第12話 記憶2
『闇』寄りは、術者の中でも、極わずかだが生徒会役員に三人いるのである。
クリスティン、アドレー、ラムゼイだ。
「折角ですし、クリスティン様も占いますよ。生徒会の皆様も、記憶を消すだけではなく、実際に一つ占いました」
クリスティンは占ってもらうのを楽しみにしていたので、どきどきとする。
「はい、ぜひ」
「どういったことを、お知りになりたいですか? おひとつ、おっしゃってください。余り長くあなたと二人で個室にいて、問題になってもいけませんので」
クリスティンは迷った。
気になることが二つあったから。
どちらを占ってもらおう?
この先の未来と、メルとの恋。
するとオリヴァーは、両手を組み合わせた。
「今回はひとつですが、また違う機会に、占いますよ。そのときお時間があれば、いくらでもね」
オリヴァーはくすっと笑う。
「ありがとうございます」
クリスティンは占ってもらうのは今ではなくてもいいと思った。ルーカスが話していた、パワーを使うのだと。
「恋について? 女性の場合はそれが多いですし」
「いえ、また次で。今回はいいですわ」
彼に負担をかけられなかった。皆からクリスティンの言葉の記憶を消すのも、力を使わせてしまっただろう。
(でも、どうやったのかしらね?)
「記憶、どのように消されたの?」
「一種の催眠術です」
「催眠術……?」
「ええ。害はないので、大丈夫ですよ」
彼は指を組み替える。
「今占います。占いたいことをおっしゃってください」
「よろしいの?」
「もちろんです」
「ではお願いしようかしら……」
「どうぞ。メルとの恋について?」
「いいえ」
彼は瞬く。
「では、何を?」
メルとの恋は、重要なことだけれど、大問題は将来のことなのである。
クリスティンは悪役令嬢。
惨殺や、孤島送りなど、恐怖の強制イベントが今後控えているかもしれない。
メルや周囲をそれに巻き込んでしまうのは絶対に避けたい。
「わたくし、悪役……いえ。将来について知りたいです。平穏に過ごせるのかどうか。具体的に申し上げますと、惨殺や孤島送りがあるのかないのか。どうでしょう!?」
「…………え?」
目を点にするオリヴァーに、クリスティンは言い換えた。
「……知りたいのは今後平穏に過ごせるかどうか、ですわ。占っていただけます?」
彼は呆気に取られつつ、クリスティンに手を差し出した。
「……わかりました。占いましょう。手を握ってもらえますか?」
彼の手を握りしめる。
すると、オリヴァーはしばらく押し黙った。
「──クリスティン様。あなたは性格もですが、とても変わったオーラだ……。波乱万丈な人生になります」
「波乱万丈っ!?」
「平穏とはほど遠いようです」
クリスティンは青ざめる。
心から望む平穏。それとはほど遠い……?
(惨殺や孤島送りも、あるかもしれないの?)
そうだ、と言われれば、正気を保てる自信がない。
(こ、これはただの占い……!)
そう言い聞かせる。
的中率が高いといっていたが……あくまでも占いだ。
しかし……恐ろしいが、やはり詳しく知りたい……。
知っていれば、対処もできる。
「よければ、未来についてもっと詳しくみてみましょうか?」
「よろしくお願いしますわ……!」
クリスティンは覚悟し、こくっと喉を鳴らす。
「では目を閉じていただけますか」
クリスティンは瞼をおろした。
オリヴァーはクリスティンにはわからない言語を紡ぐ。
額に手を置かれ、一瞬、意識が飛んだ気がした。
「──クリスティン様、目を開けてください」
おそるおそる瞼を持ち上げる。
「申し訳ありません。あなたの未来について、詳しくみえませんでした」
オリヴァーはスカイブルーの瞳を静かに光らせ、小さく首を振った。
(みえない!?)
「それはわたくしの未来は、ひょっとして、ないのですか!?」
ゲームの強制力により、死亡っ!?
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