第44話 好事魔多し②
「クソ、やられた」
前半を3-0で折り返したのに、後半開始5分で1点返されてしまった。
現時点で得点王のドスケビッチにセットプレーからヘディングで決められた。
俺の
相手がフリーキックを蹴るのを黙って見ているしかないからだ。
そしてどこに蹴るか予知できてもドスケビッチのフィジカルには対抗できない。
分かっててもやられるというやつだ。えーい忌々しい。
これで3-1にされた訳だが、俺はこの得点差が一番嫌いだった。
3点差から1点詰めれて2点差になる。
この時の緊迫感・プレッシャーはやってる者にしか分からない異様な物がある。
点がなかなか入らないサッカーにおいて3点差はかなりの大差だ。余裕だ。
それが2点差になると途端に余裕がなくなる。
次の1点を取られて1点差になったらまるで同点にされたような重苦しい気分になるのだ。
それが経験上分かっているから焦る。
特に長い間弱小チームにいた選手はその傾向が強い。
勝ち逃げよりも逆転負けに慣れているからだ。
だから次の1点は敵に取らせてはいけない。
俺たちが1点取って敵の息の根を止めなければいけない。
案の定マークが更にきつくなった馬場は使えない。
ボブと交代した大迫は半端ないのは名前だけでまだ戦力にはならない。
となると、俺様ドリブル小僧しかおらず俺は永田にボールを集めた。
何とか1点取ってくれと願いながら。
「ムシャさ~ん、僕ダメっぽいです」
後半25分だった。
その永田がピッチに倒れ込んで自ら交代を要求してきたのは。
「練習で本気を見せ過ぎて疲労が抜けませんでしたぁ。テヘ」
こ、こいつ・・・
ボブといい永田といい何でうちのFWはこんな馬鹿ばかりなんだっ。
ボブが前半にイエローを貰ったのだって馬場がハットトリックを決めたことで得点王が危うくなると焦ってラフプレーをやらかしたからだった。
無理はさせられないので永田は佐々木と交代させた。
これでうちの有効な攻め手はなくなってしまった。
残り20分、2点差をどう守り切るかの戦いになるな。
「武者野さん!俺まだイケます!」
いや馬場、そうは言ってもあれだけマークされたらさすがに無理だろ。
「必ずフリーになりますから見ててください!」
くぅ、お前って奴は・・・
他のFWがボブと永田のようなアホ揃いだけに泣けてくるぜ。
よし、言われずとも俺はちゃんと見てる。
お前がフリーになることができたら俺の体が勝手にお前にパスを出すさ。
「頼んだぞ、馬場」
「ハイ!」
そう元気良く返事して癒し系FW馬場は前線へ走り出した。
実際、追加点は喉から手が出る程欲しい。
守備に徹して逃げ切るには長過ぎるんだ。20分というのは。
直ぐに青森は
首位攻防戦なのだから負けられないのは向こうも一緒だ。
ここが勝負所と必死で攻め上がってくる。
俺は能力でパスコースを予知してボールをカットした。
その時、攻撃で前がかりになっていたマーカーを振り切って前線に飛び出す馬場が脳内で見えた。俺が出すべきパスコースとその後に馬場がゴールを決める予知イメージも見えた。
すると体が勝手に動いてパスを出す予備動作を始める。
あとはしかるべきタイミングでミスをしないように蹴るだけだ。
よしっ、今だ!
俺がボールを蹴ろうしたその瞬間、更なる予知イメージが薄っすらと見えた。
あ、駄目だ・・・このパスを出したら駄目だ・・・
そう本能が危険信号を発した時にはもう俺の右足は振りぬかれていた。
公私ともに充実しまくり今日もキレキレの俺が蹴ったボールは、無情にも1ミリの狂いもなく狙ったコースへと飛んで行く。
馬場も予知イメージ通りにゴールを決めた。
そして、その場でうずくまり立ち上がれなかった。
俺が見た予知の姿そのままに。
馬場まで失った俺たちはその後一方的に攻められ失点もしたが、4-2で天下分け目の戦いを制した。馬場の最後の一点が本当に大きかった。
しかし、3位水戸と4位福島も勝ったので今日のJ1昇格はならなかった。
そして首位攻防戦の勝利と引き換えに俺たちは最大の武器を失った。
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