第11話 調教日誌5 辛くても笑えば 2

 背中に突然、激痛が走る。


 振り返ると男が、僕にナイフを刺していた。


 俺は、突然の出来事に驚き、吐血する。


 「悪いな、お前に恨みはないんだ」


 「畜生が……あいつの差し金か……」


 薄れゆく意識の中で、誓約書だけを俺は握りしめた


 目を覚ますと、教会にいた。


 インゼが泣いていた。


 「起きた!?シスター、ルブが意識を取り戻しました!」


 「ここは……?」


 「教会だよ」


 「僕は、確か、男に刺されて」


 「まだ、起き上がらないで。ひどい傷だから」

 

 「誰が助けてくれたんだ?」


 「それは……」


 「私よ」


 インゼの視線の先にいた女、それは。


 「お前は……」


 「そうよ、あなたを追放した張本人よ、どう驚いた?」


 「なぜ助けた?」


 「勘違いしないでよね、元パーティのあんたが殺されたら私たちの評判に傷がつくじゃない」

 

 「そうか……ありがとう」


 「ふん、追放したのも少しは悪いとは思っているわ、それに新しく入ってきた神官戦士、あれ腕は立つけど、協調性がからっきしでね」


 「そうなのか」

 

 「ねぇ、あなた、もう一度このパーティに戻る気はない?私の推薦で魔法医学の高等試験を受けさせても上げるわ。もちろん怪我が治ったらだけど」

 

 「いいのか……」

 

 「えぇ、失ってはじめて気づいたの、あなたの必要性をね」 


 「ところで、俺を刺した男は逃げたのか?」

 

 「あぁ、あれね、私が軽く捕らえて痛めつけたらあらいざらい話して、勇者のパーティの下衆な連中は捕らえられたわ、それでその奴隷はもう奴隷じゃないわ」

 

 「そうか、よかった……いてて」


 「よかったね、ルブ」

  

 「ついでだが、もう少し頼みたいことがある」

 

 「なによ、あなたの長年の夢だったんじゃないの、魔法医学の試験」


 「それもあるが、今はこの子に歌を歌わせる舞台を用意してやってくれないか」


 「その子、歌は上手?」


 「大丈夫だ、きっと」


  僕は笑う。インゼも照れくさそうに笑い返す。


 「そう。ならいいわ。明日のパブで歌いなさい」


 「ありがとう」


 「いいのよ」


 高飛車な貴族が去った後、僕は呟く。


 「辛くても笑えばさ……」

  

 インゼは頷く

 

 「うん」


 「笑い続ければさ……」

 

 「うん」


 「チャンスなんていくらでもつかめるんだよな」


 「そうだね」

 

 「愛している、インゼ」

 

 「…………私も」


 そういってインゼは甘える猫のように僕に寄り添うのだった。

 


 


 


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