第31話 みんなでやろうよ勉強会

 そんなわけで……俺はいつもの平穏な学校生活に戻ったんだけど。


「……で、こうであるから習ったこの公式を使って」


「……」


「……と。なりますね。分かりましたか?」


 授業がバリバリ進んでいた。まぁ2週間って結構あるからそりゃ進むよね。待っててなんてくれないよ。


 それに俺、停学中はゲームばかりで全く勉強してなかったもんな……これは自業自得か。


「それでは教科書の問題をやります。今日は11日だから……1番の藍野君、前にどうぞ」


 何でだよ。11番は来てないの?


「えっと……すみません。分かりません」


「え? ……ああ、そうでした。藍野君は停学だったですもんね」


「……」


 お願いだからオブラートに包んでくれよ……何か俺が悪いことしたみたいじゃんか……いや、したけどさ。


「それなら二宮さん。前にお願いします」


「はい」


 そしたら俺の代わりに委員長が指名された。そういや委員長とか頭良さそうだよな……なんて思っていると。


「……」


 隣の席から、丁寧に折りたたまれた紙を渡された。すぐにその紙を広げてみると……


『シュン君授業分かる? よかったら、休んでいた間のノート貸そうか?』


 可愛らしい文字で、そう書かれてあった。


 あぁ……なんていい子なんだ。今すぐ抱きしめていいですか? ダメ? ダメか。そうか。何でだ。法律か。


「……」


 とりあえず返事を書こう。


『ありがとう。でも今じゃなくて、授業終わってからでいいよ』


 ……よし。俺はそう書いた紙を、隣に渡した。そしてそれを見たヒナノは。


 何も言わずに、ニコッと優しく微笑んだ。


 あ〜かわい〜い。


 ──


 放課後の屋上。


「はいっ! どうぞシュン君!」


「ありがとう、ヒナノ」


 俺はヒナノからノートを貸してもらっていた。早速試しにパラパラとめくってみる……おお、凄く丁寧に書かれている。


「ヒナノの字ってキレーだよな。凄い読みやすい」


「ほ、本当?」


「ホントホント。とっても綺麗」


「……嬉しいな」


 ……そんな平和な時間を過ごしていた時。


「あー!! あいのーんがヒナヒナを口説いてまーす!!!」


 悪魔の声が。


「うわぁ……どうするヒナノ?」


「…………開けてあげようよ。可哀想だし……」


 そう言っている割には、ヒナノも俺と似たような目をしていたんだけど。


 そしてゆっくりとヒナノが扉を開くと……毎度お馴染み高円寺が、インスタントカメラ片手に現れた。


「……何それ」


「え? カメラだけど……もしかしてカメラ、ご存知ない?」


 カメラ知らん訳ないだろ。俺のこと原始人か何かだと勘違いしてる?


「何で持ってるんだって聞いてんだ」


「これ、写真部のやつ。借りているんだ」


「ふーん、お前写真部なのか」


「いや? 違うけど?」


「……」


 ホント何だよコイツは……普通の会話をさせてくれ。お願いだから。


「……で、何しに来たの?」


「えっとねー。ウチ、屋上の扉に耳をくっ付けるのが趣味なんだけどさー」


「……」


 まぁ随分とご立派なご趣味をお持ちのようで……


「たまたま、あいのーんの『ヒナノ……綺麗だよ』って口説いてる声がしたから、ヤバいと思って叫んだの!」


「何だヤバいって! あとそれは誤解だから!」


 俺は高円寺へと必死に弁明する……するとヒナノも手伝ってくれて。


「そうなの心美ちゃん、シュン君は私の字を褒めてくれただけなんだよ?」


 そしたらヒナノの言うことは素直に信じるのか、高円寺はヒナノの手を握って。


「あーそうだったの! ならごめんね? 2人きりの時間を邪魔しちゃって!」


「……ううん。そんなことないよ!」


 ん……? 何だ今の間は?


 そして高円寺は俺ら2人を見てくる。


「それでそれでお2人さん。話は変わるけど……期末テストの自信ってあります?」


「まぁ……ないけど。停学だったし」


「私も自信はないかな……」


 そう俺達が言うと、その答えを待ってたとでも言うように高円寺はグイッと近付いて……こんな提案をしてきたのだった。


「そっか! それならさ……みんなで勉強会をやらない?」

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