第13話 大正義新聞の魔女にご用心③
「お待たせしました」
そんな俺の煩悶をあざ笑うようにタチバナさんはソファに姿勢よく胸を張って座りその盛り上がりを見せつける。
「もう喜んでも結構ですわ。貴方のことは私が責任をもって記事にして差し上げますから」
どうやら、俺の記録のことを知らべさせた結果に満足したようだ。
タチバナさんの俺を見る目が、虫けらから獲物へと変わった。
甚だ不本意だがチームの為に喜ぶべきだろう。ただし、貰うモノは貰う。
「それでは、今度こそお名刺を頂戴してもよろしいでしょうか?」
一瞬嫌そうな表情を見せたが、まるで犬の鼻先に餌を見せつけるかの如く名刺を差し出してきた。
「どうぞ」
いや別にお前の名刺が欲しくて仕方なったか訳じゃないからな。勘違いするなよ。
「頂戴します」
そう言って両手で受け取った名刺を見ると、そこにはこう印刷されていた。
「立花・・・クララ!?」
「それが何か?」
クララなんてガラじゃねえだろ! ロッテンマイヤーだろ!
とはさすがに言えん。
しかしこの名前はどういうことだ?
「いや、その、ハーフの方でしたか」
「私のどこがハーフに見えるんですか!?」
荒ぶっていらっしゃる。
どうやらこのキラキラネームが地雷だったようだ。
「も、もちろん見えませんとも。純和風でお美しくあらせられます」
「な、ま、まぁ目は良いみたいですわね。おつむとは違って」
あれ? 本気にして何か照れてるぞこの人。意外とちょろいのかもしれん。
「ともかく、毎朝に載せられるレベルの記事にする為にあといくつか質問を致しますので、貴方は正直に答えなさい!」
そうして彼女の気が済むまで取材に応じ、やっとOKを頂いたところ、隣ですっかり置物になっていた監督が口を開いた。
「中東の奇跡の話もせにゃあいけまあ」
うーん、あれはオカルトの類になってしまうから止めた方がいいと思うんだが。
実際、女神対応だった四条さんにすら話してないのに。さてどうするか?
「何ですか、その中東の奇跡というのは?」
クララさんがキラリと目を輝かせて喰いついてしまった。
こうなったらもう話さないと引き下がらないだろうなこの人は。
仕方ないので、俯瞰視でスタジアムの暴漢を見つけ蹴ったボールでナイフを弾き飛ばした話を可能な限り客観的に語って聞かせた。すると、クララさんは予想通りのリアクションを見せる。
「そんなこと出来るわけないじゃありませんか。馬鹿にしないで下さい! 私はフェイクニュースは書きませんから!」
プンプンという擬音が聞こえてきそうなほど模範的な怒りっぷりだった。
「ではこれまでとしましょう。正直申しまして素材は質素極まりないですけど、そこは私の手腕で何とか読むに堪えるものに仕上げて差し上げます」
感謝するようにと顔で告げてから、クララさんはメモや資料、レコーダーを仕舞って立ち上がる。
「貴方を時の人にしてあげますわ。本当に幸運でしたわね」
ほら早く感謝して礼を言いなさいとアイコンタクトしてきた。ウザい。だがドヤ顔も美人だ。悔しいがちょっとドキッとした。
「本日はご足労いただき誠にありがとうございました。立花さんの素晴らしい記事が掲載された暁には改めて御礼に伺います」
当然ですわねと満足気な顔をする立花さん。なんかこの人の顔芸も慣れてくると好ましく思えてくるな。
「八木沼さん、彼の写真を適当に何枚か撮っておいて下さい。私は先に車へ向かいます」
監督以上に風景と化していたカメラマンにそう指示を出すと、失礼しますと言って立花クララは去っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます