第12話 大正義新聞の魔女にご用心②

 「まだ貴方のことを本当に取り上げるかどうか決まっていませんから」


 勝手な妄想はお止めなさいとばかりに彼女は冷めた目で俺を見る。

 「まあそーとんがらんでもえーじゃろが。さっきも話したがこいつは凄い記録を持ったとんでもない選手なんじゃ。お前さんの言うニュースバリューとかいうのはワシが保証するわ」

 どうやら既に監督は俺の話を彼女にしているみたいだ。


 「いいですか、そのオフサイドという反則をこれまで一度も犯したことがない、関わったことすらないというのが、どれほど称賛に価するものなのか貴方の話では理解できないんです。そんなものは読者にも伝わらないし価値もありません」


 「ほーかあ、なんか難しいのお。タック、お前ならもっとエエがに伝えられるじゃろ」

 いや無理だ。そもそも何でこんな奴がウチに取材に来てるんだよ。

 だって明らかにサッカーに関してはずぶの素人だろこの記者。そんなのにどう凄さを伝えろと?


 しかし、ゴリ先輩の顔を潰すわけにはいかん。ますますゴリラ顔になる。俺が何とかしないと。


 あぁ、何だろうなぁ、この手の女に効きそうな言葉は・・・・・・


 あ、これか・・・


 「それでは、代わりに俺から話をさせてもらいますね」

 「フン、どうぞ」

 鼻ならしよった! 

 コイツどこまで高飛車になればぁぁぁ、いや我慢、がーまーんー。

 ふぅ、とにかく今はこの女の関心を惹かないとな。

 もうこのキラーワードを試すしかない。


 「この記録を持っているのは・・・・・・世界中で俺ひとりだけです」


 ガタッ!


 うわ、タチバナさんの顔が急に迫ってきた。

 テーブルに両手をついてソファーから身を乗り出し、初めて俺に興味を持ったかのようにジロジロと観察してから訊いてくる。


 「それは事実ですか?」


 よし、釣れた!


 「俺に世界中の情報を調べる術も暇もありませんけど、まず間違いないでしょうね」

 「少し、失礼しますわ」

 タチバナさんは立ち上がってドア付近まで移動するとスマホを操作し始めた。

 監督が不思議そうに彼女を見ながら小声で俺に問いかける。

 「急にやる気を出したみたいじゃが、一体どうしたんじゃ?」


 「あの手のインテリ女は世界という言葉に弱いんですよ」


 「なるほどのお」

 そのタチバナさんは、いいから早く調べなさいとスマホの向こう側に叱り飛ばしている。

 俺も改めて彼女を背後から上から下までじっくりと観察させてもらった。


 年は恐らくアラサー前後。

 三十路という言葉に過剰反応しそうなお年頃に見える。

 そして背が高い。

 俺はクラブ公式では171cmとなっているが、実際は168cmしかない。

 その俺より4~5センチは高い。

 その彼女が今はハイヒールを履いてるので並べば見下ろされるだろう。

 着ているのはフロントフリルの白いシャツに黒のタイトスカート。


 そんな彼女を一言で表現するなら、ザ・女教師だ。


 白いシャツはもちろん首元までキッチリとボタンが留められていて隙がない。

 ついでに言うと、銀縁のメガネをしており、胸は大きい。かなり大きい。

 スマホでしゃべりながら時折体の向きを変える姿が妙に艶めかしい。

 ヤバいな・・・そそられる・・・ありていに言えば、欲情する。


 ここ数年、元妻との泥沼の離婚騒動ですっかり性欲が減退していて男としては枯れ切っていた。

 それが、先日の四条さんとの情交によって眠っていたものが完全に目覚めた。

 それなのに、四条さんとは遠距離恋愛で会うこともままならない。

 要するに、溜まっているのだ。やりたくて仕方ない。


 そんな俺の獣欲をタチバナさんは刺激しまくる。

 人格は破綻しているが身体はもろにタイプだった。

 だからこそ不味い。気をしっかり持たないと・・・

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