番外編 大魔王の王都攻略

「ここが王都かぁ」


自身の身体を包む光が消えて視界が晴れる。周囲の光景を確認すると、どうやらどこかの路地裏のよう。


「そういえば、なんで魔法効かないはずなのに転移魔法に乗れたんだろう」


よくよく考えてみると、魔法で構成されていたと思われるアリシア様の雨も私に当たっていた。

もしあの雨粒に毒でも含まれていたら私にダメージが入っていたかもしれない。


魔王の耐性の基準が謎でしかない。

私の意思準拠なのか、相手の害意準拠なのか、それとも別の要因か。


「……って、そんなことどうでもいいんだった」


失念しかけていたが、さっさと鈴子先輩をシバいて私もログアウトしないとリアルの方でヤバいことになる可能性が捨てきれないのだ。


あのスピカちゃんのことだ、もしかしたらコード引っ掛けて断線、そのままサーバーダウンなんて可能性も考えられる。想像するだけで怖いよ。


「えーっと、アリスちゃんは……」


目を瞑って、覚えのある魔力の方向をなんとなく探る。

ほんとに便利だなこの能力。

ちなみにアリシア様とかイナちゃん、光ちゃんの場所なんかもなんとなく察せるようになっている。

ちなみにどれだけ探っても光ちゃんのものと思しき反応はないので安心だ。ちゃんと向こうに帰ったらしい、しっかりスピカちゃんあたりに怒られといてくれ。


ていうか今更ながら一回エンカウントしたら魔王に常に位置バレするとかもう絶望でしかないな、うん。リリースする前にちゃんとバランス調整してほしいものだ。


「見つけた」


ここからそう遠くない場所にアリスちゃんの魔力の反応を察知。

一旦合流してから鈴子先輩攻略の計画を立てよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「あ、いたいた……って、何食べてるの」


「あ、サキちゃん。これ、マーダーコッコのもも肉の串焼きだって。美味しいよ」


「何その物騒極まりない名前」


頬いっぱいに串焼き肉を頬張りながらこちらに一本差し出してくるアリスちゃん。相変わらず可愛いなぁおい。


「あ、ほんとだおいしい」


名前の通り鶏肉のようだが、現世でも中々食べられないくらいにジューシーだ。しかも炭火焼きの香りもしていて病みつきになりそう。これで屋台飯のクオリティか。すごいな。あ、もう一本ちょうだい。


「……って、そうじゃない。急でごめんなんだけど急いであの城攻略しなきゃいけなくてさ」


「……?全く話が見えないんだけど」


今度は懐から謎のフルーツの飴的なものを取り出してかじり始めるアリスちゃん。

何この子食いしん坊キャラだったっけ。


「ミロルの里に行ったら王国の兵士と傭兵と勇者が襲撃に来てて。とりあえずこの世界で今悪さしてるのが勇者と宰相だけって分かったから今から急いで宰相をシバきに行こうって感じ」


「うん、話聞いても尚何も見えてこないよ。とりあえず、えーっと……勇者はどうなったの?」


「え普通に殺ったよ」


「もう終わりかもねこの世界。まぁいいや、さっさとその宰相さん倒してこの国乗っ取ろうか」


「そんなことしないよ!?多分あの変態をなんとかしたらお姫様に国返すと思うし……」


なんかもう全てを諦めた感じのアリスちゃんと一緒にとりあえず王城に向かって歩き始める。


少女二人が屋台のおつまみを食べて談笑しながら王城に向かう道をゆっくり歩く。

誰がどう見ても一般人。少なくとも魔王とそのお友達になんて見えるわけがない。


「そういえば、城くらいサキちゃん一人で普通に攻略できるくない?なんで私も一緒に?」


「もし見つける前に私の存在がバレてあの変態に逃げられでもしたら面倒だから、アリスちゃんのお友達のみんなに城を包囲しといてもらおうと思って。あと、お城の兵士さんとかに見つかってうっかり殺しちゃったら可哀想だからその辺も抑えておいてくれたら嬉しいなって」


「なぁるほど。サキちゃん魔王なのに優しいもんね」


「元いた世界じゃからね、人殺すなんてできれば倫理観的にしたくないのよ」


「あれ、勇者殺ったって言ってなかったっけ」


「あれはそもそも私の元いた世界から来た奴だったから。城の宰相さんもそうなんだけど、殺ったら向こうに帰ってくれるシステムなんだよね」


なんて話をしながらしばらく歩いていると、ようやく王城の入り口に到着だ。

門を守るように配置されている兵士二人が当然のように私とアリスちゃんを不審に思い引き留める。


「止まれ。ここから先は……」


「……それでさ、ミロルの里に行った時に勇者パーティーの人たちと話したんだけどね……」


「へぇ、どんな人たちだったの?」


がしかし、そんな感じで他愛のない話をしながら散歩をするように抜けていく。


「おいお前ら、とま……」


そしてその兵士は、いつの間にか背後に現れていたによって一瞬のうちに制圧されてしまうのだった。


「そういえばアリスちゃんは別に殺さないようにとか気にしなくていいんだよ?」


多分だけど人を殺すことなんか全く抵抗がなさそうなアリスちゃん。わざわざ私のスタンスに合わせる必要ないんだけどな。


「……?このお城落として魔王城にするんじゃないの?だったら生きてる奴隷は多い方が便利でしょ?」


「思ったより博愛的の正反対みたいな理由だった!?」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「邪魔すんで~」


「邪魔すんねやったら帰って~」


「帰るのはお前だよこんにゃろう」


場所は変わって宰相スズコ・タドコロの私室。


ちなみにここまではアリスちゃんのお友達の頑張りによってほぼノンストップで進んでこれた。

敵の背後にいきなり現れて無力化したり、拘束して脅してこの部屋の場所を聞き出したり。


あまりにも有能すぎるんだよね。


ちなみに私に切りかかってきた兵士さんが一人いたんだけど、剣折れちゃってその飛び散った破片で軽く怪我してたよ。可哀想に。


「こんな簡単に魔王の侵入を許すとは……兵士は何を……」


「そもそも結構な数の兵士があんたの命令で獣族襲いに行ってるでしょうよ。ほら、帰りますよ先輩」


何故か仰々しくふざけた態度を取る鈴子先輩に呆れが隠せない。


「『先輩』……?ってことはサキちゃん本物?もしかして私たちを連れ帰るために向こうから派遣されたとか……?」


「案外鋭いですね」


ふざけた態度ながらも状況の把握が早すぎる鈴子先輩。

そうなんだよ、この人実は頭いいはずなんだよ。


「じゃあもう無理じゃん!!早めに魔王の居場所特定しとこうと思って獣族の里に兵士派遣してたのにこんなとこまで来てるんなら意味ないじゃん!!」


寝ころんでいたベッドの上でじたばたし始める鈴子先輩。なんかセレブな生活送ってんなぁ。


「え、そんな堅実な理由で獣族襲ってたんですか?なんか『ケモミミもふもふしたいから』みたいな感じってスピカちゃんから聞いてたんですけど」


「え、いやまぁそれメインだけど。ついでにサキちゃん牽制できたらいいなぐらいの気持ちだったけど」


「台無しだよ全く。ほら、帰らせるんで大人しく殺されてください」


もうこれ以上話していても実りがなさすぎる。

さっさと殺って帰ろうとするが……。


「ふっふっふ、何か忘れてやしないかね?この世界では何度死んでも復活可能なのだよ」


「じゃあ極限まで苦しませてからリスキルしますよ」


「ご褒美だが?」


「……」


そうだった。この人変態だった。てか死ぬほどいじめられて悦ぶってもう変態の域超えてないか。

とはいえそんなことを言ってる場合ではない。私はできるだけ急いで帰りたいんだよ。


「はぁ……」


仕方ない。できれば使いたくなかった手ではあるのだが……。


「じゃあ、復活せずにログアウトしてくれたら今度向こうでオフコラボしてあげますから」


「今すぐ殺してくれ」


「……はいよ」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「うわぁ、思ったより早かったっスね」


「色々なものを犠牲にしたからね。とりあえずログアウトさせてくれない?」


主に私の未来の貞操とかね。


「了解っス。ちょっと待っててくださいね」


もはやノートパソコンすら介さずに天の声的な感じで話しかけてくるスピカちゃんとの通信での会話だ。


ふと窓から外を見てみると、これだけの冒険をしてきたのにやっと一日が終わろうかという時間だ。

嘘でしょ、この世界での一日濃すぎでは??


「そういえば、今後のこの国のこととかアリシア様との約束とか全部放棄することになっちゃうなぁ」


鈴子先輩の部屋でログアウト処理を待ちながら、この世界で経験したことに思いを馳せる。


「ま、楽しかったからいっか」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「はい、お疲れ様っス」


「よし今すぐそこに正座しろお前」


急な意識の暗転、そしてその直後の明転。

目の前の光景が豪華な西洋風の部屋から無骨な研究室的なところに変化。

なんとか無事に現世に帰ってこられてらしい。

そして察するに私が寝かされているベッドがあるここはミラライブの本社の一室とかだろうか。


そして何より気になるのは私の顔をのぞき込んでいるスピカちゃんの姿。


「あ、いや、その、勝手に巻き込んだのは悪いと思うっスけどあの二人をどうにかできるのはサキ先輩だけで……」


笑顔で詰める私に圧され、あまりにも綺麗な土下座体勢に移行するスピカちゃん。

いや許さんよ。そもそもここどこよ。


あたりを見回すと、同じ部屋の中にはもう二つのベッドが。


掛け布団を被って小さく震えている誰かと、見覚えのある変態の顔が見える。

ねぇやめてこっち見てハァハァするのマジでやめて。ほんとに怖い。


「ち、ちなみにあの後ちょっと色々見直したんスけど、別に鯖落ちしてもサキ先輩の身体には何の影響もないはずってことが分かりまして……一応万が一はなかったとだけ……」


「そういう問題じゃねえ!!!!!」


「「ひいいいいい!?!?」」


土下座するスピカちゃんを怒鳴りつける。

なんか掛け布団の団子の中からも悲鳴が聞こえてきたけど気のせいってことにしとこ。


「協力してほしいんなら言えよ!!!なんでお母さん使ってまで誘拐紛いのことするかな!?」


「だって……あの世界の中って時間の進み方速くなるように設定してるから……説明してる時間あったらめちゃくちゃにされちゃうんですもん……」


半泣きのスピカちゃん。

……なんか私が後輩いじめてるみたいな構図になってるじゃん。やめてよ。ごめんね大きな声出して。


ま、結果よければとりあえずいっか。


私の貞操を狙う変態の対処とか明らかにトラウマ刻み込まれた後輩とかあまりにもオーバーテクノロジーすぎないかあの世界って問題はあるけど……もう考えるの疲れた!!!!帰る!!!!


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