第81話 『暴走特急サンディー号とあーし』

「────あーしは背中? 頭の後ろ辺りかな? に乗るから、サンディーはできるだけ揺らさないように運んでね。まあ、落ちる事は無いだろうけど、念のためね」

 メーシャはサンディーに、再度森まで行きたい旨を伝えていた。

「キュイ!」

 とっても元気の良い返事である。

「っし! じゃ、乗るね~」

 サンディーが乗りやすい様に姿勢を低くしたのを確認して、メーシャは背中の前辺りに乗った。

「どうですか、お嬢様?」

 ヒデヨシが乗り心地を尋ねた。

 流石にヒデヨシや灼熱さんは身体が小さくて、そのまま乗ると振り落とされそうなので、ふたりともメーシャのポケットにお留守番? である。

「そうだな……。なんか、硬いのは硬いけど、弾力があってさ、あんま滑らないしくぼみ? の所に足がフィットするから思ったよりはイイカンジかな?」

 メーシャは足の位置を調整しながら応える。

 そう、メーシャはもちろん立ったまま移動するつもりだ。

「あっしは、ちょっと氷河の所にいこうかなぁ……?」

 灼熱さんは、サンドワームに乗るのにビビってしまったようだ。

「そうなの? サンディーに乗るの、きっと楽しいのに~」

 メーシャは根拠のない売り込みをするが、灼熱さんには届かず。

「いや、やっぱりあっしはあの豹に乗るぜぃ!」

 灼熱さんはメーシャのポケットから飛び出て、氷河が乗っている豹の背中に移動した。

 しかし、灼熱さんが恐がるのも無理はない。灼熱さんの体長が6㎝程なのに対し、サンディーは10m以上。

 人間と東京タワーくらいの比率で、そのレベルの大きさのワームがのたうち回っていれば恐怖しない方がイカレてるだろう。

「兄ちゃん、ここに乗ると身体が冷えちまうけど、大丈夫なのかい?」

『氷の豹だからな、冷えるのも当然だよな。ほんとに大丈夫なのか?』

 氷河とデウスが灼熱さんを気遣った。

「気にしなくても大丈夫だぜぃ。冷えたら自分で温めるからよぉ」

「そうかい、ならいいね。……じゃ、メーシャさん、こっちはいつでも大丈夫だよ!」

 氷河がサンディーに乗っているメーシャに声を掛けた。

「おけ! サンディー!」

「キィ!」

「森に向かって全速前進、出発だし~!!」

 メーシャは進行方向に指を差し、反対の手を腰に当て、意気揚々と号令をかける。

「キュゥイ~!!」

 サンディーは楽しそうに返事をして、出来得る限りのスピードで出発した。

 ────ドゴゴゴゴゴゴゴ!!

 こうして、サンディーたちは森に向かったのだった。

「…………」

「…………」

 決めポーズのまま微動だにしないメーシャと、呆気に取られているヒデヨシを残して。

『……これは想定してなかったわ』

 サンディーは進みだすや否や、凄い勢いで地中に潜り、瞬く間に遠くまで行ってしまったのだった。

「そういえば、『地上に顔を出して進んで』とは言ってませんでしたね……」

 サンドワームは地上に顔を出して移動することもできなくはない。

『全速前進つったら、まあ、移動しやすい方法とるのも仕方ねえ、のか……?』

 “できなくはない”とは言っても、やっぱり、地中の方が移動しやすいのだ。

「……ちょっ、待って、サンディー! あーし、ここなんだけどー!!」

 ようやく我に返ったメーシャが呼び戻そうと叫ぶが、サンディーにも、ついでに氷河にも離れすぎてて届くことはなかった。


 メーシャは諦めて街道を歩いていた。

「……はぁ。結局歩きか~……」

「仕方ないですよ。みんな行っちゃったんですし……」

 ヒデヨシも気が引けたのか、メーシャに合わせて歩いている。

『まあ、何度呼んでも帰ってこなかったもんな。まあ、あと1時間程だ。頑張ろうぜ!』

「もう~、他人事だと思って気楽なんだから……。ぶー!」

 メーシャがいじけて頬を膨らませた。

「……?」

 その時、ヒデヨシが足を止めて周りを見回した。

「どったの?」

 メーシャも周りを警戒しつつヒデヨシに尋ねる。

「いえ、なにか声が聞こえたような気がしたんですが……」

『へへっ。もしかしたら、灼熱さんが振り落とされてたりしてな!』

「いやいや、さすがの灼熱さんだって、妹の乗りものから落ちるなんてこと…………って、灼熱さん!!?」

「いてててて……。って、お嬢じゃねぇか! なんで、ここに!?」

 そこには、おしりをさする灼熱さんが落ちていた!

『いや、本当に振り落とされてたのかよ!』

「いやぁ、氷河の豹がさ……あ、ダジャレじゃねぇぜぃ?」

「惜しい、ツッコミが遅れました」

 ヒデヨシはツッコむ気満々だったようだ。

「その、豹が思った以上に冷たくてな、一瞬であっしのおしりが凍傷を起こしちまってよぉ……」

『ああ、だからおしりをさすってたんだな』

「冷めたら温めるなんて言ったが、そんな隙もなかったぜぃ……」

 灼熱さんは悔しそうに語る。

「でかしたぞ、灼熱さん!」

「ひぇっ!?」

 メーシャが突然大きな声を出したので、灼熱さんが驚いて情けない声を出してしまった。

「お嬢様、なにが『でかした』なんですか?」

「だってさ、灼熱さんを火で大きくして乗れば、サンディー程ではないにしても、スピード出んじゃん! はぁ~、これでやっと楽ができるし……!」

 初めから灼熱さんに乗っていれば、なんて野暮なツッコミは誰も入れなかった。

『他の冒険者は、どうやって移動してんだろうな? こんな遠い距離、毎日のように歩くわけにもいかないだろ』

「そだね。ま、それは追々訊いてみるとして、早く灼熱さんのおしりを治して、サンディーと氷河ちゃんのとこ行こ!」

「ですね」

 そして、メーシャたちはおしりが完治して絶好調な灼熱さんに乗り、目的地の森に向かったのだった。

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