第29話 コギャル無双②

 「まぁまぁ、山内が俺やチームの為を思って言ってくれてることは分かるけど、チームの為にもできれば穏便にすませたいんだ。少し俺にも話させてくれよ」


 「どうぞ」


 山内はさすが察しがいいですねという顔で素直に引き下がった。

 俺はポケットからハンカチを取り出してスケ番ギャルの涙を優しく拭う。

 泣き顔を見られたくなくて逃げようとするスケ番ギャルを、いいからと強引に従わせた。

 他の女子高生たちは少し引いて見守ってくれていた。


 「名前を教えてくれる?」


 「・・・トミナガ カレン・・・」


 「カレンちゃんは、」漢字は可憐と書くんだろうか、この巨娘にそれだとクララみたいに地雷かもしれん。触れずにおこう。


 「俺のファンになってくれたってことでいいんだよね?」

 「そうだよ。本当にそれだけなんだ」

 「分かってるよ。変だと思うだろうけど、俺には分かるんだ」

 「アタシ、信じるよ。武者野さんがそう言うなら」

 「ありがとう。じゃあ改めて一緒に二人で写真撮ろうよ」


 途惑う彼女をそのままに俺は三つ編み委員長に写メをお願いする。

 スケ番ギャルはどうしていいか分からず10cmぐらい離れて立っていた。


 「腕組みはちょっと不味いけど、手を繋ごうか」


 返事も待たずに俺は彼女の手を取り恋人つなぎをした。このぐらいはギリ大丈夫だろ。

 目で見てはいないが、カレンちゃんが顔を赤くして照れているのが分かる。

 意外と初心なんだな。スケ番っぽいから男断ちしてたのかもしれん。

 ちょっと悪戯心が湧いてきて、握った手にギュッと力を込めた。


 すると、つないだ手から彼女の身体に電気が走ったのが伝わってくる。


 おかしなもんだ。

 自分から密着して胸を押し付けてた来た時はたいして興奮してなかったくせに、俺の方から手を繋いで少し力を込めただけでメロメロになるんだから。

 忘れてたなぁ、この甘酸っぱさ。


 その後、黒ギャル、お嬢様ギャル、白ギャルの順で写メを撮った。

 頼まれてしまったので手を繋いだ状態でだ。

 そして、最後の白ギャルと手を繋いだときには異物感があった。

 電話番号が書かれたメモだ。山内に気付かれないようそっとポケットにしまう。


 「トミっちの様子を教えてあげるから夜連絡して」


 白ギャルは離れぎわにそう囁いてきた。

 うーん、ハニトラの線はまだ残ってるのかもな。気を付けよう。

 こうして、何とか強引に丸く収まりコギャルたちは帰っていった。

 俺もホッとしたら空腹を思い出したのでJK無双の山内を誘いランチをおごってから帰った。




 「トミっちは5月で18歳になってるから、ヤっちゃっても大丈夫だよー」


 その夜、白ギャルに渡されたメモの番号に電話してみると、挨拶もそこそこにとんでもないことを言われた。


 「落武者さんがあんな神対応するから、トミっちもう凄いことになってるよー」

 「いや、ちょっと、」待てと言いたいのに白ギャルは言わせてくれない。

 「怖いお兄さんも良いスパイスになってたよねー。あれわざとでしょー?」

 こいつ、馬鹿を装ってるが頭いいな。


 「とにかく、このままじゃトミっちが恋煩こいわずらいで死んじゃうから責任とってよー」

 「いや、だから、」話を聞けと言いたいのに白ギャルは言わせてくれない。

 「落武者さん離婚して今は独身だし恋人いないし、トミっちは18歳で淫行にならないしで何も問題ないよー」

 こいつ、俺のこと調べたのか。本気で油断ならないな。


 「それに、ヤっちゃったからって結婚を迫るとかないんだしさー」


 え、そうなのか?


 「そんなの当たり前じゃーん。年の差考えれば現実味ないっしょー」


 じゃあ、俺にどうしてほしいんだ?


 「だからー、恋愛に夢見てるトミっちと行く所まで行っちゃって、そーゆー現実を気付かせてあげてよー」


 行く所まで行っちゃったらダメ・・・じゃないな・・・確かに自由恋愛で問題はない。不倫じゃないし、相手は一般人の女性だから実名報道もされないだろう。

 だがしかし・・・


 「それだと、ただのヤリ得で悪いとか思ってるっしょー」


 こいつ俺と同じ能力者か!


 「そんなの男の思い上がりだよー。トミっちの方だって落武者さんと気持ちイイことして飽きたら捨てるんだから同じヤリ得でしょー」


 え、俺って捨てられちゃうの?


 「JKの恋愛なんてそんなもんだよー」


 なんも言えねー。

 いい大人なのに女子高生に言いくるめられてしまった。


 「というわけで、日曜の試合の翌日に会ってあげてねー」

 「いや、試合後からずっと取材攻勢で空いてないんだよ」

 「試合翌日は午前のリカバリーだけだから午後から取材でも夕方には体が空くっしょー?」


 ストーカーかよ。

 何でそんなに詳しいんだ。マジで怖くなってきた。


 「いーい、今ちゃんと会ってあげないとトミっちが思い詰めてストーカーになっちゃうからねー」


 ドッキンコ!

 駄目だ。こいつには口で勝てる気がしない。


 「それにさー、落武者さんだってトミっちのことタイプじゃーん。女っ気なしで溜まってるんだから、いろいろ吐き出すのにちょうど良いと思うよー」


 女の子が吐き出すとか言うなー。しかも俺のタイプまで見透かされてるし。


 「分かったよ」

 絞り出すような声でそれだけ言った。

 「ありがとー。今すぐトミっちに電話してあげてー。番号言うねー」




 「俺、武者野だけど・・・」


 「はい、アタシだよ。本当に電話くれたんだね・・・」


 カレンの声を耳元で聴いた途端、なんて言うべきか忘れてしまった。

 俺に好意を寄せてくれてる女の声が鼓膜から脳へ達し甘く染み渡っていく。

 もっと聴いていたいと思った。電話じゃなくて直に聴きたいと思ってしまった。

 電話する前には、やっぱり理詰めで説得して会えないと言おうと決めていたのに・・・

 しばしの沈黙の後、無意識に俺はポロっと本音を漏らしていた。


 「・・・逢いたい・・・」


 「・・・アタシも・・・」


 それだけ言葉を交わしたあと、また沈黙が訪れた。

 お互いの息遣いきづかいだけが電波を通じて交換される。

 それだけで、心も通じているのがハッキリ分かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る