第3章 キラキラの夏編

第30話 『ていがく』があけるよ! よかったね!

「あー。ヤダ。ヤダヤダ。ヤダヤダヤダヤダ。行きたくない。学校に…………行きたくない!!!」


 停学と言われてから、今日で2週間経った。つまり……今日で学校に行く権利が戻ってきます。


 わー! やったね!! よかったね!!おれくん……!!


「何て言うと思ったか……死ぬほど行きたくねぇよ」


 今なら少しだけ高円寺の気持ちが分かるかもしれねぇ……ここまで学校が苦痛なモノだったとは……!!


 ……ああー。まだ俺が文化祭のやつをぶっ壊したと思ってる奴もいるだろうし……絶対白い目で見られるよー。


 そんで授業も進んでんだろうな……もう訳わかんねぇ単元まで進んでんだろうな……停学をイジってくる教師もいるだろうな……


 あー。くそ。このままだと行かない理由しか探さねぇや……もう休もうかな。自主的に停学伸ばそうかな!? ああ!! いい案だ!! そうしよう!!!


『ピポパピポポン』


「うわぁ!! 何!?」


『ピポパピポポン』


 どうやら……俺のスマホから流れている音楽らしい。もしかしてこれって着信音……? 電話?


 俺に電話してくる奴なんて、間違え電話か……ヒナノくらいじゃ……ん? ヒナノ……えっ、ヒナノ!?


 急いでスマホを取り上げると……そこには。予想通り、あの天使の名前が。


 嘘、うそうそうそうそ!?!!??!


 どどどどどうやって出るのこれ!? スライドで取る……? 何それ、マジック用語!? 赤と緑!? 爆弾解除!? どっち!?


 そんな慣れない手つきで俺がスマホをイジっていると……どうやら無事に電話に出れたようで。


「あっ、もしもーし。シュン君?」


 エンジェルボイスが。耳元に。


「えっ、あっ、は、はい! 隼也です!」


「あはは、そんなに慌ててどうしたの? もしかして今起きたの?」


「えっ……うん! そう! そうなの!」


 本当はずっと前から……何なら深夜から反抗心でずっと起きていたのだが……そんなん言う訳ないだろ。


「ふふっ。シュン君、今日からなんだからしっかりしなきゃダメだよ?」


「そっ、そうだね……!」


「うん。それじゃあ私、今から家を出るから……また学校で会おうねー?」


「あっ……うん!」


「じゃ、またねー」


 ……そう言って電話は切れてしまった。何……何だったんだ!? モーニングコールか!? ホテルか!?


 いやいや落ち着け……落ち着け俺。ヒナノは俺が遅刻をしないように、わざわざ電話をかけてくれたんだ。ただ、それだけなんだ。


 ……いや、それだけって言うけど……これすげぇことだぞ!? あのクラス1の美少女からモーニングコール頂くなんて!!


 一生自慢出来るぞ!? 草刈に自慢しよ!! そして会ってヒナノにお礼を言わなくちゃ…………って。


 まさかそれがヒナノの狙いだったのか? いや……もうそんなのどうだっていい。とにかく今の俺がすべきことは……


「学校に行くぞっ!」


 ──


「あー。ヤダ。ヤダヤダ。やっぱ怖い。怖いよ」


 結構、俺は無事に学校に辿り着くことが出来たのだが……教室の扉を開く想像をして、また怖がっていた。


 ああ……一斉にこっち向かれんのかな。コソコソなんか言われたりすんのかな。


 ……ならこっそり入ってしまえば。でもそうなったら草刈や高円寺(来てたら)が反応してしまうかもしれない。


 それにいくらクソ共が消えたからと言って、俺は目立ちたくないんだ……


 だからと言って「ういーっす(笑)」みたいな感じでウケを狙って入るのは……絶対に嫌だ。キャラに反する。そして目立つ。


 そんなあーだこーだ考えている内に……ついに教室の前まで辿り着いてしまった。


 クソっ……この変哲もない扉が、校長室の扉並のプレッシャーを放ってきやがる……


 でも。行くしかない。ヒナノと約束したもんな……!よし、行けっ! 頑張れ俺っ!


 勇気を振り絞って、俺は扉を開いた……瞬間。


『バァン!!!!』


 俺の鼓膜に爆音が炸裂した。


「うわぁっ!!!?」


 情けない叫び声を上げつつ……耳に塞いでいた手を離して、恐る恐る正面を向くと……


「復活おめでとう!!」


 被り物を被ったヒナノや高円寺、委員長や草刈達が……クラッカー片手に立っていた。何だ……何だこれは!?


 そんな訳が分からない状態でいると……草刈が。


「復活おめでとうでござる、藍野氏!」


「ふ、復活?」


 続けて委員長も。


「元気だったか藍野」


「えっ、いや元気ですけど……何ですかその格好」


 そして高円寺が前に割り込んで。


「だからー、みんなはあいのーんの停学明けを祝ってるんだよ! とっても幸せ者だねー?」


「えっ……おっ、俺を?」


 最後にヒナノが。


「うん! みんなで祝おうって言ったらさ、みんな二つ返事で協力してくれたんだよ!」


 と、笑顔でそう言ったのだ。ということはまさか、この演出はヒナノが提案したのか……?


 それに気が付いた俺は、思わず笑ってしまった。


  ははっ。驚かせる側の俺が、またヒナノに驚かされてしまうとはな…………でもまぁ。



 悪い気はしない。


「……あ、ありがとう。ヒナノ」


「ふふっ! どういたしまして!」

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