番外編 大魔王の憤怒
「あんたら、この国じゃ奴隷売買は禁止て知らんの?」
アリスの魔法によって拘束された行商人風の男たちを、呆れたような顔でユウカが問い詰める。
逃げ出すことを諦めた彼らは、身をよじることすらせずにユウカの質問に答えている。
「あんたこそ知らねぇのか?王様が死んで、今実権を握ってる宰相さんが獣族と魔族の捕縛を推奨してんだよ。なんか王様は獣族と魔族に殺されたからとかなんとかで」
「んなわけあるかい。なんで王様が殺られたからって関係ない獣族と魔族まで迫害されなあかんねん」
「俺だっておかしいと思ったよ。ただ、獣族の子は今めちゃくちゃ高く売れんだよ……。俺だって家族に食わせてやらなきゃなんねぇんだ……」
そう言って項垂れる男。他の奴らもきっと同じような境遇なのだろうか。言い分は分かるが、だからといって何の罪もない子たちを誘拐するのは流石にダメだろう。
「こっちは全員解放したよ……ってなんで私が怯えられてるの?」
「「「狐人の顔したゴリラ……こわい」」」
「だぁぁぁぁれがゴリラじゃい!!助けてあげた恩人への態度がそれか!!」
互いに身を寄せ合ってカタカタと震える獣族の子供たちに思わずツッコミを入れる。
だが、そんな中で一切怯えていない獣族の少女が一人。
「みんな、助けてもらっておいてそういう態度はよくないにゃ。それにこの人たちは……いや、後で確認してからにするかにゃ」
「ん??」
どうやら何かに気付いたような態度の猫人の少女はミタマちゃんだ。
私たちは特に正体がバレるような変なことはしていなかったと思うが……。
「はいはい、話逸れてるで。ほんでこいつらどないする?このまま王都に連れてってもあんたらの誘拐が合法になったんやったら何にもならへんで。ま、とりあえずうちはめんどいの嫌やから被害者のあんたらに任せるわ」
そう言って自分の馬車に戻っていくユウカ。
困惑したように顔を見合わせる少女たちだが、私の興味の先は奴らの馬車の中にあった他の荷だ。
「この葉っぱ、何?すごい厳重に梱包されてた上になんか変な臭いするんだけど……」
そう、鎖と南京錠で厳重に封がされた壺。
獣族の子たちを助けるついでに開けてみたところ、謎の乾燥した葉っぱが入っていたのだ。
「……これ、多分麻薬の一種だにゃ。この国じゃ普通に違法なやつだにゃ」
「……へぇ」
思わずジト目で行商人の男たちを睨みつける。
あ、お前目を逸らしたな?確信犯だな?
「ちなみに、この子たちのうち何人かはかなり酷い目に遭った上で連れてこられてきたみたいだにゃ。普通に殴られた跡とかもあるにゃ」
「ふーん」
改めて見てみると、確かに殴られたような跡が身体中に見える子が何人か。
「サキちゃん、その子たちが怯えちゃってるからとりあえず殺気抑えよ」
「あっ」
私の顔をのぞき込んで心配そうな表情を浮かべるアリスちゃん。
改めて周囲を見渡すと、獣族の子たちはさっきまで以上にガクブルだしミタマの額には脂汗が浮かんでいる。
なんならユウカは慌てて逃げ出そうとしている馬をなんとか抑えているといった状況だ。
「あ、ごめんごめん」
向こうだと不審者相手にブチギレてもこんな影響はなかったんだけどな。これも魔王補正かな?
うわ、お前らお漏らししてんじゃん。大の大人がか弱い可愛い女の子に凄まれただけで漏らすんじゃないよ恥ずかしい。
「で、この人たちどうする?殺っとく?」
「殺っても全然いいけど……ミタマちゃんはどうしたい?」
「王都に連れて行ってもちゃんと捕まるか怪しいにゃ。もう適当に縛って放っておいて魔物のエサにするのがいいと思うにゃ」
「あ、いいね賛成~。ってことでぽいっと」
「え、ちょ、うわぁぁぁ!?!?」
魔法の縄で縛っていたアリスが軽く杖を振ると、男たちの身体がいとも簡単に宙に浮く。
そのまま空中で何度か回転したかと思うと男たちの身体は勢いよく藪の中に突き刺さった。
「悲鳴すら聞こえなかったけど大丈夫?生きてる?」
「え?知らない。誤差でしょ」
「まぁ確かにそうか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そういえばこの子たちはどうしたらいいんだろう。どこ住み?名前は?てかRINEやってる?」
「ラインってのが何か分からにゃいけど、その子たちは多分みんなミロルの里の子たちだと思うにゃ」
「ミロルの里って?」
「最大級の獣族の里の一つだにゃ。エルフのイナ様と精霊のマイカ様が守護してるんにゃけど……獣族なのにミロルの里のこと知らないって珍しいにゃね」
「わ、私結構田舎出身だからあんまそういうの詳しくないんだよね」
男たちが乗っていた馬車の御者台で馬を操るミタマちゃんとの会話だ。
一部の荷物はともかくとして、その他には何の罪もない。
荷の管理をユウカに任せて、私は同じ獣族ということでミタマちゃんと同乗することにしたのだ。
ちなみにアリスちゃんはユウカの護衛継続である。
「みーちゃんはなんで捕まったの?他の子たちと違ってすごいしっかりしてる感じだけど」
「何日か前に、この子たちが行方不明になったから探しに行ってほしいって依頼を受けて探しに来たのにゃ」
「なるほど、あいつらを見つけたはいいけど返り討ちに遭ったって感じか」
「サキちゃんたちがおかしいだけであいつらかなりの手練れだったんにゃ。てか、人質さえいなかったら普通にボコってたにゃ。みー、実はアリスちゃんほどじゃないけど配下にするには十分すぎるくらいに戦えるにゃよ、魔王様」
「へぇ、そりゃ心強い……」
……?
「おいなんで私が魔王だって知ってる」
「多分この子たちもみんな気づいてるにゃ。どう考えても人族の臭いしかしない獣族で、しかもアンデッドの魔族を連れてるなんてどう考えても普通じゃないにゃ。しかもあんな殺気を軽く放つような化け物が魔王以外にいてたまるかって話だにゃ」
「アリスちゃんの正体にも気づいてたんかい」
そうだ忘れてた。ミタマちゃん、普通にめちゃくちゃ頭いいんだった。
「別に、それをバラしたりするつもりはないにゃ。魔王って呼ばれてる割に危にゃい感じしにゃいし、なんなら今の情勢的に色々危ないみーたちからしたら喜んで傘下に加わりたいくらいだにゃ」
ちらっと他の子たちを見てみると、怯えたような表情を浮かべながらもみな同調するようにうんうんと頷いている。
この子たちにも魔王だって気づかれてたのか。まじか。
なるほど、だからビビられてるのね?肩書のせいなのね?
ああ違う?そっか……。
「配下ってか、普通に友達になろうよ。ちょっと特殊だけど同じ獣族なわけだしさ。また変な人たちに攫われそうになったら助けに入るし、私が大変な時はみーちゃん助けに来てよ。そんな感じの対等な関係でいたいな?」
一応魔王としてこの世界に飛ばされたわけだが、この世界の住人として設定されているとはいえ同期を配下に加えたりするのはなんか違う。
現世と同じというのは難しいが、やっぱり友達として接したいというのは本心だ。
「……わかったにゃ。王都に向かってるってことは宰相のスズコ・タドコロが目的だにゃ?あの変態を倒すためならみーもこの子たちも何でも協力するにゃ」
……。
「おい今なんつった」
つづく。
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