第16話 魔性の女クララかく語りき②

 毎朝新聞の広島支局ビルに到着した俺たちは、受付で来客用入館証を渡してもらい、立花クララのいるオフィスへ向かった。


 この時に受付から案内人が同行すると言われて驚いたが、このビルの内部は迷路のように入り組んでいるので案内が必要らしい。

 どうやら襲撃者に対する備えらしかった。

 目的地まで容易にたどり着けなくさせる為だ。

 巨大出版社などの自社ビルもそうなっていると教えてくれた。

 これはゴリ先輩が襲撃しても失敗に終わったかもな・・・


 グルグルと遠回りしてから俺たちがクララのオフィスにたどり着くと、彼女は機嫌良さそうに俺たちを迎えて3人で使うにはかなり大きめの会議室へと連れていく。

 お決まりの挨拶をした後、俺は持参した今日の毎朝新聞をドンとテーブルに置いて来訪の目的を簡潔に告げた。


 「説明してください」


 一瞬、彼女は何のことか分からないという顔をしたが、俺の態度を見てさすがに悟ったようだ。御礼に来たのではなくて文句を付けにきたのだと。そして、とても心外ですわという感じで言い放つ。


 「私の記事に説明など不要です」


 「しかし、事実とは違うじゃないですか。毎朝は、あなたはフェイクニュースを書かないんじゃなかったんですか?」


 「な、私は嘘偽りなど一切書いてません!」


 「俺が言ってないことを、さも俺が言ったように書いてありますよ」


 俺はスポーツ面を開いて例の『オフサイドにかかる選手は無能でプロ失格。異論は認めない』の部分を人差し指でトントンと叩いた。どうだ、ぐうの音も出まい。


 しかし、クララは全く動揺せずにツンとしたままだ。

 そして、メガトン級の爆弾発言を投下した。


 「そちらの監督が仰いましたわ」


 えっっっっっ!?


 クララの言葉にまるでガツンと後ろから頭を殴られたような衝撃を喰らった。

 クラクラしながら隣の監督に顔を向ける。


 「確かに言うたのお」


 言ったんかーい!


 何これ。

 何で監督はここに来る前にそれを教えてくれないの?

 つかYOUは何しに毎朝へ?


 と、と、と、と、とにかく、こののまじゃ終われねえ。何か言い返さないと!


 「で、でもですよ、監督に聞いたとしても、どうして俺に確認しなかったんです? それじゃあ伝聞の噂話でしかないじゃないですか?」


 「私は貴方にも確認しました」


 「嘘だっ!! 俺は無能やプロ失格なんて一言も言ってない」


 「そうですわね。でも話をお聞きした時、貴方の顔はそう言ってましたわ」


 「そんな無茶な!」


 「貴方は言葉ではもう少し柔らかい表現をされていましたが、心の中では私が書いた通りに思っている筈です」


 「・・・立花さんの思い過ごしですよ」


 「誓ってそんなことは考えていないと言い切れますか?」


 誓えるわけがない。子供の頃からずっとそう考えていたんだから。

 それが俺の拘り、アイデンティティなんだから。


 「もちろん裏も取りました。貴方のユース時代からJ1オレツエー東京までの同僚たちから。そして確信をもって記事にしたのです。何か間違っていましたか?」


 間違ってない。何一つ。

 ・・・これは俺の負けだ。

 クララはやっぱり毎朝の記者だった。有能で容赦ないほど公正だ。


 「いえ、立花さんの言う通りです」


 ノックアウトされた俺はこれだけ言うのがやっとだった。

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