第11話 大正義新聞の魔女にご用心①
東京に帰った四条さんから連絡があって、力足らずで申し訳ありませんと謝罪されたが、もちろん彼女のせいではない。
むしろ、少しでも俺たちの存在を世に広めてくれたことに感謝しかなかった。
それでも彼女は、私はまだ諦めてませんからと闘志を燃やしているようだ。
監督はこの結果を特に気にしていないようだった。
それよりも、四条さんとの仲を訊かれたので、既にハットトリックを決めて次の東京遠征の際もマッチメイクしていますと伝えると、試合前日だけは控えるんじゃぞと嬉しそうに笑っていた。
しかし、彼女との仲を取り持ってくれたことは本当に有難いんだが、ボブのことはどうするんだ?
もうすっかりボブ人気者化計画を忘れちまったんじゃないだろうな・・・
「タック」
お、噂をすれば影、いや別に噂してたわけじゃないか。うん、そこはどうでもいい。
「なんでしょうか監督」
クラブハウスのトレーニングルームまでまた自分で探して呼びにくるなんて本当に珍しいな。
「監督室まで来てくれ」
分かりましたと監督の方へ近づいていくと止められた。
「待つんじゃ、シャワーで汗を流してビシッと着替えて男前にしてから来い」
え、デジャブ?
何かただ事じゃないぞ。
四条さんの件でフライデーが現実になったか? まさかな・・・
そんな俺の葛藤を知ってか知らずか監督は茶目っ気たっぷりに言った。
「取材じゃ。毎朝新聞が来とる。派手にぶちかましたれ」
なんで日本一の全国紙が!?
毎朝新聞といえば、その信頼性と公平性から偏向が目立つ他紙をブッチギリで突き放して国民に支持されている新聞だ。毎朝イコール正義というイメージがすっかり定着している。故に毎朝から取材されたがる人気商売の者たちは枚挙にいとまがない。日本では毎朝を味方に付けたものが勝つのだ。
そんな天下の毎朝新聞まで監督は操れるのかよ・・・とんでもないな。
人間、いや、ゴリラ国宝だ。
ともかく待たせるわけにはんいかん。
直ぐにシャワーと着替えを済ませ髪も綺麗に整えてから監督室のドアをノックする。
「おう、入れや」
「失礼します」
監督室に入ると、ソファーに座った記者らしき女性とその斜め後ろでカメラを持って立つ男性がいた。
さすが毎朝だ。いかにもな専属カメラマンまで連れてきよった。ちょっと昂ぶる。
「毎朝新聞のタチバナさんじゃ」
「よろしく」
タチバナさんは立ち上がりもせずにジロリと目だけ俺に向けて全然そう思ってない挨拶をしてきた。
ビックリして2秒ほど固まってしまうと、早くお座りなさいこのポンコツとアイコンタクトまでされたぞおい。
おいおい、この人なんでこんなに無礼なんだよ。
毎朝新聞という大看板を背負っていると、人はここまで傲慢になれるのか?
というか、正義の毎朝はどこ行った? 実態はこんなものなのかよ・・・はぁ~
ほんと第一印象最悪だ。俺は苦いものを噛み潰したような気分にされた。
だが、クラブの為にこの取材を成功させなければならない。我慢だ我慢。
俺は努めてにこやかに監督の隣に座った。
だがふと気づくと、俺たちとタチバナさんを隔てるテーブルの上に名刺が置かれていない。
つまり、監督ともまともに挨拶していないということか。さすがにこれは許せん。
「武者野拓哉です。こちらこそよろしくお願いします。あの、よろしければ、お名刺を頂けますか?」
「必要ありません」
はいぃぃぃぃ?
地方のJ2クラブの人間なんかにくれてやる名刺はないってか?
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