第7話 『勇者メーシャちゃん、謁見します!』
「ああ、これは失礼しました。私は“アレッサンドリーテ”王の使いの、ダニエルであります。メーシャ殿をお連れするよう命じられてまいりました」
ダニエルは姿勢を正して敬礼をする。だが、まだ日が浅いのか緊張しているのか、ぎこちなさが目に付いた。
『アレッサンドリーテはこの国の町の名前だ。国名でもあるがな』
デウスがさりげなく補足する。
「おけ。わかった。ダニーね、よろしく。別に緊張とかしなくても大丈夫だよ」
メーシャはさらっとデウスとダニーふたりに返事をする。そして、緊張しているダニーを気遣った。
「ああ、はい。お気遣いありがとうございます。では、こちらです」
ダニエルは緊張しながらも少し笑顔を見せ、メーシャを城まで案内し始めた。
「おけ。えと、ダニーはさ、新人さんなわけ?」
「はい。私はこの春、兵士になったばかりでして……」
「へー、そうなんだ。つか、なんで“勇者”を迎えに行くのを新人さんに頼むんだろうね?」
メーシャは何気ない感じで聞く。
「申し訳ありません。至らない所ばかりと思いますが、どうぞご容赦を……」
ダニーがメーシャの顔色を窺いつつ、恐る恐る言った。失礼を働いてしまったと思ったのだろう。
「あはっ。なんでそーなんの? あーしは至らないとか気にしないし!」
メーシャはカラっと笑いつつ流した。
「ははは……。それは良かった」
ホッとしたようにダニーが笑った。
「笑顔いいじゃん! ほら、同じ人生歩むんなら、楽しい方がぜったいイイっしょ」
メーシャがダニーの肩をポンポンと叩いた。
「そ、そうですね。ありがとうございます。少し緊張がほぐれてきました」
確かに先程にくらべて動きも表情も柔らかい。
「にしししし」
メーシャが楽しそうに笑う。
「あの、メーシャ殿……。先程なぜ新人がこの任務をまかされたか、訊きましたよね」
「うん。訊いた」
「それは今、王の近衛以外の兵が殆ど出払っているからです」
ダニーが神妙な面持ちになる。
「なんでか訊いてもいい?」
そんな様子を見てメーシャが少し姿勢を正した。
「……はい。ですが一応私から聞いたという事は内密にお願いできますか?」
「おけ。あーし口がかたいから、大丈夫」
メーシャが手でオーケーサインを作る。
「実は姫殿下が近頃出没するようになった怪物に攫われたそうなんです」
ダニーは声を落として、周りを気にしつつ話した。
「えー!? めちゃヤバいじゃん!」
「ああ、静かに静かに……! 声が大きいです」
思わずメーシャが大声で驚いてしまい、慌ててダニーが注意する。
「ああ、ごめん! ……んで?」
メーシャが急いで口を抑えつつ続きを訊く。
「はい。それで、怪物の居場所が判って包囲したのはいいんですが、怪物もなかなかの手練れです。下手に近付いたり攻撃をしてしまえば姫殿下が危ないんで、ひと月も膠着状態が続いているんです」
「へ~。んで、なんで聞いたって事言っちゃダメなの?」
「箝口令がしかれているからです。でも、よく城下町に顔を出されていた姫殿下が、怪物の侵入事件以来長らく顔を出さない事、他国との戦争や町にモンスターが襲ってきたわけでもないのに兵が出払っている事、姫殿下が行っていた事業が理由も知らされず急に止められたことから、もうこの町のモノで気付いていないのは殆どいません」
「うん。それは分かっちゃいそうだ」
「それでも、せめて他国に知られまいと、こうして箝口令がしかれ続けているのです」
「はえ~。あ、今攻撃されたらヤバイんじゃんね」
「そこでメーシャ殿の出番です。着きましたよ、どうぞ」
気づけば堅牢な城壁に包まれた豪華な城の前に到着していた。
「めちゃでか! これ建てるのにいくらかかんだろ?」
メーシャがこれでもかというくらい頭を上に向けて目の前の城を見上げる。
「私が案内できるのはここまでです」
「え、そーなの? てっきり謁見の間? までついて来てくれるのかと思ったし」
メーシャが少し残念そうに言う。
「すみません。私には入城許可がでておりませんので……。しかし、城に入ればまた案内が来るはずですので、迷う心配はないですよ」
ダニーは申し訳なさそうに返した。
「そか。……じゃあお別れだ。あんがとね、ダニー」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。勇者がメーシャ殿でよかった」
ダニーが朗らかに言った。
「ふふふ。気がはやすぎだし! まだあーし、なんもしてないから」
メーシャが笑いながら言った。
「そうですか。……それもそうですね。失礼しました」
「気にすんなし。んじゃあねダニー。おつぴ!」
「メーシャ殿もお疲れ様です。光の慈悲があらんことを!」
ダニーが拳を軽く握り、胸のあたりに当てる。
『相手の無事を願う、お祈りみてえなもんだな。別に怪しいモンじゃねえし、とりあえずやっとけ』
さっきまで黙っていたデウスが静かに言う。
「よくわかんないけど、ダニーにも光の慈悲があらんことを!」
メーシャも見よう見まねでダニーと同じポーズをした。
「ふふっ。では!」
「じゃ~ねー!」
こうしてダニーと別れ、メーシャは城に入って行った。
「すげー! ぜんぶほんもの?」
メーシャが城の入り口で、何度も何度も回転しながら周りを見回す。
『ダンスはしなかったんじゃねえのか? へへっ』
「チ~ウ~」
ポケットの中のヒデヨシが目を回して鳴いた。
「だって、ゲームとかに出て来るお城そのものじゃん! テンション上がんないとか、そんなんムリっしょ!」
メーシャが何度もジャンプをしては喜ぶ。
明るい赤の絨毯は数十m続き、至る所に金の装飾が施された燭台、大理石の台に乗った金や銀のオブジェが並び、天井までは軽く10m以上の高さ、正面には人間30人が横一列になっても余りある程の幅の階段がドンと構えている。
ファンタジーや中世ヨーロッパ(風も含めて)が好きな人にはたまらない、豪華絢爛な城がここにあった。
「あ、つかデウスとヒデヨシ、なんでさっきぜんぜん喋らなかったの?」
ピタッと足を止め、人差し指を立ててメーシャが首を傾げる。
『そりゃ、“イベント中”はそれに集中したいだろ? なあ、ヒデヨシ』
当たり前だよなと、デウスがヒデヨシに声を掛ける。
「チウチウ~」
ヒデヨシもその通りと言わんばかりに鳴く。
「え、ちょっと待って。デウスとヒデヨシ、いつ仲良くなったの?」
メーシャが驚く。
『まあ、お前に話しかけてねえ時はもっぱら、ヒデヨシとだべってっからな』
「チュー」
「へ~。気になる!」
『あ、お喋りはお終いだ。お迎えが来たぞ!』
メーシャが内容を聞こうとするも、奥からいぶし銀色をした重装鎧をまとった騎士が4人やってきた。
「ほんとだ!」
メーシャが慌てて姿勢を正す。
「貴女がイロハ殿ですね?」
兜が顔を覆ているので声がこもって聞え、表情も感情も読めない。
「あ~、はい。あーしが一二三メーシャです」
「お待ちしておりました」
そう言うと4人の騎士が四方からメーシャを囲む。
兜を一切脱ごうとせず、剣のグリップに手を置いていつでも抜剣できるようにしていることから、下手な動きをすれば切り捨てるも止む無し。といったところだろう。
「……おっかね~」
メーシャが騎士に聞こえないように小さな声で言う。
「ではこちらへ、陛下がお待ちです」
「……」
メーシャは騎士に導かれるまま謁見の間までついていった。
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