第6話 お前のドリブルに欠けているもの①
J2リーグも10節まで日程を終えた。
我がホーリーランズ尾道の成績は4勝4敗2分けという完全な五分。
しかし、チームは明らかに下り坂を転がり始めていた。
シーズン序盤は勝ち星が先行していたのに、ここ三試合は1分け2敗と低迷していたのだ。
監督と俺が懸念していた通り、ボブと永田が抑えられ得点力が落ちたことが主な原因だった。
ただ、その中で光明と言えるのが、トラップ素人の大卒ルーキー馬場だ。
あれからずっとトラップを捨ててダイレクトシュートの特訓をさせていた馬場は、見違えるようにプレーが生き生きとしてきた。
相変わらず味方からのパスを浪費しまくっていたが、馬場はダイレクトシュートのミスには可能性を感じていたからだ。これはいつかモノにできると自分で感じているので失敗しても次だ次と前向きに挑んでいける。
逆にトラップに関してはそれがなかった。いくらやっても上達する気がしなかったから試合でもいっぱいいっぱいでミスを連発していたのだ。
そして実際に結果もチラホラ出始めた。
第10節は試合に負けはしたものの馬場はJ初ゴールを決めていた。
あの時の馬場は何かを掴んだような表情をしていた。今後が楽しみだ。
となると、ぼちぼちアイツの方をテコ入れするか・・・
「永田、ちょっと付き合え」
今日は午後練だけで明日は完全オフだったのでゴリ先輩直伝の強引さで連れ出した。
行先はもちろん居酒屋ホーリーランド。
今回は窓側ではなく奥まった静かなテーブルに座る。
とりあえずビールとつまみをしばし楽しんだ後、いきなり本題に入った。
「何が悪いか自分で分かってるか?」
「・・・最近結果が出てないのはムシャさんがパスくれないからですよ」
「今のお前に出せるわけないだろ」
「カウンターはドリブラーの宿命ですって。でも勝負しないと何も始まらないじゃないですかぁ」
「お前の勝負は分が悪すぎる。チームへの悪影響が大きすぎる」
「あ、悪影響って、それは大袈裟じゃないかなぁ」
「お前が無茶なドリブルを仕掛ける度に、カウンターを警戒して走り回る味方のことを考えたことあるのか?」
「いや、でもぉ、味方のフォローに走るのも選手の仕事ですよぉ」
「お前の場合はもうフォローじゃなくて尻ぬぐいのレベルなんだよ!」
「きっついなぁムシャさん、そこまで言いますぅ?」
「事実だからな。お前の尻ぬぐいで疲弊したハーフとディフェンダーが後半で息切れして失点するというのがウチのお約束の一つだろーが」
「・・・じゃあ、僕にどうしろって言うんですか?」
「ドリブルするなとは言わん。だがもうちょっと考えてやれ」
「僕のドリブルの何がいけないんですかねぇ。具体的に言ってくれないと分かりませんよぉ」
こいつ、端から考えることを放棄してやがる。
華奢で美形の女顔だけど、中身は野獣のボブと一緒で俺様エゴイストだから手に負えん。
しかし、ドリブラーにカウンター喰らうなと言ってもそれは無茶ぶりだ。メッシですら喰らうんだから。
だが、こいつのプレーに関しては昨年からずっとモヤモヤしたものを感じてた。
あの違和感は一体なんだろう?
なんと表現すれば、どんな言葉にすれば良いんだろうか・・・
俺はしばらく腕を組んで考えた。永田のこれまでのプレーや言動を脳内でリプレイしながら。
「あ、分かった」
何か急にひらめいた。
「僕のドリブルのなにが分かったって言うんです?」
「お前のドリブルに欠けているものだよ」
「へぇ~、そんなものが 本当ぉに あるなら、是非聞きたいですねー」
恐怖心と好奇心がないまぜになった表情で強がる永田に俺は淡々と言い放つ。
「お前のドリブルには、生活感が無い」
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