第3話 『めちゃつよなあーしと、おっちょこちょい』

「足だけもらって許したげようと思ったけど、あんた調子に乗ってんね? 成敗すっから、覚悟しろ!」

 ビシッ!! っと指を差した。

 ────キュルル。

 タコは足を振り上げる。が、

「あ、待ち!」

 メーシャは待ったをかけ、急いで靴と靴下を脱ぐ。

 ────キュル?

 まさかの待ったでタコは攻撃を一瞬止めてしまう。

「おけ。じゃ、突撃~!」

 二度その場でジャンプし、メーシャはタコに向かって走りだした。

 ────デュッポ!

 タコは気を取り直して先制攻撃。スミを連続で吐き出す。

「来たな~? そんじゃ、こうだ!」

 スミの球をいくつか避けつつ、

「ひょい、ひょい、ひょい!」 

 丁度いい場所に来たスミを手で受けて、そのいくつかを“奪った”。

 因みに、奪ったスミはどこか異次元にでも収納されるのか、奪った瞬間にその場から消える。

「ちょ、あぶね!?」

 “奪う”ことに意識を集中させすぎて、いつの間にかスミが目前に迫っている。この距離では流石に避けきれない。

「ガードだ!」

 咄嗟に手に持っていた触手でスミをガードするが、タコはその場から動かないのをいいことに、マシンガンの如くスミを撃ちこんだ。

「ほ、本気か! 攻撃、重たいんですけど……!」

 暫く撃ち続けると、タコの口は赤熱し、『シューッ』という音を立ててスミを出すのを止めた。

「ふぃ~、終わった? やっぱ、威力すご過ぎ……! あーしの周り穴だらけじゃん!」

 スミを受けた砂浜は、メーシャが居た所を除いて大きなクレーターのようになっている。

 ガードに使った触手も、ボロボロだ。

「あちゃー。使えてあと一回だな~。ん? 待って、これいけるかも?」

 メーシャは何かを思いついた。

 ────キュルル!

 が、タコは待ってくれず、今度は触手による叩きつけだ。

「見切った!」

 運動神経の良いメーシャは叩きつけを華麗回避して、

「にしししし!」

 何かをたくらんだように笑って、触手に飛び乗る。

 ────キュルル!

 メーシャを振り落とそうと、タコは触手をばたつかせながら引っ込める。

「おわっと! で・も! 裸足だから関係ないし!」

 左手と足の指で触手を掴んで堪える。そして、なかなか振り落とされないメーシャを見て、タコは次に巨大なスミの球を吐き出した。

 ────デュ~ッポー!

「おわっと! これでおしまいか」

 ガードに使った触手がもう使いものにならなくなったので、メーシャはそれに見切りをつけて捨てる。

 ────キュルル。

 タコが触手でメーシャをつかみ取ろうとする。が、

「ちょうどイイじゃ~ん。も~らい!」

 メーシャに新しい武器(タコの触手)を与える事になってしまった。

 ────デュッポ、デュッポ、デュッポ!

 怒ったタコはオーバーヒートなぞ気にもせず、連続でスミを吐き出していく。

「お、ボーナスタ~イム! もうずっと、あーしのターンじゃん!」

 メーシャは左手をゆっくり離し、スミの弾幕をどんどん奪っていく。 

「もういいや」

 数十発のスミを手に入れた後“奪うの”を止め、メーシャはふらつきながらも触手を登り始めた。

「こういうのは勢いだ!」

 ────デュッポ、デュッポ!

 その間もタコはスミを吐き続けるが、

「無駄、無駄、無駄~!」 

 メーシャは先に奪った方の触手でスミを打ち返してどんどん進む。

『ヘっ。なかなかやるじゃねえか!』

「チッチュチー!」 

 ここまでくれば、もはや誰にも止める事は出来ない。そして、

「着いた!」

 メーシャはタコの頭の所まで辿り着き、右手の触手を構えてにやりと笑う。ここまで来ればタコも攻撃ができず、もう待つばかりだ。

「デウス、さっき“送って”って言ったっしょ。それって、“奪った”ものを“出す”こともできんだよね?」

『ああ、そういうこった』

「おけ。んじゃ、見とけ~……」

 メーシャが空いている左手に意識を集中させると、先程“奪って”収納されたスミが、だくだくと溢れて宙に漂う。

「もっと小さくして~」

 今度はスミが凝縮されていき、

「こんなもんかな」

 ハンドボール程の大きさになった。

「で、タコさん。覚悟はできてんね?」

 準備万端のメーシャは、タコを睨みつける。

 ────キュル~。

「今更かわいい声出しても無駄だし! じゃ、いくよ~!」

『いっちまえー!』「チウー!」

 左手のスミボールを少し浮かせて、

「今日は、タコパだー!!」

 ────カッキーン!!

 メーシャはタコの頭目掛けて、触手でスミボールを打った。

 ────ギュルー!!

『ぃよっしゃぁー!!』「チュー!!」

「こりゃ痛そうだ……」

 スミボールが直撃したタコは、その一撃のもと倒された。

「とうっ。……しゅた。やっぱ、あーし最強! ついでにレベルアップだ~」

 メーシャはタコから飛び降りて、勝利のポーズをとった。

 

「まっずー!? なにこれ、ザラザラして、にがくて、臭いんだけど!」

 手に持っていた触手を齧ったはいいが、あまりのまずさに『ぺっ』と吐き出した。

『そりゃ、普通のタコじゃねえからな』

「やっぱりかー。おじさんも、うすうす思ってたんだけど。やっぱりかー」

 釣り竿を返してもらったおっちゃんが、苦笑いしながら言った。

「もしかして、これ普通のタコじゃないの?」

 まだ口にまずさが残っているメーシャは、渋い顔をしてデウスに訊いた。

『ああ。もともとそいつは“この世界”のミズダコだったんだ。だが、怪物にされた』

「え、ちょい待ち。その言い方だと、別の世界があって、誰かが美味しいタコをまずくしたってこと?」

『そうだ。そして、その“誰か”ってのは俺様のいる世界でも暴れやがっているんだよ。んで、ヒトも動物もモンスターも、あんな怪物に仕立て上げて仲間にしてんだ』

「モンスターとか、やば……。ワクワクじゃん。あ、でも、なんでこの世界にきたの?」

 メーシャは目を輝かせる。

『たまたまだ。ま、俺様の世界に比べりゃ侵攻は大したことなさそうだがよ』

「え、じゃあ、デウスの世界は怪物だらけってこと? やばいじゃん」

『……突然だが、俺様の世界で“勇者”やってみねえか?』

「“勇者”か、めちゃ良い響きしてんね……。あ、でも、あーしの世界もあんなのが増えんだよね。勇者が自分の世界離れてもいいわけ?」

『当分は大丈夫だ。あのタコああ見えて隊長クラスでな、あいつを倒しちまったからには、暫く警戒して手も出してこねえよ。それに、何かあればこの世界にも戦う準備があんだろ? 心配ならちゃっちゃと俺様んとこ救っちまえばいいじゃねえか』

「……確かに。んじゃ、やったげる! 隊長かなんかを軽くひねっちゃうこのメーシャさんがいれば、100人力っしょ?」

『決まりだな……!』

「それに、めちゃ面白そうな話が転がってんのに、無視するとか論外っしょ!」

『ほんと、話が早くて助かるぜ!』

「壮大な話だなあ……」

 釣り人のおっちゃんが、感心したように呟く。

「おっちゃん、聞いてたの?」

「え? ああ、聞こえていたよ。お嬢ちゃんの話も、この頭の中に流れて来る声も」

「あーしだけじゃなかったんだね。つーことは、仲間だ!」

『……』

「そだ、ヒデヨシは一緒に行くとして、おっちゃんも来ちゃう? 世界を救いに」

「いやいや。おじさんはもう若くないし、心穏やかに過ごしたいかな」

「そっか。残念だけど、それもまた人生だね」

『切るの忘れてたー!!』

 デウスが叫ぶ。

「ちょっ!? 耳というか、頭がキーンってなったんですけど!」

「いったたた……」

「ヂュ!」

 メーシャとおっちゃんが頭を押さえる。ついでにヒデヨシも。

『俺様としたことが、メーシャだけにするつもりが、周辺全域にテレパシー送っちまってたぜ! くぅ~』

 デウスは声だけなので分からないが、もしここにいるのであれば激しく悶えているのが判る程、声から恥ずかしさが窺えた。

「ま、まあ、おじさんは気にしないから。ええ、世界を救うんでしょ? さあ、行っておいで」

 おっちゃんがデウスに気を使う。

『ニンゲンに気を使われるなんて。恥ずかしいったらねえぜ……!』

「ほら、もう! デウス、おっちゃん困ってっし!」

 メーシャが腕を組む。

「いやいや、気にしなくていいから。じゃ、じゃあ、おじさんは行くね? ここにいても迷惑だろうし」

 おっちゃんは、苦笑いして荷物を纏める。

「なんかごめんね、おっちゃん。気ぃ使ってくれて、あんがと!」

『俺様の声を聴いたのは、内緒にしてくれ……。な?』

 デウスがしおらしく言った。

「はは……。言われずとも、誰にも言わないよ。若気の至りは誰にでもあるしね。じゃあ、気をつけて」

「ばいばい、おっちゃん!」

 メーシャが手を振る。

『へっ、助かるぜ! じゃあな、ニンゲン』

 デウスもゴキゲンでおっちゃんと別れを告げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る