第2話 親友と訪問

 ラムゼイは『大地』。

 他に『水』、『炎』、『風』魔力があった。

 

 術者は皆、『暗』寄りか、『明』寄りとなる。

 クリスティンは『暗』寄りと言っているが、実は魂を穢しやすい『闇』寄りだ。

『星』の『闇』寄りとなれば、虚弱体質になりやすい。


 だがファネル公爵家はその事実を隠している。

 王家は把握した上で、婚約を決めた。

『星』術者は貴重だからだ。


 ほかに『花』魔力があるが、現在『花』術者は存在していない。

 いわゆる伝説の魔力である。

 

 術者は十五歳から十八歳までの間、全寮制の魔術学園で学ぶことになる。

 

 

 

 ラムゼイとの剣合わせを終え、汗を拭って王宮の庭園を歩いていれば、視線を感じた。


「王太子殿下と、氷の貴公子ラムゼイ様だわ……!」

「王太子殿下も素敵だけれど、ラムゼイ様のクールな美しさもいい……」

「お二人とも水も滴る美少年だから、並ぶと迫力ね……」


 王宮の侍女が熱い眼差しで、何やら話している。

 アドレーは慣れているし、気にならないが、ラムゼイは侮蔑の眼差しを彼女たちに投げた。


「うるさくて、鬱陶しいな。女ってやつは」

 

 親友は誰に対しても辛らつだ。アドレーは苦笑いする。


「おまえの婚約者クリスティン・ファネルも、高慢で性根に難がある。王太子の伴侶として、ふさわしい相手とは思えん。今からでも、婚約をやめることはできないのか?」


 本気で言っているわけではないだろう。

 しかし親友は、クリスティンをよく思っていなかった。


「もう決まったからね」

 

 アドレーは肩を竦める。

 望んでの婚約ではない。相手は自分で決めたかったという気持ちはある。

 クリスティンに興味はないし、彼女のわがままなところは、正直困っている。

 

 だが貴族社会において、エヴァット公爵家と権力を二分する、有力なファネル公爵家を敵に回す気はない。


「明日の朝の予定がちょうど空いたし、彼女の家に、お見舞いに行こうと思ってる。倒れたあと会ってないから」


 ラムゼイは呆れたように天を仰いだ。


「おまえ、本当マメで優しいな……。興味のない婚約者を気にかけて。あんな高慢なわがまま娘……」

「私の婚約者だ。あまりなことを言うのはやめてくれ」


 口の悪い親友を諫める。

 特別な感情を抱いていなくても、婚約者を心配するのは当然のことだ。

 彼女を無下に扱う気はなかった。大切にする。

 それに、心細そうにアドレーの名を呼んでいたクリスティンのことが、気になっている。


「オレも一緒に行って、一言、あの娘に釘を刺してやろう」

「ついて来るなら、釘を刺すとかではなく、倒れた彼女に、ちゃんと気を配って、あたたかい言葉をかけてあげてくれ」

 

 アドレーは嘆息した。

 親友は悪い人間ではないが、冷血で皮肉屋なのだ。

 気に食わない者に対しては、特にそうだった。



◇◇◇◇◇

 

 

 翌朝、アドレーはラムゼイと共に公爵家を訪れた。

 するとクリスティンは、庭で近侍のメル・グレンと共に歩いていた。

 非常に簡素なズボン姿で。


「…………」


 アドレーもラムゼイも唖然とした。

 彼女の着ているものは……不思議なものだった。

 荒い縫い目、つぎはぎのようなものも見える。手作り感満載だ。アドレーからみて、ぼろきれとも言えるような……。

 今まで着飾った彼女の姿しかみたことがなかったアドレーは、はっとして棒立ちになった。


(彼女は……公爵家で虐げられているのか……!?)

 

 どう対処すべきかと深刻に悩んだ。

 彼女の両親に、話を聞くべきかと思ったが、公爵夫妻は、一人娘を非常に可愛がり、甘やかしている。

 虐げている様子など皆無だ。

 

 で、では……一体、どういうことなのだろう……。


「……アドレー様」


 彼女の顔色は、倒れたときより良くなっていた。

 突然来たことを謝り、その姿についての疑問を口にすれば、近頃好んで着ている、と彼女は答えた。

 おほほと明るく笑って。


 虐げられているわけではないようだ……。


 屋敷で辛い思いをしているのではない。

 どんな格好でも、彼女が気に入っているのなら、それでいい。

 

 見た感じ……不思議な服だが動きやすいらしい。

 この間倒れてから、クリスティンは言動が突飛になったと、公爵夫人は話した。


 気絶したとき、彼女はテーブルに突っ伏していた。

 あのとききっと頭をぶつけてしまったのだろう……。

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