第80話 『いでよ、サンディー!』
メーシャたちは『水辺を荒らす“暴れトゲイモリ”の討伐』を受け、街道を通ってトゥルケーゼから少し離れた所の森に向かおうとしていた。
すごくいい天気で、今日も今日とてクエスト日和。気持ちの良い朝だ。
だが、メーシャにとってはそうでもないようだった。
「ずっと歩きはさすがに疲れちゃうね~……。つか、あきた~! そろそろ着くか、なんかイベントないの~……?」
かれこれ1時間メーシャは歩き続けていた。そろそろ半分といったところだが、まだ残り半分もあるとも言える。
そして、今までは外に出るとなんだかんだ敵が現れたが、今日はモンスターの“モ”すら見当たらない。
それが退屈とお疲れと飽きの大きな原因でもあったのだが、そんなメーシャに同意できる者はいなかった。
何故なら、ヒデヨシも灼熱さんもポケットの中。氷河は昨日貰った鞍を使って氷の豹に乗り、デウスはそもそも身体が無い。
「すみません、お嬢様。僕がお嬢様を乗せられたらいいんですが……」
ヒデヨシが申し訳なさそうに言う。
「気にしないでヒデヨシ。あーしがヒデヨシに乗ると、いじめてるみたいだし……」
メーシャは頭を撫でてヒデヨシを元気づける。
「っじゃ、あっしに乗るかぃ? まあ、頭をキンキンに冷やして貰う必要はあるけどよぉ」
灼熱さんはノリノリで言った。きっとポケットの中で動けないのもそれはそれで苦痛なのだろう。
「ん〜……。それもイイかもしんないね。ふぁあ〜……」
メーシャはあくびをしながら答えた。
ぽかぽかの陽気と退屈が相まって、眠気が獰猛な獣のように襲い掛かるのだ。
「どうせ冷やすならメーシャさんにわざわざ頼まなくても、ウチが兄ちゃんの頭を冷やそうか?」
「いや、氷河はいい」
灼熱さんは氷河の提案を素っ気なく断った。
「え!? なんで? なんでメーシャさんは良くて、ウチはダメなの?」
「氷河、どうせ気分が上がって、冷気マシマシであっしを凍らせるんだろぃ?」
「…………。そんな、つもりはないけど……」
と言いつつ目を逸らす辺り、本当のことなんだろう。
「あ、氷河ちゃんも暴走グセあるカンジ? 兄妹で
「ち、違います! ウチはもう、暴走なんてしないよ! ただ……。ただ、時折楽しくなっちゃうだけで……」
「そう。時折楽しくなっちゃって……えげつねぇ攻撃をすんでぃ」
「へ〜。意外だ〜。氷河ちゃんって“町娘”ってカンジだからさ」
「うぅ……。恥ずかしい所をしられちゃったよ……。穴があったら入りたい気分だよ」
氷河が前足で顔を隠そうとしたその時。
「それだ!!」
「ひぇっ!?」
メーシャが眠気を一瞬で吹き飛ばす程の大声で叫んだ。
「ど、どうしたんでぃ。急に大声を出してよ……」
灼熱さんがメーシャに恐る恐る尋ねる。
「穴に入るで思い出したんだけどさ! サンディーだよ、サンディー! サンディーがいるじゃんね!」
メーシャはウキウキワクワクで答えた。が、気持ちが焦って要領を得ない。
「サンディーさんがどうかしたんですか?」
ヒデヨシが首を傾げて、もう一度メーシャに訊いてみた。
「ああ、あんね! サンディーっておっきいじゃん? だからさ、背中か頭の上とかに乗れないかな? って!」
『確かに、サンディーは身体の長さが10m以上あるもんな。それに、移動スピードも車や馬に引けを取らねえ。もしかしたら、結構良い考えかもしれねえな!』
「でしょでしょ!」
『ああ。普通はサンドワームに乗ろうなんて思わねえのによ、まったく……メーシャは面白い事を思いつくな!』
デウスも感心して、この案にノリノリだ。
「そうですね。サンディーさんは土や砂を操ることができますから、整地しながら進めるんじゃないですか? 上手くいけば、車や馬より乗り心地良いかもしれませんよ!」
「サンドワームに乗るなんて、前代未聞だねえ……」
氷河は呆気にとられている。
「でもよ、そんな良い感じのモンスターっぽいのによぉ、なんで移動用サンドワームって聞かねんだ? あっしが田舎もんなだけか?」
「兄ちゃんやウチが田舎もんなのは間違いないけど、どうなんだい? デウス様なら、何か知ってるんじゃない?」
『いや、俺様も聞いた事ねえな……。もしかしたら、この世界で初めてサンドワームに乗ることになんじゃねえか?』
どうやら、世界が出来上がってから今まで、サンドワームに乗ろうと思った者は知らないが、少なくともに乗った者はいないようだ。
「えっ!? あーしってば、すご!」
『まあ、サンドワームは結構強い種族だからな……。子どものサンディーですら、この辺の騎士が手も足も出なかったんだ。大方、乗りたくても乗れなかったんだろうよ』
「っじゃ、さっそく乗っちゃおうか! 出ておいで、サンディー!」
メーシャは元気よく、適当な場所の地面に向かって呼びかけた。すると……。
────ゴゴゴゴゴゴ……。
地面を揺らして、凄い勢いで、大きな地面の盛り上がりが近づいて来た。
「あんな遠くにいたんだね」
メーシャは呑気に呟く。しかし、サンディーを知らない人が見れば、死を覚悟する光景だろう。
「キィ~!!」
そして、メーシャの近くに来ると、サンディーは砂をまき散らしながら、元気よく地面から姿を現した。
「おっと、メーシャミラクルっと……!」
メーシャは自分に掛かりそうになった砂を、能力で『ヒョヒョイ』と回収して難を逃れた。
「キィ~?」
サンディーは首を傾げる。何で呼んだのか訊いているのだろう。
だが、気になるのはやっぱり……。
「この、咥えてるのって、ゴーレム……!?」
氷河が目を疑う。
ゴーレムとは石や金属、レンガなどを身体として、主に人型の姿をとったモンスターだ。
そして、命令権を持った者の指示を忠実に守るという事で、アレッサンドリーテでもゴーレムを主軸にした軍隊も置かれている。ちなみに、魔石と魔力と無機物の身体になりそうなものがあれば自然発生するので、野生のゴーレムも世の中には少なく無い数存在する。
『間違いなく、ゴーレムだな』
そう、サンディーは口にゴーレムを咥えて登場したのだ。
「つか、こんなの食べれるの?」
メーシャがサンディーに訊いてみた。
「キュイ~!」
────バリバリゴリゴリドゴドゴ。
到底、食事では聞けないような音を立てながら、サンディーは美味しそうにゴーレムを頬張った。
「ゴーレムをあんな簡単に噛み砕くなんて、おっそろしいモンスターだぜぃ……」
灼熱さんは、サンディーの噛む力に身震いした。
「お腹壊さないなら、まあいいか。サンディー、あっちの方にあるはずの森までさ、乗っけてくんない? あーし、もう疲れちゃってさ~」
『まあいいのかよ。めちゃくちゃアッサリしてんな……』
「ウチなんて、3日はさっきの光景が夢に出てきそうだよ……」
氷河もサンディーの破壊力に恐怖を感じてしまっていたようだ。
「さすがお嬢様、懐が深いですね! 僕も見習わないと!」
『良いか悪いか置いといて、肝が据わってんのは勇者らしいのかもな。へへっ』
デウスの好感度が、メーシャの知らぬ内に少し上がったのだった。
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