第45話 ラストワードはQBK①

 馬場は肉離れを起こして復帰まで2ヵ月となった。


 シーズン残り2試合はもちろん出場不可だ。

 仮に優勝できず3位から6位でシーズンを終了した場合、J1昇格へのプレーオフを戦うことになるがそれにも馬場は間に合わない。

 ホーリーランズは最大の武器を失ったまま優勝をJ1昇格を勝ち取らなくてはならなくなった。


 さらに次節のアウェー戦ではボブがイエロー累積で出場できない。

 前節の首位攻防戦で足がつって途中交代した永田も万全ではない。

 対戦相手のナンバーン宮崎も現在6位でプレーオフ圏内確保というモチベーションがあるので全力で来るだろう。

 これは非常に厳しい戦いになる・・・


 いっそガチガチに守備を固めて引き分け狙いでいくか?


 2位以下とは勝ち点差が3以上ある。

 引き分けで勝ち点1を取れば首位のまま最終節を迎えられる。


 いや駄目だ。

 一度でもそんな戦い方をしたらチーム全体がおかしくなる。

 酷い状態で最終節を戦うことになる。

 しかも引き分け狙いで戦って負けでもしたら目も当てられない。

 これまで勢いに乗って勝ってきた流れが完全に寸断されるだろう。


 「酷い顔をされてますわよ。どうなさいましたの?」


 妊娠中のクララに心配をかけてしまった。

 だが、ここで下手に誤魔化すのは逆効果だ。

 賢い婚約者は余計に心労を増してしまうだろう。


 「うちの得点源だった馬場が怪我をして今季絶望になった」

 「ええ、ニュースで見ましたわ」

 「知っていたのか。それに次の試合はボブも累積で出れないし、永田もコンディションがどこまで戻るか分からない」

 「つまり攻撃の選手が全員当てに出来ないという事ですわね」

 「そうなんだ。ふぅ~、頭が痛いよ」


 「ター君が点を取れば良いのではないの?」


 「ふぇっ?」


 想定外の提案に思わず変な声が出た。


 「だから貴方が点を取れば良いのですわ」

 「いやそんな簡単にはいかないよ」


 「そうかしら。今のター君は狙った場所にピンポイントで正確なパスが出せる程心技体が充実してますわ。その力をそのまま敵のゴールに向ければ良いのではありませんの?」


 「・・・それは難しいなあ」


 敵のゴールの中へパスか。

 これはパサーにとって永遠の課題だな。

 そんな発想ができるなんてクララも随分サッカーに通じてきたもんだ。


 これまでの日本代表にもパスの名人と言われる中盤の選手は何人もいた。


 だが、その名パサー達がゴールを量産したかと言えば否だ。


 針の穴を通すか如きスルーパスを何本も蹴ることができるのに、何故か敵のゴールの中へパスを通すことはできない。

 本当に不思議な話だ。


 「どうして出来ませんの?」


 「それはね・・・・・・俺にも分からないよ」


 「試してみましたの?」


 言われてみれば試したことは無い。

 ゴールに対してシュート練習をすることはあってもパス練習などしない。

 試合中でもシュートより威力の弱いパスを蹴って、もしゴールできなかったら相当の顰蹙ものだからな。おいそれと試すことなど出来ない。

 だが、袋小路にハマった今のホーリーランズには何か奇策が必要だ。

 やる価値はあるかもしれん。


 「そうだね。試してみることにするよ」

 「それが宜しいですわ」

 「ありがとう、クララ」


 俺はコスプレ姿の婚約者を抱き上げてベットへと運んでいく。

 ふふふ、たっぷりとお礼をしてあげないとな。



 


 11月の第三土曜日。

 J2リーグ第41節、アウェーでのナンバーン宮崎戦。

 馬場、ボブ、永田の3人を欠いたメンバーで俺たちは挑んだ。

 これまで通り攻めの姿勢を見せたが先発した前線の控え選手達は機能しなかった。

 小規模クラブの悲哀だが選手層の薄さは如何ともしがたい。


 さらにうちの弱点を露呈する形で二失点した。

 センターバック二人が競り負けてセットプレーから得点を許した。

 センターバックの当たり弱さは開幕時からの課題で夏に補強する予定だったが、俺の問題発言の載った毎朝新聞騒動の影響で立ち消えになっていた。


 そして俺自身の試みは失敗した。

 敵ゴールの中へパスを通すことが出来なかった。

 俯瞰視の能力で見えなったのだ。

 敵のゴールの中へのパスコースが。


 こうして全ての攻め手を失った俺たちは12試合にぶりに敗れた。

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