第24話 落武者Jリーガーの大逆転④

 既に立ち上げてあったパソコンのブラウザを開く。

 まず、スポーツニュースをまとめている人気サイト「スポーツ・チェイサー」を覗いてみた。

 そして驚いた。


 俺の記事がトップに掲載されてる!


 「衝撃映像!中東の奇跡は事実だった」「悪役から一転ヒーローへ」といった見出しが躍っていた。

 全てのスポーツ紙がネット上に俺の記事を上げているようで、そのどれもが好意的なものだった。

 正直、持ち上げすぎだろという内容のものもあったが、メディアとはそんなものだ。落とす時は徹底的に落とすが、上げるときはやっぱり徹底的に上げる。そうすることでギャップを大きくしてニュースバリューを高める。

 ある意味自作自演だ。


 ともかく、その効果もあって各記事のコメント欄には、俺への称賛、驚愕、そして謝罪が並んでいた。


 そして、そんな俺への手のひら返し評価を猛烈に後押しする記事がついさっきアップされた。

 その発信源は、セルジオ備後びんご。日本のサッカーご意見番の最重鎮だ。

 彼の超辛口批評は他の追随を許さず、その激辛さはセルジオかハバネロかと言われるほど辛辣だ。

 そのセルジオ備後が、中東の奇跡について素直に感動し、俺のオフサイドの信念について賛同する旨の記事をネットに寄稿したのだ。


 これには、「あのセル爺が褒めた!」と全国のサッカーファンが驚き、それが「武者野凄い」に変換され、俺の再評価に対する超追い風となっていった。


 次に、ツイッターを覗いてみた。

 真っ先にトレンドを見てみると、ここにも俺に関するワードが溢れていた。


 「中東の奇跡」「俺は見てるぞ」「スポーツ・ミックス」「超能力」「♯落武者Jリーガー△」「えなりかずき」などだ。


 ボブのとばっちりを被弾した芸能人はさておき、ツイッターでも俺の評判は最悪から最高へとV字回復しつつある。


 そんなツイートをハシゴしてえつに浸っていると、中にはスポーツ・ミックスで使用された現地観客のビデオ映像を張り付けているものがあって結構バズっていた。

 これはもしかしてと思い、動画投稿サイトYoutubeに行って検索してみるとやっぱりあった。


 番組が中東で探してきたあの決定的な映像がアップされていて、もの凄い勢いで再生されている。

 スポーツ・ミックス的には違法アップ止めろなんだろうが、俺的には正直ありがたかった。

 一人でも多くの人に観てもらいたいというのがいつわらざる心境だからだ。

 その動画のコメント欄もスポーツ・チェイサーやツイッター同様に手のひら返し絶賛が並んでいた。


 ただ、それらのネット評価には一つの共通点がある。


 中東の奇跡については有罪から完全無罪へと100%くつがえっていたが、オフサイドへの信念についてはまだ賛否別れていた。今回の悪者が英雄への感動劇とセルジオ備後の賛同で、賛否の割合は2対8から真逆の8対2ぐらいまで大逆転していたが、まだ一定数の批判者は存在した。


 もう一押し欲しい。

 俺への評価が国民総イイねになるぐらいの決定打が欲しい。

 まぁ、さすがにそこまで望むのは贅沢かもな・・・

 ただ、これまで大迷惑をかけてきたクラブやチームメイトの為にも今だけは貪欲になりたい。

 そんなことを考えながら、またツイッターへと戻る。


 すると、既にその決定打が放たれていた!


 その立役者は、Jリーグの良心と謳われる人格者で日本サッカー界の帝王、キング安だ。

 40代半ばでありながら今も現役Jリーガーという鉄人の安武和利が、俺のオフサイドの信念についてツイートしてくれていた。


 「僕もプロサッカー選手の、フォワードの一人として、オフサイドには思う所がある。武者野君の厳しい言葉は今のサッカー界に必要ではないか。怠慢でオフサイドを犯すプロが本当に多くはないか。僕はそう思う。そして一度もオフサイドに関わったことがない彼を僕は心から尊敬する」


 このキング安のツイートは瞬く間に拡散されていった。

 それに伴って武者野株もさらに上昇していき、ついにこれ以上無いストップ高まで到達する。

 俺への批判、文句を言いたいだけのアンチは消滅と言っていいほど存在感を失くした。

 何しろ人格者で知られるキング安は、サッカー界の毎朝新聞、つまり正義の象徴だったからだ。

 そのお陰で、今度こそ、ネットは世間は俺の味方一色へと変貌していく・・・


 こうして俺は再び時の人となった。


 正真正銘のヒーローとして。

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