第19話 本当の絶望と最後の希望①

 こうなるともう誰も止められない。


 そう判断したクラブは、人々が別の話題に注目し俺たちに関心をなくすまで静観することにした。

 確かに他に手はない。

 自宅もメディアに張られているであろう俺はホテルを予約した。

 練習にもしばらく出ることはできない。確実に試合に影響するだろう。


 どうしてこうなった・・・

 心が折れ失意の底で打ちひしがれるいると、俺を呼ぶ声が聞こえた。


 「タック」


 監督ぅ・・・このカオスも監督の予定通りで対応策があるんですか?

 お願いだからそうだと言って下さい!


 「ほんま信じられんことになっとるのお」


 ダメだこの人。やっぱりただのゴリラだったんだ。

 なんでこの状況でそんなのほほんと気軽にものが言えるのか。ゴリ羨ましい。


 「ロッカールームまで探しに来るなんて、また何か問題が起きましたか?」


 「問題っちゅーか、取材や出演の依頼じゃ。ぎょーさん来とるぞ」


 ゴリ先輩はそう言って依頼元がビッシリと書かれたメモを俺に渡してきた。

 まぁそうなるよな。

 俺は本当に時の人になったんだから。メディアが群がるのは当然か。


 しかし、クラブの方針は静観になったはずだ。

 広報だけが最低限の声明の発信を行っている。

 「当面、取材とかは全て断ることになったんですよね?」

 「ほーなんじゃが、お前にもお前の考えがあるかと思うての」

 うーん、そう言われてもなぁと困惑しながら手元のメモに目を走らせる。


 んん? これはあの超有名スポーツバラエティ番組か・・・!


 俺はしばらく考えてから、ルビコンを渡る決断を下した。

 失敗したら少なくとも責任をとって現役引退しなくちゃだな。

 でもこのまま何もせずにはいられない!


 「監督、これに条件付きで出たいんですが交渉は可能ですか?」




 8日後、俺とボブは東京にいた。

 二人ともサングラスや帽子で変装をしている。時の人となった俺は特に面が割れているのだ。黒人のボブはいやでも目立つが東京ならそれほど珍しくないので特に支障はなかった。


 そのボブは今のところ大人しくしている。

 もちろん俺が餌を与えたからだ。

 ちゃんと言う通りにすれば俺のオマケでテレビに出してやるというご馳走をぶら下げた。

 俺はボブを引き連れ勝手知ったる東京をすいすいと移動し、とあるスタジオへ入った。


 ここで日本人なら知らない者はいないほどの超人気バラエティ番組「スポーツ・ミックス」の収録に挑む。


 この番組は様々なスポーツから旬な選手をゲストとして一堂に集めたトークショーだ。

 急遽出演が決まったので小さなトラブルがいくつかあったが何とか無事に俺たちは収録を終えた。

 ちなみに、トラブルの一つはボブが台本に無いアドリブをちょこちょこ突っ込んできたことだ。

 それがどれだけ放送されるか分からないが全てカットもありえる。ボブ人気者化の道はまだまだ険しい。


 俺が提示した出演の条件は、ボブの共演の他にもう一つあった。


 それをクリアするのは難しいかと懸念していたが、さすが天下のスポーツ・ミックス、少し日数はかかったがアッサリと俺の期待に応えてくれた。どれだけ金と人を使ったのかあまり想像したくない。


 とにかく、これで俺の打てる策はもう他にない。後はこの賭けがどうでるかだ。

 その結果は、番組が放送される約3週間後に出る。待つしかない。

 いや、違うな。

 良い結果が出ると信じて、それまで叩かれ続けるだろう自分とチームを持ちこたえさせないといけないんだ。


 そう決心してから、俺は繁華街へ遊びに行くボブと別れて東京にいる恋人、四条範江さんに逢いに行った。

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