第17話 魔性の女クララかく語りき③
クララは勝ち誇った目で俺を見てから、はぁ~とため息をついた。
「それにしても分かりませんわ」
おいおい、何が分からないのか知らんが、これ以上俺を追い詰めるのは止めてくれよ。
「どうして隠したりするのですか?」
「な、何のことです?」
「もちろん、貴方のオフサイドに対する信念です」
つまり、どういうことだ?
「私も毎朝の記者としてこの記事のためにサッカーのことは調べましたわ。そして貴方の信念は間違ってなどいないし、非常に卓越した見解だと判断しました。だからこそ、プロサッカー選手のあり方を世に問う素晴らしい記事が書けたのです。私は貴方の理解者として最大限の努力をしましたわ。それなのに、まさかこんな仕打ちを受けるなんて・・・本当に不本意です!」
ク、クララが俺の理解者!?
いやちょっと待て・・・天然のクララだから本気で言ってるなこれは・・・恐ろしいことだが。
それに、そう言われてみれば、確かにあの記事は俺への応援と読み取ることもできる。とんでもい煽り方をしてくれてはいたが。
ぷはぁ~、俺の理解者にして破壊者か・・・
クララはやっぱり魔性の女だったんだ。
「今回は俺の早合点だったみたいです。申し訳ありませんでした」
俺は素直に非を認めて謝罪した。
メチャクチャ迷惑だが真実を書いたクララに非はない。
「あるまじき裏切りに酷く傷つきましたけど、反省されたようなので謝罪を受け入れてあげます。ですが二度目はありませんですわ」
そう言ってニヤァと微笑むクララ。くっ、殴りたいその笑顔。
意気揚々とアウェーに乗り込んで来たのにバッサリと返り討ちにあい敗走モードになった俺が腰を上げて帰りかけようとすると、すっかりまた置物と化していた監督が口を開いた。
「もう一つ肝心なことをまだ言っとらんじゃろーが」
はい? まだ何かあったっけか・・・
「中東の奇跡の話じゃ」
あ! そうだ、それがあった。
居酒屋ホーリーランドでの俺の愚痴を監督がクララにリークしていた衝撃とクララに一本取られた屈辱ですっかりそのことを忘れてた。
純然たる事実を売名行為のように書かれていたから、むしろオフサイドの件より悪質だ。
記録に裏打ちされたオフサイドへの拘りは少ないながらも賛同者がいたが、中東の方は擁護者ゼロの勢いで叩かれている。
これは確かに問い質しておかないとここまで来た意味がない。
「立花さん、中東の件はどう釈明するんですか?」
「全くもう貴方という人は・・・素直に反省したかと思えばまだ懲りないのですね」
「しかし事実なのに、俺が作り話で関心を集めようとするのは不道徳みたない書き方だったじゃないですか」
「貴方の話が事実だという確証を得ることができませんでしたわ。もともとが俯瞰視という非科学的な話のうえに証拠が何もありません。この件で私たちが事実だと分かっているのは、中東の産油国イラブでの試合中に貴方が大きなミスキックをしてボールを観客席の上段にまで蹴ってしまったことと、その直後に貴方がその観客席に向かって右手でVサインを突き出していたことだけです。これは当時の試合映像で確認できましたし、他の代表選手の証言もあります。しかしこの確認された事実だけでは、貴方の話を鵜呑みにした記事など書けませんの」
「それに、この件で貴方を窘めるように書いたのは、通算オフサイド記録ゼロの価値を汚さない為ですわ。眉唾な話を好意的に書くと提灯記事と思われて真実の記録まで色眼鏡で見られてしまいますもの。そんな私の心遣いをどうして理解して下さらないのかしら。本当に情けないですわ」
ぐぬぬ、そうなんだよなぁ。試合の中継では観客席の肝心のシーンは映ってなかった。もっとグランドレベルの席ならカメラも抜いてくれたんだろうけど、上段だったからカメラマンが追えてなかった。サッカー放送に歴史のある欧州の国だったら違ったかもしれんが。
とにかくそこは言っても仕方ない。それよりこっちだ。
「だったら、いっそのこと中東の話はカットすれば良かったじゃないですか?」
「それはできませんわ」
「どうして?」
「今後、他社が書いてしまったら私がすっぱ抜かれた形になってしまいますもの」
お前の都合かーい!
俺の理解者はどこに行った?
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