第23話 落武者Jリーガーの大逆転③
そうしてる内に、スポーツ・ミックスはボブのターンになっていた。
驚いたことにボブのアドリブは一つもカットされずに放送されていく。
ボブは簡単な紹介ビデオの後に昨年のJ1浦和スカーレッツ在籍時のヤンチャ行動が弄られた。
その度にボブは「ファック」「ユーお母ちゃんファッカー」「ホーリーうんこ」を連発しピー音が被せられる。
そして、埼玉の特殊な風俗店から出てくる写真が晒され非難されたボブは激しく抗弁する。
「これ合法ヨ!ボブ何も悪くないヨ!」
「まぁ確かに犯罪じゃないですよ。でもこんなエグいの行くのお前だけやで!」
「ボブだけじゃナイ 他にモ有名人来てたヨ」
「ほんまか!? 誰や、誰が来とったんや?」
「ほらアレ 泉ピン子とドラマ出テル 丸刈リ少年」
「えなりやんけ! そんなん、えなりかずきしかおらんやんけ! ボブぅお前ほんまかぁ? そんなん信じられへんぞ」
「ほンとのほンとヨ 事実は小説よりえなりかずきヨ!」
ここでどっとゲストたちから笑い声が起こり、カマちゃんも笑っていた。
だがこれは編集の妙だ。
収録時には明らかに滑っていて失笑しか出てなかったからな・・・
そこからボブは、今までの話は全部でっち上げ、ヤラセだと主張し始めた。
「こらボブ、お前えー加減にせーよ。ネタは全部上がってんねんで!」
そう突っ込まれたボブは、待ってましたとニヤリと笑い、ドヤ顔で鉄板ネタをぶっこんだ。
「それでもボブはやってない」
某痴漢冤罪映画のパロディだった。
直立不動で両手に手錠がかかっているあのポーズ付きでやらかした。
これのスタジオ収録時の空気も本当に寒かった。
ただ、何故かカマちゃんだけは相当にツボだったらしく本気で爆笑していたが。
こうしてスポーツ・ミックスの放送が終わった。
まさかのボブがトリだった。
そのうえボブのアドリブが全部放送されていた。その分、台本通りのシーンがほとんど削られていたが。
ボブのシーンは時間にして4分ぐらいだったが、この編集が吉とでるか凶とでるか・・・
そんなことを考えていると、いきなり着信音が二つ同時に鳴ってビクッと体が跳ね上がった。
家の電話とスマホが全く違うメロディを奏で不協和音がリビングに響き続ける。
一瞬、どっちに出れば良いんだと混乱したが、家電は留守録にまかせてスマホに出ることにした。
「もしもし」
「武者野さん、俺です。馬場です」
「おう、早速電話くれたのか」
「はい、テレビ見ました。武者野さん本当に凄かったです! それなのに俺たち・・・いえ、俺は信じてあげられなくて、本当に申し訳ありませんでした!」
「良いんだよ。信じろってのが無理な話なんだから」
「でも・・・」
「いいから気にするな」
「すいません。この電話だって本当は明日、直接会って話すべきだと思ったんですが、どうしても早く伝えたくて・・・」
「ああ、分かってるよ」
「武者野さん・・・俺、やりますから、ここから絶対に復活してみせますから!」
「ああ、お前ならできる。お世辞抜きでお前には本当に期待してるんだ」
「ありがとうございます! 夜遅くにすいませんでした。失礼します!」プツ
礼を言うのはこっちだよ、馬場。
お前のお陰で、本当にこの賭けに勝ったんだと実感できた。
少なくともチームメイトの一人はまた俺を仲間だと思ってくれていると教えてくれた。
本当に感謝してるよ、馬場。
そう感慨にふけっているとまたスマホが鳴る。
今度は大学のサッカー部の仲間だった。バッシングが過熱した時に励ましの連絡をくれた奴だ。テレビを観て、良かったなと一言伝えたかったらしい。本当に良い奴だ。心から礼を言って電話を切った。
それからも絶え間なくスマホは鳴り続ける。
ユース時代、大学時代、J1時代の仲間たち、友人知人、良く知らない親戚などなどからだった。
その間にも、家電の留守録はどんどん件数を増やしていた。対応しきれない。
電話ラッシュがやっと落ち着いてきた頃には、番組終了から2時間が経っていた。
この時にはすっかり自信を取り戻していた俺は、ネット上の評判に立ち向かう決心もついていた。
電話をくれた人たちからの評価は上々だったが、それは皆、俺の知り合いだからというのもある。
それに対し、ネットはほぼ赤の他人の集合体、いわゆる世間一般だ。
しかも、そこで俺はこれまで散々な悪役だった。
スポーツ・ミックスによってかなりイメージ回復はできた筈だが楽観はできない。
世間なんて実体の無い空気みたいなもの。理屈も常識も通じないからな。
だが、そこに飛びこんで行くことに、もう躊躇はない。
もう怖くない。
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