第82話 『合流と毒とあーし』
程よく茂った木々から柔らかな木漏れ日が辺りを照らし、苔がむした大きな岩が、地面を覆う柔らかな葉っぱが、朝露を浴びてキラキラと輝いていた。
砂利道の横を流れる小川は水が澄んでいるので、泳いでいる小魚やサワガニもハッキリ見える。
木にとまる小鳥、3体ほどで小さな群れをなすプルマル、辺りを警戒しつつも穏やかに草を食べるウサギ。
ここは、世界に危機が訪れているとは思えないくらい平和な場所であった。
そして、そんな所で2体のモンスターが楽しくお喋りをしていた。
「──へぇ、サンディーちゃんは海産物が好きなんだね」
「キィ~」
そう、先に森に着いた氷河とサンディーだ。
「メーシャさんがタコ足をくれたから? あのヒトも罪作りだね……」
「キィ……」
どうやら、メーシャがタコ足をくれた辺りからタコに病みつきらしい。砂漠には海が無い故に、刺激が強かったのかもしれない。
「ウチは、凍らせたヒマワリの種が一番好きかねえ? 食感がなかなか……あれ? 今、声が聞こえなかったかい?」
氷河が街道の方に目をやると、そこには慌ただしく走る者がいた。
「キィ!」
サンディーが嬉しそうに顔を向ける。
「お~い! サンディー、氷河ちゃ~ん!」
「それそれそれそれ~ぃ!」
炎で大きくなった灼熱さんと、それに乗ったメーシャ、
「僕もいますよ~!」
ポケットの中にいるヒデヨシだった。
「──戻すよ!」
到着するや否やメーシャは灼熱さんから飛び降りつつ、炎を程よく“奪って”元の大きさに戻した。
「ああ、兄ちゃん! いつの間かいなくなったと思ったら、メーシャさんと一緒だったんだね!」
少し安堵の気持ちが混ざった声で氷河が言う。楽しくお喋りしてても、心では心配していたようだ。
「途中でおしりが凍っちまってよぉ。温めようと思った時には、もう地面に転がっちまってたぜぃ!」
メーシャに回収されながら灼熱さんが楽しそうに答えた。
「そこに僕たちが丁度通りがかったんですよね」
「そうだったのかい。……そう言えばメーシャさん、兄ちゃんの背中に直接乗ってたみたいだけど、熱くなかったの?」
「んぁ? まあ、熱く無かった……。っていうか、頭を冷やす事に気を取られて、身体の方はすっかり忘れてたよね」
メーシャは『そういえば!』と言った感じだ。
『まあ、メーシャもレベルが上がったり、キマイラ戦を乗り越えて炎の耐性が付いたんだろうな』
「えっ、ちょっと待って! 今、レベルって言った!?」
メーシャはデウスの何気ないひとことに食らいつく。
『あ、ああ。それがどうしたんだ……?』
思わぬ食いつきように、デウスは少し引いてしまっている。
「レベルってロマンじゃん! ねえねえ! あーしって今、レベルいくつなの? 教えて教えて!」
メーシャはもう、ワクワクが止まらない。その場でジタバタしてしまっている。
故に、デウスの次のひとことは耳に入れるのが難しかった。
『……すまん、レベルってのは言葉のあやだ』
「え?」
『強くなったってのを、分かりやすく説明するために“レベル”という単語を使っただけで、メーシャにレベルが設定されているわけじゃないんだ……』
デウスは申し訳なさそうに補足を入れる。
「え?」
メーシャの顔が暗くなる。
「キィ?」
サンディーがメーシャを心配する。
『そういうのが好きだなんて知らなかったから、俺様、レベルっていう概念を取り入れてねえんだよ』
「え……?」
『だから、その、ごめん……』
「うぅ……。めちゃ楽しみにしてたのに……。“ステータスオープン”したかったのに……」
メーシャは落ち込んで、その場でしゃがみ込んでしまった。
「キィ~……」
サンディーがメーシャを元気づけようとサワガニをくれるが、生きたままなのですぐに逃げてしまった。
『ああ、その、なんだ。でもよ、あの、そうだ! レベルは無いけど、その分“強さの上限”も設定されてねえから、メーシャ次第で強くなりたい放題だぞ! どうだ、これは流石に“ロマン”じゃねえか?』
デウスもしどろもどろになりながらも、なんとかメーシャを元気づけようとした。
「……強くなりたい放題?」
メーシャは少しだけ顔を上げてデウスに訊き返す。
『そう!』
「あーし次第で、デウスよりも強くなれるってこと?」
口は尖らせているものの、メーシャとしては興味深い内容のようだ。
『まあ、俺様としてはなって欲しいような、追い越されたくないような……ってなるなる! メーシャ次第で、俺様より強くなれる!』
メーシャが顔を再び隠し始めた所で、デウスは慌てて質問に肯定した。
「……じゃあ、世界最強にもなれるってこと?」
『そうだな。メーシャがそこまで頑張れれば、な。だからよ、元気だし──』
「──勇者メーシャちゃん、ふっかーつ!!」
『いや、切り替え早いな!』
メーシャの復活の早さに、デウスは思わずツッコミを入れてしまった。
「キィー!」
「あーし、主人公的にレベルを設定されるのって大好きなんだよね。でもさ、よく考えたらボスみたいにレベル設定無しでめちゃ強い方が、あーし的には
「キィ~!」
メーシャはサンディーの頭を撫でる。
『ま、まあ、そうかもな』
「じゃ、サンディー、お留守番よろしくだし~」
「キィ!」
メーシャはサンディーにバイバイして森の奥に歩き出した。
「一時はどうなるかと思ったけど、メーシャさんが元気になって、ウチとしては良かったよ」
氷河もそれについて行きつつメーシャに言った。
「あっしとしては、レベルやボスとよく分からなかったがよぉ、自分の強さが分かるんなら、見てみたいもんだねぇ」
「確かに。僕もパラメータのどの部分が弱いかとか気になります。それが分かれば効率の良いトレーニングメニューも組めますから」
ヒデヨシは毎日、独自のトレーニングをしているらしい。誰もヒデヨシのトレーニングの様子を見たことはないが。
「ヒデヨシのアニキは、ストイックだねぇ」
「まあ、目標が高いですからね」
ヒデヨシは本人に気付かれないように、ちらっとメーシャを見る。
「あっしも頑張らねぇとな……」
灼熱さんはしみじみと言った。
「あのさ、今さっき気付いたんだけどさ、さっきまでお魚さん元気だったのに、なんか今は元気なくない?」
メーシャが川に指を差してみんなに言った。
「ウチも思ったよ! ……もしかしてこれ、毒じゃないかい?」
よく見ると泳いでいる魚の挙動がおかしい。それに、ピクピクとするのが精いっぱいで泳げない小魚もいた。
「そう言えば、“暴れトゲイモリ”って毒があるんでしたよね!」
『個体によって毒の種類が違うみたいだが、暴れトゲイモリは“麻痺毒”が多いはずだぜ』
「じゃあなんだ。その暴れトゲイモリってのが、近くにいるってのか?」
「かもね。じゃ、お魚さんとかサワガニさんも可哀そうだし、ちゃちゃっと倒しに行きますか!」
『だな!』
メーシャたちは駆け足で暴れトゲイモリの居るであろう場所に向かったのだった。
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