第4話 調教日誌1 食事
翌朝。
彼女はまだ、自分の名前を思い出していないらしい。
とりあえず、食事だ。
食事が一人でできなければ、いろいろと大変だ。
「ほら、これをもって」
「これは、なんですか」
「そこら辺の記憶も飛んでいるのか……スプーンだよ。スプーン」
「スプーン……」
彼女は僕が持っているのと同じように自分の前にある木のスプーンを手に取る。
「スプーンの大きい部分で、食べ物をすくいあげて、口元に運ぶんだ」
「ほら、こうやって」
僕は、自分のスプーンで彼女の目の前にあるおかゆを食べる。
「なるほど……」
食べようとして、彼女は何度もスプーンを落とす。
その度に僕は、なんども拾い、彼女に渡す。
落とすたびに彼女はあやまるのだが、僕は気にしない。
そうして、彼女はなんとか、一人でおかゆが食べられるようになった。
同じような調子でナイフとフォークの使い方を教えて、僕は彼女に本の読み聞かせをした後、彼女を寝かせて、食事を三食用意したあと、仕事に出かける。
一日中彼女はやることがないから、文字を覚えさせた。
なんどもこれをまねして書いてごらんといったら彼女は素直に従った。
これから、自分で衣服を着替えられるようにしないといけない。
先が思いやられる。
「これじゃあ、ただの介護じゃないか」
僕は独り言ちる。
だが、僕は確かに彼女に必要とされている。
そのことに満足感を覚えている独りよがりな自分に嫌気がさす今日この頃である。
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