番外編 大魔王vs勇者 2

「この勇者人望ないなぁ……ほら、じゃあさっさとログアウトさせるよ」


「ざ、残念だったね。もしボクを殺してもこの世界では自分の意思でリスポーンすることができるんだ。つまりボクを殺す意味なんてないってことさ」


何故か負ける前提でない胸を張る光ちゃん。

せめて勝つ努力くらいはしようよ、勇者が魔王を相手にするんだからさ……。


「どうせリスポーンするのは王城とかでしょ?私今から王都滅ぼしに行くから普通にリスキルできるんだけど。それとも痛めつけて反省させてから殺った方がいい?」


先ほどスピカちゃんが言っていた通りなら、仮に光ちゃんを殺しても何度でもこの世界に復活することができるというわけだ。ならばもうこの世界にいたくないと、そう思わせれば良い。そういうわけだ。


「……」


「この世界って現世と同じように痛みとかあるんだよね?さっき私が蹴った時すっごい痛がってたし。てことは死ぬ寸前まで痛めつけて恐怖を刻み付けてからとどめ刺した方がいいのかな。あ、そういえば回復魔法使えるっぽいさげちゃんに協力してもらって無限に痛めつけるのもアリだね。さげちゃん、回復魔法の研究の役に立つと思うんだ、勇者のとか見ながら治療するの」


「魔王様一生ついていきます」


できるだけ恐怖を与えるためにニッコニコでそう提案する私。

秒で私の提案を呑んださげちゃんの目はキラッキラである。

賢者がそんな簡単に魔王に篭絡されてんじゃねえよ。


「……さい」


「ん?」


光ちゃんが何か呟いてたけど聞こえなかったな。


「……死ぬの初めてなので優しくしてください」


今にも泣き出しそうな顔で瞳に涙を溜めている光ちゃん。

やべ、ちょっと脅しすぎたかな。


「じゃあイナちゃん、時間とか止められたりする?」


「5秒くらいなら?」


「じゃあお願いね」


「時間止めたら魔王ちゃんも動けなくなるから……うんごめん何でもない忘れて」


何故か私に一切魔法が効かないことを思い出してため息をつきながら魔法を展開するイナちゃん。


その直後、全てが静止する。ぐちゃぐちゃだった光ちゃんの表情も、燃え盛る炎も、何もかも。

……イナちゃんと私を除いて。


「じゃあ……ほいっと」


割と本気で光ちゃんの頭に拳骨を落とす。


……うわぁ。魔王のパワーやっばぁ。

こりゃ詳細な描写なんてできねぇわ。後ろで見てるイナちゃんが普通に引いてるもん。

私だってちょっと嫌な気持ちになったよ。

開発担当であろうスピカちゃんに言っておこう、までそんな正確に作らなくてもいいよ、と……。


「時を止めるって……まさか時空に干渉する魔法……?ってあ、勇者死んでる」


私や光ちゃんよりも、どうやらイナちゃんの魔法の方に興味津々っぽいさげちゃん。

一応もうちょっと反応してあげてよ……終始可哀想だよ勇者……。


なんて思っていたら、元々光ちゃんだったモノが小さな光の粒子になって消滅した。

これ、多分死んですぐログアウトボタン連打した感じだなぁ。終始可哀想だよ勇者。


「とりあえず第一目標はOKかな。そういえば里の他のみんなは……」


獣族のみんなは大丈夫だろうか。くるみちゃんとモモカちゃんはちゃんと矛を収めてくれただろうか。

そんなことを思っていると。


ぽつりと頭に当たるものが。


「……ん?雨?」


いやおかしい。

先の戦闘で半壊しているとはいえ、この建物の屋根は健在だ。

目を凝らして見てみると、どうやら雨粒は屋根を貫通して降ってきているよう。

何これ。オブジェクトの当たり判定の設定ミスとか?


「これ……天候操作の魔法……?」


「正解じゃ。中々に魔法への造詣が深いと見える」


ぽつりと呟くさげちゃんにそう返す声は外から聞こえてくる。


開け放たれた扉から外を見ると、そこにいたのはを降りてくるが如きアリシア様の姿。

魔法で構成していると思われる半透明の傘をちゃっかり握っている。


「今の今まで何やってたんですか、なんか強者感えげつない登場の仕方してくれちゃって」


「そこらで暴れておった阿呆共に身の程を理解させ、怪我をした獣族を治療し、鎮火のために雨雲を呼ぶ魔法を行使してきたところじゃ。この後豪雨になる故風邪を引かぬようにな。貴様こそ何をしておる。まさかそこな頭でっかちと脳筋如きに手こずっておるわけでもあるまい」


嘘ぉ、アリシア様有能スギィ。

てか獣族の治療とかできたんだ、人体を破壊する専門の側の人かと思ってたよ。


「この二人は別に悪くないんですよ。勇者がアホだったのと、あと悪いのは宰相さん。てことで今からボコりに行く予定なんですけどアリシア様も一緒に来ます?」


「ふむ……いや、城の方はお主に任せよう。この里はまだ混乱しておるでな、妾は民を安心させてやらねばならん。それに、阿呆どもを指揮しておった二人は妾の国の小娘たち。多少折檻してやらねばならんでな」


獣族たちへの慈愛と、くるみちゃんモモカちゃんへの怒りがその表情から伝わってくるアリシア様。

え何これ、私こんな優しくてまともなアリシア様知らない怖い。


「ほれイナ、さっさとこやつを王都に送ってやれ」


「わ、わかった」


アリシア様の言葉を受けて、魔法の構築を始めるイナちゃん。


「お主には色々と聞きたいこともある。さっさとあの変態を殺してまた会おう。人の王と魔の王、重なる部分は多かろうて」


似つかわしくない穏やかな笑顔で私の顔を見るアリシア様。


「はい、では後ほどで」


ごめんねアリシア様、多分私鈴子先輩シバいたら現世に強制送還なんだ……。また向こうで色々話そうね……。


内心で苦笑いしている間に構築され終わった転移魔法によって、次の瞬間には魔王の姿はそこから消えていた。


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