第32話 JKカレンと魔女クララ③
「え、毎朝と何かアポイントありましたっけ?」
そう言ってから俺が慌てて記憶を辿っているとクララは
「こ、ここでするような話ではありません。さあ、行きますわよ」
腕を引っ張られながらクラブハウスから連れ出され、駐車場の俺の車の中へ乗り込まれた。
「早く出しなさい!」
そうだった。
本当にすっかり忘れていたけどクララはこういう女だった。
とりあえず車を出発させて通りを走る。
信号で停止したところでクララの姿をやっと落ち着いて観察できた。
白いシャツにタイトスカートなのは取材の時と変わっていない。
だがその性質が違った。
シャツはノースリーブになり白くて綺麗な両腕が晒されていたし素材もシルクのような光沢を放っていた。
タイトスカートは黒から落ち着いた色合いの紫に代わり裾の部分がヒラヒラしたフレアになっていて丈も少し短くなった。
さらに冷たい印象の銀縁メガネから明るい赤のフレームになってコケティッシュな色気が増している。
例えるなら、今日は仕事ではなくまるでプライベートの様な柔らかくて隙のある装いをしていた。
カレンという若い恋人ができたというのに思わずクララに見惚れてしまう。
大体その爆乳の谷間にシートベルトを埋めるの反則だろー。
俺はムクムクと湧き上がる獣欲をかき消すように事務的に問いかけた。
「お昼はまだですか?」
「まだですわ」
「じゃあとりあえず食事にしましょうか?」
「異論はありません」
以前、四条さんを連れて行った隠れ家的な小料理屋へと俺は車を走らせた。
「それで今日はどういったお話でしょうか?」
小料理屋の二階の個室席で食後のお茶を飲んだところで本題へ入った。
「このような誰が聞いているか分からない場所で話せることではありませんわ」
んんん、一体何だというんだ?
どんな特ダネを俺から引き出そうと考えてるんだ?
俺にはもう他に公開してない記録や信念や秘密なんてないぞ。
はぁ、とにかく埒が明かないな。
何処へ行けばいいのか率直に訊くしかないようだ。
「どんな場所なら良いのですか?」
「どこか二人きりなれる所ですわ」
えっ!?
その言い方は誤解を招くと思うんだが天然のクララだからなあ。
あまり勘ぐっても疲れるだけか。
「二人きりになれる場所と言われても俺の部屋は不味いですし・・・」
「何が不味いのです?」
一番不味いのは女子高生のカレンの痕跡がたくさん残っていることだが、それを話すことはできない。
「写真週刊誌のような手合いが潜んでいるかもしれません。毎朝新聞の記者である立花さんと一緒にマンションへ入るところを撮られたら問題になりますよ」
「私に後ろ暗い所は何一つありませんが確かに下衆の勘繰りをされそうですわね。どこか他に良い場所は無いのですか?」
「あとはもうその手のホテルぐらいですよ」
ちょっとウンザリしてきたので嫌味の一つも言ってみた。
「ではそこへ向かいなさい」
俺はシャワーを浴びながらこの状況を考察していた。
「どうしてこうなったんだ・・・?」
ラブホテルの一室へ入るとクララは何も言わず先にシャワーを浴びた。
そしてバスローブ姿で出てくると貴方もどうぞと目で指示され今に至る。
毎朝新聞の魔性の女は最初からこういうつもりだったんだろうか?
いや、本物の天然だから言葉通り二人きりで話せる場所に来ただけという線が濃厚な気がする。
ここで調子に乗ってクララに迫ったりしたら裁判沙汰になっても不思議じゃない。
そうなったらもう完全にこれハニートラップだろ。
とにかく落ち着いて冷静にクララの話を聞くだけでいい。
俺は彼女の望み通り誰にも聞かれない場所に連れて来てやったんだから、次はクララが行動を起こす番だ。
よし、そう決めたら迷いも消えた。
魔女に惑わされない様に気合い入れていこう。
部屋に戻るとクララはソファーに座ってミネラルウォーターを飲んでいた。
俺も冷蔵庫から同じものを取り出しクララの隣に座る。
二人掛けだったので自然と距離を詰める形になった。
肩が触れ合う度にドキッとするがエロいこと考えちゃダメだ。我慢だ。
「さあ、ここなら誰にも聞かれませんから話して下さい」
「・・・私は約束を果たしに来ただけですわ」
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