第3話 回復術士だからできること
部屋に送られてきた彼女の印象は「不潔な人形」だった。
緑色の髪はところどころ黒ずんでおり、瞳は死んだ魚のように光がない。
粗末な服からわかる通り体も貧相だ。
あちこちに擦り傷や、切り傷、痛めつけられたような傷がある。
手足と指はあるものの機能していないのか、全く動かない。
「文字通り生きた玩具ってわけか」
いった傍から僕は舌打ちする。
なんてものを買ったのだ。
だが、あんな下衆にもて遊ばせるなんて寝覚めが悪くなる。
だが後悔するにはまだ少し早い。
回復術士の僕は、記憶喪失と疲れと悲しみ以外なら何でも治せる自負がある。
回復魔法にとどまらず、魔法ではない医療技術もかなりのものだからだ。
彼女は涎を垂らしながら、うわごとのように何かを呟く。
「た……す……け…………て」
「わかった。任せて」
そのあと、僕は仕事帰りに彼女の治療をする日々が三日ほど続いた。
三日目の朝には、風呂に入れ、髪の綺麗な女性がよく使うシャンプーとリンス、そのほかにも香水の一番高いものと女性らしい衣服を数着買う。
そして治療してから三日目の夜。
彼女の体は動き、瞳は見えるようになる。
どうやら目が見えないのも、麻痺も誰かに状態異常としてかけられたものだったことがわかった。
「あなたはだれ?」
「僕の名はルブ。奴隷として買われた君を悪い奴から買い取って君を治した命の恩人さ」
「わたしの名は…………思い出せない」
「一時的に脳が混乱状態にある、じきに思い出すさ、まぁこれからよろしくね」
彼女は差し出された俺の手を取り、微笑みこういうのだ。
「ありがとう」
「どういたしまして」
悲しい運命の二人が出会い、新たな物語を紡ぎ出す。
それがどんな物語になるかは、誰にもわからない―――———。
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