第4話 俺がサッカーで一番嫌いなもの②
「永田はハイリスクハイリターン過ぎて周りが付いていけませんよ」
「ドリブルは一級品なんじゃがのお。カウンター癖が治らんわ」
「入団した昨シーズンからずっとですからねえ。しかも今年はむしろ悪くなってますもん」
「お前は何が原因じゃあ思うとる?」
「無計画な筋トレの弊害でしょ。体が重くなって以前のようなキレがなくなった。それでメンタルの方もおかしくなって無茶が増えたんです。今日の失点だってアイツが意味の無い所でドリブルしてボール奪われてカウンター喰らったからじゃないですか」
「確かにのお。ほいじゃあ筋トレ止めさすか」
「ですね。馬場と同じで鍛えるところが間違ってますよ。永田はキレとスピードとテクニックが持ち味なんだからそれを打ち消してまで短所の当たり弱さを補うことないんです。アイツの場合は短所の脆さをむしろ長所の身軽さなんだと割り切って育てるべきでしょ」
「じゃがのお、ワシが言うても永田は筋トレ止めんかもしれんわ」
「は? どうしてです?」
「永田は前の監督が連れてきた選手じゃし、ワシは選手として三流じゃったけえのお」
「先輩が三流なんてことありませんて! 大学ナンバーワンFWだったじゃないですか。メンタル良し、テクニック良し、フィジカル良しで、心技ゴリラ三拍子揃った一流選手でしたもん」
「お世辞はええんじゃ。それに誰がゴリラじゃ」
「サーセン。だって大学に来てたスカウトがそうメモってましたからね。あれはバカ受けしてずっと語り草になってましたよ」
「まったくのお、お調子もんのスカウトもおったもんじゃ。ともかく永田のことじゃがお前から言うてやってくれや」
「了解しました。ただ、今は結果も出てるんで少し待ちますね。どうせ直ぐにメッキが剥がれますから、その時に助言して有無を言わさずに従わせます」
「おう頼むわ。いつも苦労かけるのお」
「先輩、それは言わない約束でしょ」
俺の方こそずっと先輩に面倒みてもらってきましたからね。このぐらいなんでもないですって。
「それより目下最大の悩みの種はボブの奴ですよ」
「ほんまよのお。J1での失敗が何の糧にもなっとらん。プレシーズンマッチは大人しかったけえ成長したんかあ思うとったらシーズン本番で本性表しよったわ。じゃが、お前なら何とか操縦できるじゃろ?」
「正直、自信ないですね。司令塔として人を動かすのは慣れてますけど、獣に言うこと聞かせるのは猛獣使いの領分ですもん」
「まあそう言うなや。タック、お前は大卒でJ1に入団して即スタメン出場したよの。ほんで10年連続二桁アシストを達成しよった。ワシがこのクラブに呼んでからもそれは変わらんのじゃけJリーグで12年連続じゃろ。お前ほど人に点を取らせることができる選手をワシは見たことがなーわ。ボブは点さえ取らせておけば気分よー働きよる。つまりじゃ、Jリーグではお前が一番エエがにボブを使うことができるゆーことよ。そうじゃろが?」
「お言葉ですが、今日ボブが暴言でイエローもらったのは点を取った後ですよ。まぁそれは措くとしても、俺はボブのプレーを見てるとイライラしてしょうがないんですよ。ぶっちゃけ死ぬほど嫌いです」
「おうおう穏やかじゃないのお。気持ちは分からんでもないが、そがーにか?」
「俺がサッカーで一番嫌いなものって分かります?」
「分からん。何じゃ?」
「オフサイドですよ! もっと具体的に言うと、何度も何度もオフサイドを取られる糞フォワードが死ぬほど嫌いです!」
「つまりボブのことか。じゃがフォワードにオフサイドは付き物じゃろ」
それなのに何故そこまで親の仇の様に嫌うのかと先輩は顔で問いかけてくる。
「でもそうじゃなかった先輩には俺の言いたいことが分かるんじゃないですか?」
「うすうすの。じゃがこの際じゃ、ワシに気兼ねはいらんけえハッキリぶちまけてスッキリしとけや」
ビールと焼酎で既にイイ感じになっていた俺は先輩の言葉に甘えることにした。
「オフサイドにかかる奴なんて馬鹿か怠け者のどっちかでしかない! それが俺には許せんのです!」
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