番外編 大魔王vs勇者 1
「……って、今はそんなことどうでもいいんだわ。二人とも、勇者どこにいるか知らない?」
スピカちゃんの話によると、この二人はNPCのはず。反応を見る限り他の人と同じように私のこと知らないみたいだし。
「だ、誰が獣族なんかにそんなこと……」
「いいの?私実は魔王だからくるみちゃんのこと一瞬でボコれるけど」
「本官たちとは別で、里の長のところに行ってるはずであります」
軽い殺気を放って脅すだけであっさりと光ちゃんの居場所をバラすくるみちゃん。
忠誠心とかそういうのないの???
「ありがと。じゃあ私は勇者シバいてくるから二人はこの辺のみんなに命令して獣族を襲うのやめさせておいて。私が戻ってきてもまだ暴れてたら……わかってるよね?」
「「は、はい!!!」」
怯えて震えてるくるみちゃんとモモカちゃん。
うん、今の私あまりにも魔王すぎるな。
あとこの二人の忠誠心があまりにも弱すぎるな。
「長がいるのは……うん、あっちっぽいな」
少し離れたところにある大きめな家で巨大な魔力がぶつかり合っているのを感じる。
というか見える。
半壊した家の中から大きな氷柱が飛び出してきていたり雷が迸っていたり。
他の場所での戦闘とは一線を画す派手な戦闘。
どう考えても光ちゃんとかそのあたりが襲撃してるのだろう。
「氷柱ってことは……マイカちゃんがあそこにいるのかな?」
記憶の中にある限り、ミラライブで氷属性っぽいメンバーはマイカちゃんだけだ。
その家に向かって走り出しながら今の戦況を考える。
里全体の戦闘に関しては、くるみちゃんとモモカちゃんがちゃんと兵士たちを抑えてくれたら問題はないだろう。イナちゃんとアリシア様もいるわけだし。
そんなことよりどう考えても里長さんのとこがヤバい。獣族は魔法使えないらしいし、いくら勇者がポンコツとはいえマイカちゃん一人で勇者パーティーと戦うのは厳しいだろう。
てことで迷いなく里長さんの家と思われる建物に直行。
「おいこら
「おわぁサキ先輩!?なんでこんなところに!?」
勢いよく扉を開けてクソ勇者を怒鳴りつける。
部屋の中を見ると、まず目に飛び込んできたのは氷のバリア的な魔法と牽制用の氷柱とかで里の長と思しき獣族を守っているマイカちゃん。
そしてそのマイカちゃんのバリアを破らんと多彩な魔法を放ち続けるさげちゃんと大剣で斬りかかる真来ちゃん。
なんとかバリアを張り直したり氷の魔法で牽制したりして持ちこたえているようだが、マイカちゃんの身体に幾筋もの傷がついていることからかなり苦しい戦いであることが窺える。
「鈴子先輩が暴走してるのはもう知らないけど、光ちゃんはなんでこんなとこ襲ってんの!?カジノで遊んでたいんじゃないの!?」
「ちょ、もしかしてこのサキ先輩本物!?もしかしてボクを連れ戻しに派遣されたって感じかな?でも残念だったね、ボクはこの世界で勇者の力を
「うるさい」
「させない」
ペラペラとしゃべり始める光ちゃんに辟易して、さっさと蹴り殺してしまおうと決意。
だがしかしそれはさげちゃんの光のバリアによって妨げられる。
ちくしょう、やっぱこっちのNPCとはいえさげちゃんは優秀だなぁ……。
いや、バリア自体は一瞬で割れたし軽減されたとはいえ光ちゃんの鳩尾にかなりのダメージが入ったんだけど。
「なっ……最上位の防御魔法を一瞬で……!?光、大丈夫?」
「ゲホッゲホッ……ず、ズルいぞ!ただでさえ魔王クラスの身体能力なのにバフまでもらってるなんて!!」
お腹を抱え、さげちゃんに回復魔法をかけてもらいながら悪態をつく光ちゃん。
いや、こんだけみんな化け物になってる世界でデフォルトの身体能力だったら何もできないでしょ。最初にエンカウントしたアリスちゃんの時点でもうGAME OVERだよ。
「あたしが時間を稼ぐ!さげは今のうちに光の回復を!!」
マイカちゃんの氷の壁を攻略しようとしていた真来ちゃんが私に斬りかかってくる。
ごめんね……多分物理吸収なんだ私……。
「なにっ!?」
防御すらせずに攻撃を受ける私に、勢いそのままに体重を乗せて攻撃してくる真来ちゃん。
当然その勢いの反動をモロに受けて吹き飛ばされる。
おぉ、その剣折れないのね。丈夫だなぁ。
「ま、まさか魔王の耐性ミラクエ準拠……!?」
なんとか回復した光ちゃんが青ざめている。
……だよねぇ……私も思ってた……。
ダメだよこんなキャラ実装しちゃ……。ぶっ壊れにもほどがあるって……。
「光、何か知ってるの?」
「この人魔王なんだけど、元々ボクがいた世界でも魔王扱いされてたのに更に強化されてるんだ。ちなみに確か全属性の攻撃を吸収するはず」
「え何それどうやって倒すの」
意味がわからないと言わんばかりのさげちゃんが、軽く杖を振って火球をこちらに放ってくる。
熱くない。てかちょっと肌寒いなって思ってたから暖かいくらい。
っておい、もし効いたらどうするんだ痛いだろ普通。
「多分この世界だと絶対倒せない設定になってる……。ターン制だったりAI行動だったりしたら運しだいでまだ勝ち目あるかもしれないけど、魔王の中に魔王が入ってるんじゃどうしようもないよ……」
「だから大人しく投降してログアウトしてくれないかな。こっちの都合的には抵抗しないでいてくれると助かるんだけど」
「っ……光、一旦逃げる」
とりあえず一旦光ちゃんをシバいてしまおうと近づく私。
そんな私を警戒してか、さげちゃんが何やら魔法の詠唱を開始する。
しかし。
「させません!!」
「なっ……転移魔法が……!?」
「イナちゃん!ナイスタイミング!!」
どうやら空間魔法を展開して光ちゃん諸共逃げようとしていたらしい。
しかし、いつの間にか私の後ろに立っていたイナちゃんによって妨害される。
「まさか魔王じゃなくて勇者がこの世界の平和を揺るがす存在とは……目的は何です!?」
いつになくブチ切れている感じのイナちゃん。
そういえば確かに光ちゃんがなんで鈴子先輩に協力してるか聞いてなかったな。
「だ、だってこうやってケモミミっ娘ちゃんたちを集めたら王国にカジノを作ってくれるって鈴子先輩が言ってたんだもん!だから誘拐しに来ただけだもん!」
「「……は?」」
まさかの発言に耳を疑う私たち。
「え、そんな動機で冒険始める勇者について行ってるの?」
今度はさげちゃんと真来ちゃんに問いかける。
「……このアホの支援してたら魔法の研究費が王国からもらえる」
「なんか強い奴らと戦えるって聞いた!」
どこかバツが悪そうなさげちゃんと、いつも通り何も考えていなさそうな真来ちゃんの態度に私とイナちゃんは頭を抱える。なんとか息を整えた様子のマイカちゃんは状況が理解できずにぽかんと口を開けている。
大丈夫?酒でも飲む?
「……じゃあさげちゃんには私の身体能力とか魔族の魔法の研究ができるように協力するし、真来ちゃんの訓練の相手は私がしてあげるから。私の目的はこのクソ勇者だけ。できれば二人のことは傷つけたくないから邪魔しないで」
「「了解」」
「おい勇者の人望なさすぎだろ」
対価を提示すると当然のように魔王側に寝返る仲間たち。
びっくりするほどあっさりと戦闘の意思を雲散霧消させてむしろ光ちゃんの背中をこちらに押してくる。
「ちょちょちょちょ、ボク勇者だよ!?この世界を救う使命があるんだよ!?」
「そんな勇者が獣族の里を滅ぼすのはおかしい」
「この勇者剣術の練習の相手にならないからいらないぞ」
「ボク勇者だよ!?」
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