閑話 ルブがインゼにここまでする理由

 「ルブ」


 間延びした声で、僕のことを呼ぶインゼ。


 「なんだい」


 僕は食事の後に皿洗いしながら、生返事する。


 「ルブはなんで、私にここまでよくしてくれるの?」


 俺は皿を洗う手をとめる。


 「それは……」


 「私以外にも奴隷はいっぱいいたのにさ」


 「それは……」


 「私、ルブには感謝してる、ううん感謝以上の気持ちがあるよ、本当だよ、けどそれが私にはどうしても気になるの」


 「…………」


 自分でもなぜだか、わからない。


 追放された腹いせに奴隷を見かけたから?


 酒を飲んでいてやけになっていたから?


 そのどれもがしっくりこない。


 俺はインゼの方へ向き、足をパタパタと机の下でさせながら純粋無垢な顔で答えを待つ彼女に僕は、なんとか答えを出した。


 「それはね、インゼ」


 「うん」

 

 「君と出会った時の僕は、自分がとても無力に感じられたんだ」


 「…………」


 「そう、自分がとてもちっぽけで、小さくて、嫌な奴で、どうしようもない自己嫌悪になったんだ。それで酒を飲んで奴隷になった君を見て思った。なんでこんなに世界は残酷なのかって。俺にだって誰か一人くらい助けられるんだって。やけになって、それで……」


 「いいの、ありがとう」


 インゼは俺の背中にしがみつき、ゆっくりと力強く抱きしめる。


 僕は泣いていた。辛かったのだ。


 なにもかもが……。

 

 俺はインゼのぬくもりにそっと体を預けた。

 

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