第8話 秘密の暗号
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と、まぁそんな訳で俺とヒナノの変な関係が生まれたのだ。
教室内ではほとんど会話はしないが、放課後は毎日のように屋上でマジックショーを2人だけで行う……そんな関係。本当に謎だな。
時々、ショーの準備が面倒だと思ってしまう日もあるけれど……マジックを見せた後のヒナノの驚いた顔を見ると、疲れなんか吹き飛んでしまう。
なんか娘の為に仕事を頑張るお父さんの気持ちが、少しだけ分かった気がするよ。
……で。それから1か月くらい。ヒナノ相手ならば、持ち前のコミュ障を発揮しなくなった頃。
ヒナノにとある提案をしてみようと考えていた。
俺は屋上の中央で創作ダンスらしき動きをしている、ヒナノに声をかけた。
「なぁなぁヒナノ」
「ん、どうしたの?」
「俺たちいつもこっそり話をして、今日は屋上に来るかどうかを決めているけどさ」
「うん」
「これって明らかに怪しいよね」
俺は前から、この関係が他の人にバレてしまうことを危惧していたのだ。
「んー。私たちが話しているのを見られるくらい、別にいいんじゃないの?」
その一方でヒナノはあんまり気にしていないらしい。俺としてはもう少し徹底して欲しいんだけどな……
「いや、まぁそうかもしれないけど。でも誰かに聞かれて、屋上にいるのがバレたら……このマジックショーが続けられなくなっちゃうんだよ」
「えっ、それは困るよー!」
「うん、だから……こんなのを持ってきたんだ」
それで本題。俺は箱に入ったトランプをポケットから取り出した。
「それってトランプ?」
「そうだよ。そしてこれが……」
言いつつ俺は手をスライドさせて、1つだと思わせていたトランプの後ろから、もう1セットのトランプをバッと出現させた。
「2セットある」
「わっ! スゴい!」
やはり彼女はいい反応をしてくれるなぁ。そしてこのトランプの箱の1つを、ヒナノに手渡した。
「えっ? 貰っていいの?」
「うん。これからはコイツで、屋上に集合するかどうかを決めようと思ってね」
「え、どういうこと?」
「このトランプに、俺らだけにしか伝わらない意味を持たせるんだ。いわゆる……秘密の暗号」
「秘密の……暗号!?」
繰り返さなくていいから。何か恥ずかしくなっちゃうから。それを誤魔化すかのように、慣れた手つきでトランプの箱を開けながら俺は言った。
「まぁ……例えば。このハートのエース。これに『屋上』という意味を持たせよう」
「むむっ……?」
「そしてこれの後ろに絵柄は何でもいいから、時間を示すカードを付ける。例えば12時ならこのクイーンのカードをね」
俺は言ったカード2枚のカードをヒナノに見せる。
「すると……」
「すると?」
「『屋上に12時集合』という俺たちだけに伝わる隠しメッセージが出来上がるワケだよ」
ヒナノは一瞬だけ固まった後にピンときたのか、手をポンと叩く。
「……あー! なるほどー! 面白いね! ……けど」
「けど?」
「スマホ使えばいいんじゃない?」
……うーん正論すぎる。でもそれに対する反論も、一応考えてきているのだ。
「でもほら、ウチの学校は校則でスマホ禁止じゃん。だからそれは危険じゃないかな?」
「ああー。そう言えばそうだね!」
まぁ……トイレとかでスマホを使えば、別にバレることはないんだろうけど。
でも! せっかくこのトランプ用意したんだから、どうしても使いたいじゃないか!
それで……ヒナノも納得? してくれたようで。箱を掲げて俺に尋ねてきた。
「んーじゃあ……このトランプはどこに置いとくの?」
「それはお互いの机の中とか……下駄箱とかかな。もちろん誰にも気付かれなよう、こっそりね」
「なるほどー。何だかスパイ映画みたいだね! ワクワクするよ!」
……俺がこれを思い付いた時は、ヒナノ以上にワクワクしていたけどね。
「それじゃあ……明日からこれを使おう」
「うん! ありがとね、シュン君!」
「ああ」
──
それで次の日の放課後。俺が帰ろうと思い下駄箱をパカッと開くと、外靴の上にトランプが置いてあった。
早速使ってくれてるのか、と嬉しがりつつトランプを手に取った……そして見てみるとそれは『ハートのエース』と『ダイヤの5』であった。
ダイヤの5……5か。なら屋上に5時集合ってことか…………って。
「5時!?」
バッと腕時計を目の前に出すと、針は5時28分を刺していた。
……しまった。30分は遅れている!
放課後、図書室に寄って本を読んでいたからこんな時間になってしまったんだ……!
マズイマズイ、とにかく急がなきゃ!
慌てて俺は来た道を戻って……階段を2段飛ばしで駆け上がるのだった。
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