第6話 『優しいあーしと、王様からの使い』
「────っし! ここなら大丈夫っしょ!」
メーシャは人気の無い裏路地に逃げ込んで一息ついた。
『ここなら大丈夫だ、近くにヒトの気配はねえからな。バカ騒ぎしても良さそうだぜ。へっ、ダンスでもするか?』
「しないし! あ、それより、何か頭とか身体が動物みたいな人がいたり、耳尖ってる人がいたりしたけど、あれは獣人とかエルフってことだよね! めちゃカワイイんだけど!」
『そうだ、俺様の世界は気に入ったか?』
「今んとこ、めちゃイイ感じ!」
メーシャは嬉しそうに『えへへ』と笑う。
『そりゃあ、なによりだ。だけどよ、ホンニン達にカワイイだとか、身体的特徴についてあんま言うんじゃねえぞ。そのへん、今ナイーブだからな』
「はえ~。人権がどう、って感じ?」
『ま、そんなもんだ』
「りょ!」
メーシャが軽い感じの敬礼をする。
「チウ~」
「そだ。さっきさ、何かみんなの言ってる事わかんなかったけど、もしかして、“言語がちがう”の?」
メーシャが手をポンっと叩いてデウスに訊いた。
『そういや、そうだな。俺様としたことが、す~っかり忘れてたぜ。へへっ』
「おい!」
メーシャは鋭くツッコんだ。
『そう怒んなって。すぐに分かるように調整すっからよ』
デウスがそう言うと、メーシャの身体が少しの間淡く光った。
『ほい! これでこの世界の言葉、方言含めて全部理解できるようになったぜ!』
「あんがと」
『おう』
「あ、でもさ、そのうちあーし自身で分かるようにしないとね。デウスから離れちゃったり、うっかり忘れた時こまっちゃうからさ」
「まあ、そうだな。その方が俺様も助かるぜ』
「おけ。がんばる」
メーシャが肩の高さで拳をぐっと握る。
『そうだ。ちょいと俺様権限で、良い感じにお前が気に入りそうな“イベント”ってやつを用意しといたんだよ。だから、そろそろ大通りに向かおうぜ』
「え、どゆこと!? あ……。つかさ、さっきジロジロ見られたし、あーしが出ていって、不審者だー! って言われたりしない?」
メーシャは一瞬テンションが上がるも、冷静になって訝し気に訊いた。
『俺様を誰だと思ってやがる……! その辺りはこう、なんだ、ちょちょいのちょいだぜ!』
「説明下手か!」
『うっせ!』
『────よし、この辺りで待ってたら大丈夫だ』
メーシャ達は、先程の大通りに戻ってきていた。
「ちょちょいのちょいでイベント用意できるとか、そんなすごい力持ってんなら、自分で世界を救った方がはやくない? それに、こんな文明? も進んでっし、あんなタコとか、それこそ“ちょちょいのちょい”っしょ」
「チュチュウ」
『あー、気付いちまったか』
バツが悪そうにデウスが言った。
「え、ちょっと待って。あーしを騙したの?! もう世界救うの止めちゃおうかな……」」
メーシャが驚いて、わかりやすく肩を落とす。
『いや。そんなんじゃねえ! 信じてくれ! お願いだ、見捨てないでくれ!』
デウスは捨てられた子犬のように懇願する。
「必死か! あはっ、冗談だって。デウスって嘘つけなさそうだもんね。理由あんでしょ、何かイベント? が来るまで暇だし、良いよ、話してみ」
鋭いツッコミを入れつつも、メーシャは優しく訊いた。
『俺様は初め、やつらと“サシ”で戦ってたんだ……。この世界のやつらを巻き込まないためにな』
デウスはゆっくりと話し始めた。
「えらいじゃん。んで?」
『だがよ、隙を突かれてな、その、なんだ、言いにくいんだけどよ……』
デウスがもじもじしてなかなか話さない。
「もう、ハッキリしな! そんなだと、あーしも力を貸せないでしょ!」
周りの目も気にせず、メーシャがデウスを叱る。
『あ、ああ。そうだな。その、身体を奪われちまってな、今、形勢が最悪なんだよ』
「……」
メーシャは黙ってしまう。
『そんで、こんな状態にしちまった俺様がこの世界のやつらにあわせる顔もねえからよ、メーシャに頼んでんだ。ま、今は”顔”どころか身体がねえんだけどな! へへっ』
沈黙に耐えられなかったデウスが、ペラペラと冗談みたいに言う。
「はぁ~!?」
今まで黙っていたメーシャが、急に大きな声を出した。
『ご、ごめんんさい!!』
怒られると思ったデウスが慌てて謝る。
「そんな大事な事をこの世界のみんなに黙ってんの? ダメじゃん! つか、やられちゃったってのより、隠される方がムカつくんだかんね!」
メーシャは容赦なくデウスを怒る。
『はい、ごめんなさい……』
勢いに負けてしまったデウスがしおらしくなる。
「ごめんなさいする相手が違うでしょ! あ~、もう! あーしがあんたの身体取り戻してあげっから、その後ちゃんと皆にごめんなさいする事! いい?」
メーシャはまくしたてるように言う。
『え、ああ、うん……』
デウスはしょんぼりとした風に返事をする。
「ほら、落ち込まない! 大丈夫、あーしが一緒にごめんなさいしたげるから。ね!」
メーシャが優しい声で気遣った。もし今デウスに体があったら、きっと背中をポンポンとされているに違いない。
『ありがてえ……。こんな親切、味わった事ねえぜ!』
そんな優しい言葉に、デウスがおいおいと泣いた。
「ヂウ~」
話を聞いていたヒデヨシまで釣られて泣いてしまう。
「ふたりとも、大げさだって。まったく……」
メーシャは少し照れてしまって頬をかいた。
「あの~、一二三(いろは)メーシャ殿ですよね? 勇者の……」
その時、腰の低い感じの兵士が声をかけてきた。
「え? あー、はい。どちらさん?」
メーシャが振り返って首を傾げる。
「ああ、これは失礼しました。私は“アレッサンドリーテ”王の使いの、ダニエルであります。メーシャ殿をお連れするよう命じられてまいりました」
ダニーは姿勢を正して敬礼をする。だが、まだ日が浅いのか緊張しているのか、ぎこちなさが目に付いた。
『アレッサンドリーテはこの国の町の名前だ。国名でもあるがな』
デウスがさりげなく補足する。
「おけ。わかった。ダニーね、よろしく。別に緊張とかしなくても大丈夫だよ」
メーシャはさらっとデウスとダニーふたりに返事をする。そして、緊張しているダニーを気遣った。
「ああ、はい。お気遣いありがとうございます。では、こちらです」
ダニエルは緊張しながらも少し笑顔を見せ、メーシャを城まで案内し始めた。
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