第9話 同じ境遇の二人
外には雪が降っていた。
「勇者のパーティ?」
「うん、お母さんのことと一緒に思い出したんだ、私の過去、全部」
「…………っ」
「そんな顔しないで、ルブ」
「無理に言わなくていい」
「いいの、もう過ぎたことだし、話さないと、ルブも気になってしょうがないでしょ」
そういって彼女は吹っ切れたような顔で笑った。
「私ね、勇者のパーティで後衛の魔法使いだったんだ、それでね」
「うん」
「私は、魔法職の剣士に比べたら弱いって。魔力を使い果たせば壁にすらならないお荷物だって」
「それで、どうしてあんな高度な麻痺魔法に?」
「悔しかったから決闘したの、私の代わりに入ってきた魔法戦士と。それでこっぴどく負けちゃった。相手の魔法戦士が状態異常魔法ばかり使えてさ。私は何とか距離をとって攻撃魔法で応戦したんだけど、踏み込まれて一気に距離を縮められてそれで負けちゃった。ここで俺に負ける奴に用はないってパーティ全員から見捨てられた。麻痺魔法が私の全身にかかる前に魔法戦士のそいつは言ったの。俺にしかその魔法は治せない。お前は冒険者としてももうやっていけないだろう、せめてものなさけに奴隷商人に売ってやるよ、だって」
僕は数秒言葉を失った。
「……ふざけるな」
「ルブ……?」
「ふざけるな!」
「どうして、怒っているの、ルブ」
「だってそうだろう!?」
僕は激高する。
「廃人になっていたかもしれなかったんだぞ!下衆共の玩具にされていたかもしれないんだぞ!」
「ううん、いいの」
「いいわけ―――」
「ルブ、ありがとう」
彼女はとても寂しそうに笑って僕の振り上げたこぶしに優しく両手を当てる。
「でも、もういいんだ。私には勝てないんだって、お荷物だってわかったし、今じゃこうしてルブといられて幸せだから、もう……いいんだ」
ふつふつと行き場のない怒りだけが俺の心を満たす。
拳を握りしめ、そしてゆっくり手と肩の力を抜く。
「僕とおんなじ、いや、それよりもひどいや。ずっと僕だけが世界で一番不幸だと思っていた」
「ルブ……?」
俺は、やけくそになって呟く。
「いいか、インゼ、僕たちは、追放されたんだ」
「うん」
「でも、ひとつだけあいつらと違うことがある」
「それは……?」
「それは、もうあんな奴らと一緒に冒険せずに一人の人間としての幸せを取り戻せられることだ。お金だってある、時間だってある、僕らはいくらでもやり直せるんだ、いくらでも、そう自由なんだ」
「自由、不思議な言葉ね。人を縛りもするし、楽な気持にもさせてくれる不思議な言葉……」
僕は、インゼの両肩をつかむ。
「いいかい、インゼ、人間てのは自分自身以外の奴隷になんてなりゃしないし、なっちゃいけないんだ、僕はそう思う。インゼ、これから僕たちは幸せになるんだ。
あいつらが泣いて悔しがるくらいに幸せになるんだ」
「ルブは強いね」
「君はどんなに居心地の良い感傷にいてもどんな不幸が覆っていても僕はそれを消し飛ばす。もう、治すばかりの僕じゃない、君をまもれるような強い人間になる。それが僕にできることだ」
「…………ありがとう」
インゼは一筋の涙を流し、自分から僕に抱き着く。
彼女のぬくもりだけが今の僕にあるすべてだ。
きっと彼女の願いをかなえて見せる。
外に雪はもう降っていない。
二人を祝福するように春が訪れる。
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