番外編 大魔王の篭絡

まさかの事実。

てっきりアリシア先輩とかかと思っていたら黒幕は鈴子お姉さんと。


「アリシア……って確か殺されちゃった元国王の娘だったはずだにゃ」


なるほど、元の設定通り姫なのか。

父である国王が暗殺されてしまったのなら、アリシア先輩の立場はどうなってるのだろう。

彼女の今についてはミタマちゃんも他の子たちも知らない様子だったが、まぁどうせすぐに明らかになるだろう。知らんけど。


ていうか今はそんなことより大切なことがある。


「そうだ、忘れてたけどミタマちゃんはともかくとしてこの子たちはどうしよう。いくら相手がただの変態とはいえ兵士とか色々いるだろうし王都まで連れて行くのは危ないよね?」


「だったら一旦ミロルの里に帰してあげるのをおすすめするにゃ。イナ様が空間魔法に長けてたはずにゃから、そっから王都まで転移させてもらったら早いにゃ」


「なんかミラライブの面々があまりにも有能すぎないかこの世界」


あまりにご都合主義な展開に嘆息。

よくよく考えてみればミロルの里に寄ってから王都に向かうでもあまり時間は変わらないのは確かなのでそうすることに決め、報告のためにアリスちゃんたちが乗っている馬車に跳び移る。


「おわぁびっくりした!?なんてとこから入ってくるん!?」


「どっちも同じ速度で走ってるんだから別にこれくらい変なことでもないでしょ?」


御者台のユウカがびっくりしてるけど別に誰でもできるでしょこれくらい。


「ユウカちゃん、サキちゃんのすることにいちいち驚いててもしょうがないよ」


「いや、ウチからしたらアリスちゃんの魔法も結構化け物やったけどな?」


「あれはほら、杖がいいやつだから」


そう言って懐から先ほど杖に見立てた棒切れを取り出し……


「いや、自分さっき捨てとったで。すんごい自然にポイっと」


「えへ」


「はぁ……もうええわ、あんたらの素性とか気にしとってもしゃーないわな。ほんで、なんでサキちゃんはこっちに来たん?」


「ああそうだ、さっきみーちゃんと話してたんだけどかくかくしかじかでね……」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「なるほどな、確かにミロルの里寄ってからでも転移してくるんやったらあんま時間変わらんわな。どうせこっちの護衛はアリスちゃんおったら充分やろし、行ってきたらええで」


「あれ、二人は一緒に来ないの?」


「ついこないだ人族に子ども何人か攫われたばっかなんやろ?そんなんウチが一緒に行っても警戒されるだけやん」


手綱を操りながら、さも当然と言わんばかりの表情のユウカ。


確かにユウカの言う通りかもしれない。

人族が獣族や魔族との対立を深めているという情報が出回っている上に、誘拐事件が起きたばかりだ。

そんな状況下で人族であるユウカがミロルの里に行っては、何か危害を加えられてもおかしくない。獣族と一緒にいるとか誘拐された子どもを助けた一行だとか、時にはそんなことは種族の危機のような大きな問題の前では些細なノイズに過ぎないものだ。


そもそもミタマちゃんだけじゃなくて私もミロルの里に同行することにしたのはそういった下手人にまた彼女らが襲われる可能性を考慮してのことなわけだし。


「じゃあ私だけみーちゃんたちを送っていく感じでいいかな?イナちゃ……イナ様に適当に王都まで転移させてもらって、そっからアリスちゃんの魔力でも探って合流することにするよ」


「え、なんで私の魔力を区別して探知できるの?」


「それはほら、獣族だし」


「それ絶対獣族関係ないわ。魔王やからやって」


「じゃあ多分そう?……ってあれ、ユウカちゃんは私の正体知らないはずじゃ……」


「いや、分かるて。もう会うた時から全部が全部不自然すぎるんやもん。むしろあんだけ馬鹿力やら殺気やら見せといて、挙句の果てにどう考えても獣族にはできへんようなことできるて言いだして確信やわ。ほんまに誤魔化せると思ってたん?」


「ぎくっ」


「ユウカちゃん、私はもう諦めたよ。この子多分色々やらかしながらも圧倒的な力で全部蹂躙するタイプの魔王だよ」


「ひっどい風評被害!?蹂躙なんてしないよ!!」


「はいはい、もうそろそろ王都とミロルの分岐だから向こうの馬車に戻った方がいいよ」


シッシッと言わんばかりに向こうへ行けとジェスチャーしてくるアリスちゃん。ひどいよ。


「うぅ……なんか知らない間に二人とも仲良くなってるし……。私だけ除け者なんだ……ぐすん」


「魔王が何気にしとんねん。てかなんかずっとよそよそしかったんはサキちゃんの方やんか」


「だってユウカちゃんずっと私のこと警戒してたもん。怖いもん」


友達と同じ名前と見た目の人にめちゃくちゃ警戒される悲しさはあんたらには分からないでしょう!!!!!


「そらあんだけ明らかに正体隠してるんやから警戒するやろ。……まぁもう魔王て分かったら警戒してもしゃーないて思うけどな。また後で合流したら仲良くしよや」


「ていうか魔王に怖がられる商人ってなかなかいないよユウカちゃん」


クスクスと揶揄うように笑うアリスちゃん。

おい何わろてんねん。


「ほら、早よ向こう戻り」


「はぁい……」


妙に親しくなっている二人に軽く嫉妬しつつ、再びミタマちゃんたちが乗っている方の馬車に跳び移る。


「あ、お帰りにゃ」


「ただいま……って、なんでまたこの子たちは化け物を見るような目で私を見てるの?」


「そりゃ、走ってる最中の馬車からいきなり隣の馬車に跳び移ったら誰だって引くにゃ。落ちたらどうするつもりだったにゃ……?」


「多分落ちても痛くないし走って追い付いてまた跳び乗ればいいだけだし?」


「そういう発言を素でするから引かれるって自覚した方がいいにゃ」


と、そんなミタマちゃんの呆れ半分諦め半分のツッコミを受けたところで馬車が分岐に差し掛かった。


私たちの乗った馬車は右の道へ、アリスちゃんたちの馬車は左の道へそれぞれ進んでいく。


「ここから里まではもうずっと道なりでOKだにゃ。今のうちにその子たちからの印象を改善しとくといいにゃ。ずっと怯えてるの可哀想すぎるにゃ」


ミタマちゃんの言う通り、獣族の子たちは顔を伏せながらこちらをチラチラを窺ってきているような感じ。分かりやすくビビっていらっしゃる。

おい別にそんなに怖がられるようなことしてないだろ。


……え?素手で鉄の檻を引きちぎった?それはあれだよ、多分檻が劣化してたんだよ。


そんな冗談はさて置き、とりあえずケモミミっ娘たちからの印象改善を試みよう。


「私は魔王だけどさ、別にこの世界を自分のものにしたいとかみんなを殺したいとかそういう感じじゃないんだよ。ていうか仲良くしたいの。そりゃ時々変なことする時もあるかもだけどさ、あなたたちに酷いことはしないって誓うよ。ていうかそんなことをする奴らから守ってあげたいくらいだよ。こんな可愛いみんなにあんな酷いことするわけないし許すわけないし。だからほら、ね?よかったら友達になろうよ」


できる限り優しいトーンで、目を見て、手のひらを相手に見せて。相手の反応を見て焦らずゆっくりと。

人を篭絡するための心理学なんてどこの世界でも変わらねぇんだよ、うへへ。


「なんか悪い顔してる……」


少女たちの中でミタマちゃんの次くらいに大きな犬耳の子がジト目でこちらを見てくる。

おっと。


でも、恐怖以外の感情を見せてくれている。どうやら少し警戒は解いてくれた様子だ。


「ていうか、魔王さんが私たちみたいな子ども相手に『友達になろう』なんておかしすぎ。力で従わせる方が魔王っぽいよ?」


「そういうことしたくないって言ったばっかりでしょ!?」


クスクスと笑いながらそんな冗談を言ってくる犬耳の子。なんか私の扱い方を理解した様子。早すぎないか。


「全く……じゃあ仲直りの握手をしよう!ほら!」


「あ、それはNGで。自分の手はまだ大事にしときたい」


「握りつぶすとでも!?」


ナチュラルに握手を拒否る犬耳の子の態度に、他の子たちも思わず吹き出して笑っている。

さっきまでとは打って変わって穏やかな雰囲気。

いやぁ、穏便に仲直りできてほんとによかったよ。


なんて思ってたら、唐突にミタマちゃんが馬車を減速させ始める。


「あれは……まさか!?なんでこんなところにいるにゃ!?」


どうやら何やらトラブルのよう。

また誘拐犯か魔物か。警戒せねば。


「みーちゃん、どうしたの?何かいた?」


「お姫様がいるにゃ!!」


「わっつ??」


お姫様?いやでもこっちって王都に向かう道じゃないはずだよね?


ゆっくりと停止する馬車。


私も獣族の子たちも、馬車の窓から外を見てみる。


「ほう。貴様ら、獣族の里に向かっておるのか?丁度良い、妾を同乗させる権利を貴様らにやろうぞ」


草原に佇むにはあまりにも似つかわしくない豪奢なドレス。

セットにどれだけかかってるんだ?とツッコみたくなるような複雑な髪型に編み込まれた金髪。

そして全ての生物を見下すようなキツい目つき。


そう。この国の姫にしてミラライブの先輩でもある、アリシア・デ・ラスフォードが立っていたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る