第22話 落武者Jリーガーの大逆転②
イエス!! サンキューカマちゃん!
この流れならもう大丈夫だろう。
俺はやっと少し安心して番組を見れるようになった。
だがもちろんまだ油断はできない。ここまで、落として上げて落として上げてと来た。さらにまた落とされても全く不思議じゃないからな。
テレビ画面には当時の観客が撮ったビデオ映像が流され始めた。
俺が蹴ったボールが自分の方へ向かってきたので一瞬ビクッと映像が揺れたが、そのままボールの行方を追うと右後方にいた男の腕にぶち当たった。
男の手からはナイフが飛び上がり離れた所へ落ちる。
撮影者はまさか狙ったのかとカメラを俺に向けてズームにする。
俺は右手をVサインにして自分の両目に当てる仕草をしてからその右手を暴漢に向けた。その際のドヤ顔もアップでばっちり映っていた。
その間、撮影者は興奮してアラビア語で何か叫んでいる。
そこでビデオ映像の再生は終わった。
「落武者ぁあああ、ワレほんまやったんかーい!」
カマちゃんが素で興奮したように叫ぶと、共演していた他のスポーツ選手たちからもスゴーイとかマジ半端ないとか続々と称賛の声があがる。
まぁそこは台本なんだがカマちゃん同様に素で驚いてるようだった。
「お前これほんまに凄いやん。まんまヒーローですやん」
「まぁ我ながら出来過ぎだとは思います」
「でもなあ、お前これほんまに狙うたんか? 小便しに行きたくてボール蹴りだしただけちゃうのん?」
「違いますよ。俺は見てるぞって暴漢にサイン送ってたじゃないですか」
「いやあなた、ドヤ顔で変なVサインしてただけでしょ」
「あれはVサインじゃありません。人差し指と中指を自分の両目に当ててから相手に突き出すのは、俺は見てるからな、という海外のジェスチャーなんですよ。日本ではあまり知られてないですけどね」
「え、それほんまか?」
カマちゃんがスタッフの方を大袈裟に見る仕草をする。
「それのブイがあるんか? さっき一緒に流せばえかったやん。まぁとにかくそれ観てみましょ」
今度は先程の撮影者の男性のインタビュー映像がテレビ画面に映される。
男性は撮影した時の様子を懐かしそうに語り、まさか狙ったのかと思ってその選手をズームしたら、俺は見てるぞのジェスチャーをしたから本当に狙ったんだと確信して大興奮して大騒ぎしちまったよと笑っていた。
「落武者ぁ、なんやこれお前、メチャクチャかっこええやんけ」
そう言ながら、俺がやったジェスチャーをしてみせる。
他のゲストからも、私もそんなジェスチャーがあるの知らなかった本当にスゴーイと誉め言葉が出る。台本なんだろうけど素直に嬉しかった。
「くそぅ、結局、落武者の言う通りやったわ。ほんま良かったな落武者」
「ご尽力いただき本当にありがとうございました」
「でもなぁ、お前これ格好良すぎるで。だから残念・・・全部カットやわぁ」
カマちゃんが会心の笑みを見せて俺のシーンは終わった。
俺はそこまで見届けると、ソファーから乗り出していた体をドサッと背もたれに投げ出し、そのままへなへなっと沈めていった。
はぁ~、どうやら俺は賭けに勝ったようだ。
これで俺とホーリーランズに対する世間の風向きはガラッと変わる・・・たぶん・・・
「いや、たぶんじゃない、絶対に変わるはずだ!」
そう声に出して自分に言い聞かせるが、それを確認するのが怖い。
ネットでは既に番組の反応が出始めているだろうが、直ぐに見る勇気が湧いてこなかった。
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