうとこは1番の特権だな。


 俺はテストを受け取って……点数を確認した。そこにかかれていた数字は…………!


 94。94点だった。


 まぁ……まぁまぁまぁ。許容範囲内。ワンチャン100点狙ってたけど……上出来だ。これなら誰にも負ける訳が無い……!!


 俺は委員長に向かって「やってやったぞ」とアイコンタクトを取ろうとした。


「……」


 でも気付いてくれなかった。悲しい。


 そしてテスト返却は進んで行き、出席番号順。ヒナノ、草刈、高円寺と受け取っていく。俺は席から眺めていたが……誰1人として、喜んだ顔をした者はいなかった。


 これは……貰ったな! ガハハ。


 そして委員長も受け取りに行く……どうだ。どうだ……!?


「……」


 すると教師はテストをテンポ良く返していたのだが……委員長の番になった瞬間に、手を止めたのだった。


 何だ……何が起こるんだ!?


 そして教師は口を開く…………


「えーっと二宮さん。貴方はこの学年でたった1人の満点獲得者です。誇って良いですよ!」


「……ありがとうございます」


 そしてクラスは拍手喝采。


「…………………………」










 ああ。ああ〜。おれのどりょくって……いったいなんだったんだぁ…………?


「シュン君、魂抜けてるよ……」

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