第2話


で、結局のところ私は魔王を倒す事を決意した。


実家を放逐される以上、ぶらぶらしていてもお金は減るし援助も支援も無く生きる事は、このゲームの世界でも不可能だ。それこそ、働かなければ乞食になる未来しかない。

それは、日本でも同じだからそこはいい。働くことに何ら異存はないけれど。


だったら魔王を倒してから働きだしても遅くはないと思うのだ。


ゲーム「花の乙女と運命の剣」は私の記憶が確かであれば、1が好評だったので2が製作された。

そして1では、作中における最大の敵である魔王を倒さずに各キャラと恋仲になって終わるエンディングを迎えたセーブデータを2を始める時に読み込ませると、だ。

2の攻略キャラ5人の内、3人がヤンデレキャラとして登場することになる。

しかも、1では5つあった国が魔王軍の侵攻により3つにまで減った状態でのスタート。

ちなみにキャラがヤンデレ化する理由は、魔物たちが発する魔素による人体への悪影響と魔王軍によって国を滅ぼされたことから来るヤンデレ化だったりと根が深く、一気にキャラ攻略の難易度も跳ね上がってしまう。

そのため、1で推しキャラだけ攻略して2を始めた人たちは軒並み、あまりのハードモードに悲鳴を上げたのだった。泣く泣く1を再プレイし、魔王を倒すエンディングを迎えた人は多い。

製作会社によればキャラ攻略が簡単すぎると言われたので、2では頑張って難しくしたのだと言う。

そういった余計な事を思い出しつつも「花の乙女と運命の剣」は、乙女ゲームと謳いつつも、その実、主人公の性別を選ぶことができた。男性を選んだ場合、乙女ゲームは即落ちBLゲームとして遊ぶ事ができるのだ。

BLゲームとして遊んだ場合、乙女ゲームモード以上にキャラ攻略は簡単で、ゲームの進め方や戦闘のやり方を覚えるため、また強力なアイテムをゲットするためにあえて初回はBLゲーとしてプレイし、二周目で初回から持ち越した豊富なアイテムを使って乙女ゲームとして楽々キャラクターを攻略して遊ぶ人もいたくらいだ。

そういった世界観だったせいか、現実問題としてこの国では婚前前の貴族男性が、男同士で鬱憤を晴らす事は認められており男を嗜むのは合法とされている。

貴族のパーティでも、男同士でダンスを踊る人は多いし女同士でも然りな世界だった。


そして、本当にこの世界に女性か男性かは判らないけれど主人公が存在して、私を迎えに来てくれるのであればいい。

だけど、もし来なかったら?

5つある国が3つに減っていくのを知っておきながら、ただ逃げ回るだけの生活は正直、心底嫌だ。

モンスターを本当に倒せるのかどうかだって判らないけれど。

ただ、この世界において魔王を倒すことに対する保障は、既になされていると言ってもいい。

なぜなら、各国を守護する神々がこぞって魔王を打倒しなければ国の未来はないとお告げを出している。

それ故に、この国に置いても周辺国にとっても魔王打倒は共通の悲願として認識されているのだ。


そして、モンスターが落とす加工済みの宝石や加工済みの木材、加工肉の状態でドロップするアイテムの数々は各国の市場を潤し、定期的にモンスターを狩る事によって得られるお金はある程度、資産を得る上で有効な手段とされていた。

ただし、命が惜しくなれば。

いずれ主人公が魔王を倒す事を志すのであれば、私も同じ道の上に居たらそれだけ彼女だか彼だかに出会える確率は高くなるだろう。


それに加え、2におけるアリシアは各国が共同出資して設立した、魔王軍に対抗するための兵学校で教師役として登場するのだ。

その時、彼女はレベル75になっている。

これには、ちゃんと理由があって彼女のためのサブストーリーでエンシェントドラゴンがなんと彼女の実家の庭に舞い降りる。そこで起こるひと騒動の際、騎士団を連れてやって来た元婚約者である王太子と一騎打ちをして勝つのだ。

王子に勝つためには、最低でもレベルは70必要で確実に勝つためにはレベル75である事が望ましかった。

ここで彼に勝つと、国を守護している神が降臨し彼女に「神聖騎士」としての称号を授ける。

そして、神に認められたアリシアをかつて追放した罪により王子はやがて失脚し、弟君に王位を譲る事になるのだ。


ここで重要なのは少なくとも、私はレベル75になれる素質があること。


もし、婚約破棄イベントまでにレベル75になれたら、私は王太子に一騎打ちをお願いしようと思う。


迎えに来てくれるのかも分からない主人公を待つ趣味は、残念ながら私にはなさそうだった。

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神聖騎士物語 桜沢要 @sakurazawa

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