第30話 JKカレンと魔女クララ①
沖田の予想通り、日曜日のアニメイトスタジアムは開幕戦以来の満員御礼となった。
そして、沖田の提言通りに圧勝した。
馬場が2得点、ボブと永田と山内が1得点の計5得点。
これは今シーズンの最多得点だ。しかもこちらは無失点。
5-0と一方的になったこの試合、アニメイトスタジアムは恐らくクラブ創設以来の盛り上がりっぷりを見せた。
とにかく俺がボールを持てば、プレーに絡めば大声援。
前線にスルーパスを送ろうものなら悲鳴に近い歓声がスタジアムにこだましまくった。
もちろん俺はオフサイドになるようなパスは出さないからその度に大拍手。
アシストになった決定的なキラーパスには敵の一部サポーターからも歓声と拍手をもらった。でも良いのかそれで。
とにかく、武者野拓哉を大歓迎するパーティーのような雰囲気の中で試合が始まり終わったという印象だ。
試合後もそれは変わらなかった。
武者野拓哉コールがスタジアムの至る所で沸き起こる。
選手たちと勝利を喜び合い健闘を称え合った後、俺は観客席の前をぐるっと一周しながらサポーターたちに感謝を伝えた。
あぁ、本当に良かった。
俺はサポーターからも許された。また愛された。
今日という日を決して忘れることはないだろう。
だが、まだだ。
これまで苦しんだ分、苦しめた分を取り返すにはまだ全然足りない。
ここからが再スタートだ。
チームメイトのため、クラブのため、サポーターのため、そして俺自身のためにホーリーランズ尾道をJ1へ連れて行く・・・・・・
他の誰でもないこの俺が!
「冷たいもの用意するから適当に座っててよ」
日曜のホームスタジアムで5-0と圧勝した翌日、スケ番ギャル風JKのカレンちゃんが俺の家へやって来た。
男の部屋に入るのは初めてなのか、落ち着かない様子でリビングのソファーに座ろうとしている。
俺はオレンジジュースを二人分グラスに注ぎ彼女の前に一つ置くと、少し考えてからカレンちゃんの対面ではなく、同じソファーの右隣に座った。
「今日は来てくれてありがとう」
「ア、アタシも逢いたかった・・・から・・・・・・あ、いただきます」
男慣れしてないのか一杯一杯という感じのカレンちゃんはジュースを口にした。
彼女は胸元に大きなリボンのついた白いシャツにチェックのミニスカートというS女子高の制服を着ている。
もちろん一目でJKと分かる恰好で家に来られたら変な噂になってしまうし何処でフライデーされるか知れたもんじゃないので、俺がお願いしたウインドブレーカー姿でこのマンションにやって来たのだが。
しかし、その下に制服を着てくるなんて思ってなかった。
恐らく白ギャルに入れ知恵されたんだと思う。
中年男は制服に弱いとかなんとか。
悔しいがその作戦は成功だよ。
俺の家に女子高生が来て隣に座ってるなんてさっきからドキドキしっ放しだ。
カレンちゃんはその気で俺の家に来たってことだろうしな。
改めてカレンちゃんを観察させてもらうとその背の高さが一際目立っている。
どのぐらいあるんだろう?
「カレンちゃん、身長いくつあるの?」
「えっ、あの・・・ヒャクハチジュウ・・・・・・ヨンだけど」
あちゃー、答えにくいことをつい聞いちゃったな。
スケ番ぽく見えても女の子なんだから気にしちゃってて当然だった。
俺もカレンちゃんと同じぐらい緊張してたみたいだ。
だけど、180センチとサバを読もうとして最後は正直に184センチと白状したカレンちゃんはやっぱり良い子だと思う。
その想いにちゃんと俺も応えてあげないとな。
「俺、カレンちゃんみたいな大きな女性がタイプなんだよ」
「う、嘘っ・・・別にアタシなんかに気を使わなくたっていーよ」
「昨日は俺の言葉を信じてくれたのに今日は信じてくれないんだ?」
「ええ、だってそれは・・・」
こういう話に慣れてないのかカレンちゃんは何も言えなくなってしまった。
「随分日焼けしてるみたいだけどスポーツやってるのかな?」
「ああ、うん。アタシ、バスケやってるんだ」
へぇ、バスケか。
女子高生で184センチあったらかなりの戦力になるだろうなあ。
背が高いだけじゃなくて足もかなり太いしフィジカル強そうだ。
そんな俺の視線を敏感に察したカレンちゃんが小さく嘆いた。
「アタシ、足太いだろ・・・」
こんな女は嫌だよな、というニュアンスが思いっきり込められている。
「いや、むしろ好きだよ。肉付きのいい女は凄くそそられる」
「フ、フーン、そうなのかぁ」
どうやらお世辞を言われてるのではなく、
「高三だと部活は夏で引退だよね。バスケはこれからも続けるの?」
「うん、アタシ、スポーツ推薦で大学決まったんだ」
「凄いじゃないか。じゃあ今もトレーニングをやってるんだね」
「ああ、肘を少し痛めちゃったから、水泳中心だけどな」
そうかあ。バスケで大学行くほどの選手だったか。
この体なら大学どころかもっと行けそうだよな。
「もしかして、プロになることも考えてるんじゃない?」
ビクン!
プロという言葉を聞いたカレンちゃんの体が震えた。
何か事情があるのかもしれない。
こいつはまた地雷を踏んじまったか・・・
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