第3話 変貌した彼女
打ちどころが悪かったのか、クリスティンの言動は確かに、いつもと違った。
まだ微熱があるようなので、長居はせず、アドレーとラムゼイは公爵家をあとにした。
◇◇◇◇◇
――クリスティンはその後、変貌した。
今までのような、わがままで不健康な令嬢ではなくなった。
華美な格好を必要なとき以外しなくなり、様々なことに、一生懸命に取り組む努力家と変わった。
その姿は眩しいくらいに輝いていて、目を奪われた。
まるで違う人間になったようだ。
義務感ではなく、自らの意思で彼女のもとを訪れるようになっていた。
しかしクリスティンは変わりはじめたころから、アドレーに対し、よそよそしい。
(どうしてなんだ)
自分は彼女に何かしてしまったのだろうか。
避けられるようなことをした覚えはなかった。
以前は慕ってくれていたように思う。
媚びないところは好印象なのだが、もっと自分に甘えてほしい。
◇◇◇◇◇
十五歳の春、アドレーは魔力を持つ者の義務として、王立魔術学園に入学した。
王太子であるアドレーは一年生で生徒会長となり、右腕のラムゼイは副会長となった。
生徒会室のある校舎一階には、ラムゼイ専用の研究室がある。
公爵家の力を使って学園側に用意させたのだ。
アドレーは研究室の窓辺で、物憂く愚痴った。
「私はそれほど魅力がないのだろうか……」
「なんだ、急に」
幾つかの液体を混ぜ合わせていたラムゼイは、こちらにひんやりとした目を向けた。
悩めるアドレーは、眉間を親指と人差し指で押さえる。
「クリスティンが……そっけない……。全く心を開いてはくれないんだ……」
ラムゼイはフン、と鼻を鳴らした。
「それはあの娘がおかしい」
彼は部屋の端に置かれた長椅子に、ドカッと座る。
「おまえは外見も性格も良く、他の女にフラフラする浮気性でもない。完璧な、本物の王子様だ。あの婚約者がとんでもなくおかしい」
「クリスティンはおかしくない」
アドレーが反論すると、ラムゼイは銀の髪を煩わしげにかきあげた。
「いや、変だ。あんな女、他に知らんな。おまえに靡かない女など」
アドレーは目を眇めた。
「ラムゼイ。おまえ、クリスティンのことを気に入っているじゃないか」
親友は、以前クリスティンを疎んじていたが、彼女が変わりはじめた頃から、強い関心をもっているのだ。
彼は眉を上げ、横を向く。
「彼女の魔力も含め、興味深い対象だ」
週末になると、ラムゼイは屋敷で、クリスティンに魔術の指南をしていた。
彼の家は魔術の研究をし、医薬品の販売もしている。
身体の弱いクリスティンは、ラムゼイに教えを請い、薬を作り出していた。
屋敷に戻る週末を、ラムゼイがひそかに楽しみにしているのをアドレーは知っている。
アドレーは重い息を吐く。
「早くクリスティンに入学してもらいたい。彼女にも生徒会に入ってもらうんだ。そうすれば会う機会が増える」
彼女はアドレーと過ごすより、今はたぶんラムゼイと過ごす時間のほうが長い。
クリスティンは真剣に魔術を学んでいるので、それを止めるようなことはしていない。
(だが、複雑だ)
魔術剣士のリー、彼女の義兄スウィジンに対しても。
クリスティンはリーからは剣術、スウィジンからは歌を学んでいる。
リーへの橋渡しをしたのは、アドレーだった。
仲介するのではなかったと、正直後悔している。
アドレーも腕は立つ。
クリスティンを守るくらいはできるのだが、彼女は自らの身は、自らで守りたいらしい。
リーからは事細かに、指南の際の報告を受けていた。
彼女を意識しているのがありありとわかる内容だ。
クリスティンはアドレーには、何も請おうとはしない。
(誰より、クリスティンと過ごす権利があるのは、婚約者である私ではないか)
それで半ば無理やり、アドレーは得意のダンスを教えることにした。
彼女はダンスが下手というわけではない。
ただ、アドレーが彼女と共に過ごす時間がほしかっただけである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます