番外編 開発者の依頼

「これ聞こえてるってことはミロルの里に着いたんスね。思ったより早かったなぁ……」


「いや、そもそもこれどういう状況?てかこの世界は何よ」


何故か呆れたような態度のスピカちゃんに、ずっと抱えていた疑問をぶつける。


「そこは、うちで開発してるオープンワールドのゲームの世界っス。ミラライブメンバーをそれぞれの設定とか世界観にマッチするようにNPCとして配置して、そのうちの誰かもしくは全く別のキャラクターとして冒険できるっていう」


おい何サラっととんでもないオーバーテクノロジーの話してんだ。

……今更か。


「えーっと、色々聞きたいことはあるんだけど、まずなんで私だけNPCじゃなくてそっち側の記憶そのままでここにいるの?」


「あー、それに関しては長くなるんスけど……」


まず、このゲームはまだ開発段階にあると。


で、テストプレイをやってくれる人を探していた時に鈴子先輩と光ちゃんがどこから情報を聞きつけたのか立候補してきたらしい。


そして、この世界に入れてから気づいたらしい。


ログアウトする手段と、外部から強制的にログアウトさせる手段を用意する前の段階で入れちゃった、と。


「いやぁマジてへぺろって感じっス」


「てへぺろじゃないよ!?じゃあ私はどうなるの!?」


「あ、サキ先輩に関してはこっちからログアウトさせることは可能っス。まぁ自力では無理なんスけどね」


「私の人権があまりにも軽視されすぎな気がする」


「気のせいっスね」


で、どうにかしてログアウトする手段を探していた時に見つけたのが、『ゲームオーバーになること』

そうすればログアウトかコンティニューかの選択肢を提示するUIが表示されて、ログアウトが可能になると。


「で、まぁ勇者殺すならやっぱ魔王だろうなということでサキ先輩のお母様に相談して先輩が寝てる間に連れてきたってわけっス」


「私の人権があまりにも軽視されすぎな気がする」


「気のせいっスね。てことでサキ先輩には勇者を殺して国を滅ぼしてほしいっス」


「中々聞くことない依頼だね!?……てか、こうやって外部から干渉できるんならあの二人に『さっさと死ね』とでも言えばいいんじゃ?」


「言いましたよ?」


「言ったんだ……」


「でも、『ケモミミ最高!!合法ケモミミ奴隷最高!!』って奴と『ボクは勇者だから魔王を倒すまではログアウトなんてしないよ。さてこの町のカジノはどこにあるかな』って奴なんで」


「え何、あいつら自主的にログアウト拒否してるの?じゃあもうサーバー落としたら?」


「それも思ったんスけど、まだ開発段階だし色々調整とかも途中だったりするんで、強制切断がユーザーの脳とか精神にどういう影響を及ぼすかとかも不明瞭なんスよ」


「ちょっと待て。それ仮に停電とかで鯖落ちしたら私どうなるの」


「……。…………そうならないために、頑張って勇者を殺してほしいっス」


「私の人権」


「てことであたしからは以上っス。ちなみに勇者は今ミロルの里に向かってるっぽいんでついでにサクッと殺っちゃってください」


そんな言葉を残してスピカちゃんとの通信が切れてしまった。


……。


「えーっと……魔王さん?」


「イナちゃん。急いでこの魔法解いて里の中に連れてって。勇者来てるらしいからさっさと殺さなきゃ私の命が危ない」


「え脈絡どこ。てかなんで勇者を倒すのに協力しなきゃいけないの!?」


「この世界作った神からの依頼だよ!!急いで!!」


この世界の魔王としての命じゃない、向こうのリアルな命の危険が危ないのだ。


私の剣幕に押されてか、慌てて魔法を解除するイナちゃん。

その瞬間にその場に静止していた馬車が動き出す。


「さっきの光は……おお、イナか。久しいの」


アリシア様的には馬車の中にいきなり出現したように見えるはずのイナちゃんに朗らかに話しかけておられる。しかも何やら知り合いっぽい雰囲気?


「十年ぶりくらい?その傲慢な態度は相変わらずだねぇ」


え何、この人そんな小さい頃からこんな感じの態度なの?


「なんかもうよく分からにゃいことになってるけど、もうすぐ里に着くにゃ。……って、この臭い……」


手綱を握るミタマちゃんが何かに気付いたように鼻を鳴らす。

不審に思って私も同じように周囲の臭いを嗅いでみると、確かに何かが焼けるような、焦げるような臭いがする。


……いや、まさかあのクソ勇者でも流石に獣族の里を問答無用で焼いたりは……いやうんするなあいつ。多分一切の躊躇なくやるな。


そのまま道を進んでいき、やがて目に飛び込んできたのはやはり炎に包まれた集落。


自然と調和し、川が流れ、花畑が広がる美しい里だったのだろうと予想されるそこは今や火の海だ。


あまりに悲惨な故郷の姿を見てケモミミっ娘たちの中には涙を浮かべている子もいる。


「魔王さんに構ってる間にこんなことに……一体誰が……!」


イナちゃんが悲痛なうめきを漏らす。

……ごめんなさい、多分うちの後輩の勇者です……。


「とりあえずみんなの無事を確かめないと……」


小さく呟いたイナちゃんは馬車から飛び出して急いで飛んで行ってしまった。


空間魔法とか使えるしナチュラルに飛ぶし、地味にイナちゃんが一番チート与えられてるキャラかもしれんな……。


「じゃあ私も行くか……。アリシア様はどうします?」


「妾もすぐに行く。先に行って考えなしの愚か者を潰しておくがよい」


「わかりました」


いつになく真面目な声色のアリシア様、私に返事した直後に何やらブツブツと詠唱を始める。よく見てみるとアリシア様の手元に小さな魔法陣のようなものが生成されているのが見える。

え、アリシア様って魔法使えるタイプのお姫様だったんだ、武闘家タイプだと思ってた。


「サキちゃん、みーはここでこの子たちを守っとくにゃ。サキちゃんはイナ様の援護をお願いするにゃ」


「おっけー、気を付けてね」


怯える子どもたちをミタマちゃんに任せ、馬車を飛び降りるとそのままイナちゃんの向かった方向にダッシュで向かった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「これは……」


恐らく里の中心部であろうと思われるあたりに到着すると、そこに広がっていたのはまさに地獄絵図だった。


炎に包まれる建物、恐らく王国の兵士や傭兵と思われる人たちに追い回される獣族たち。もう既に捕らえられてしまっている獣族も少なくない。

ある程度戦える獣族もいるようでなんとか持ち堪えてはいるようだが、このままでは全滅必至だ。


「勇者は……」


恐らくこの兵士たちを率いてきたであろう勇者を探す。

しかし、いない。

あの子の性格的に結構目立つところにいそうなものなのだが……。


「……あれ?」


いた。

いや、勇者じゃなくて。


くるみちゃんとモモカちゃんが。


「おい何やってんだお前ら」


「「あいたぁ!?」」


こちらに気づかず周囲の兵士や傭兵にそれぞれ指示を出している二人に近づき、その頭頂部に拳骨を落とす。


……あ、ごめん今の私魔王補正で力めっちゃ強いんだった。

首とか大丈夫?


「くるみ様!」


「モモカ様!」


二人の悲鳴に反応して、周囲の兵士たちが私の方に向かってくる。

剣やら槍やら持って、その目には殺意が宿っているのが分かる。


「はいはい、話があるからちょっと待っててね」


「ぐっ……」


「ぐふっ……」


確かに私を切りつけたはずの剣と槍が折れて瞠目する兵士二人を適当に蹴り飛ばし、くるみちゃんとモモカちゃんの方に向き直る。


「なんで二人して獣族の里襲いに来てるの?てか勇者どこいるか知らない?」


「上からの……命令であります」


「傭兵ギルドに国から依頼があったから……」


なるほど、この世界ではくるみちゃんは王国兵士的な立場でモモカちゃんは傭兵ギルドの上層部的な立ち位置なのか。

現世での設定をいい感じにこの世界観に落とし込んでるじゃん。


……いや、モモカちゃんは設定的にはただの地雷系女子的な扱いだったと思うんだけど。ヤの事務所の人ってのは公式設定じゃないはずなんだけど。


そう考えたらそういえば私も別に魔王じゃねえわ。

最近どこでも魔王扱いされてナチュラルに受け入れてたけど。

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