番外編 大魔王の護衛

「あんたらがうちの護衛してくれんの?最近の魔物強いらしいけど大丈夫?」


「大丈夫だよ!私たちこう見えて戦えるから!」


「ならええけど……先言うとくで、もしあんたらがやられそうでも、うちは助けへん。うちにとっては見ず知らずのあんたらより商品の方が大事やからな」


そう言って、荷物がぎっしり詰まった目の前の馬車を指さす小柄な少女。

その馬車の中には木箱や樽、壺などが大量に詰まっているのが見える。


「それで大丈夫だよ。でも、商人さんの方も私たちの強さとか戦い方とかを他に漏らすのはダメだからね?」


「当たり前やろ?商いは信用がいっちゃん大事なんやから、それを損なうようなことはせぇへんで」


彼女とは『護衛として魔物から守る代わりに王都まで馬車に乗せていってもらう』という契約を結んだところ。


「ほなそろそろ行こか。うちはユウカ。アリスちゃんと……そっちのキツネちゃんはサキちゃんやっけ?」


「あ、はい。よろしくお願いします?」


「なんで疑問形?てかタメでええで?」


「あ、ありがと……」


断じて私がコミュ障なわけではない。

アリスちゃんと出会った時は私のことを知らない風ながらもたまたますぐに仲良くなれた。

しかし、今目の前で笑顔を浮かべているユウカちゃんからはそんな雰囲気を一切感じないのだ。

表面上は笑顔を浮かべながら、その裏ではこちらを値踏みするような、警戒するような意思が見て取れる。


現世のユウカ先輩のように、ただただ純粋に私のことを信頼してくれているわけではないそんな表情が、どうしても私を一歩退かせるのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「そいや、なんでサキちゃんたちは王都行きたいんやっけ?今の王都、なーんかきな臭い感じするやん?」


「きな臭いって?」


「ほら、勇者が召喚されたとか魔王が召喚されたとか王様が死んだとか聞かんかった?」


「へぇ、噂程度って話だったけど全部本当なんだ?」


「しかも魔王はこの近くの迷いの森にいきなり召喚されたらしいで~?それが怖いからうちは王都に行くの早めたんやけどな」


「そ、そうだね魔王怖いよね」


「だね。物理攻撃無効化して最上位の魔法も何事もなかったかのように踏みつぶしてきそう」


「え何そのイメージ。そんな魔王おったらいくら勇者でも勝てるわけないやん」


「だよね。わかる」


本当の冗談じゃないと言わんばかりのあきれ顔を浮かべるアリスちゃん。

この魔王のスペックに文句があるならスピカちゃんに言ってくれ。多分これの設計もスピカちゃんの仕業なんだから。


「……あ、前に魔物……ってか何か襲ってる?多分だけど人間の馬車か何かが襲われてるよ」


「ほえ~、獣族の感覚ってやっぱ便利なんやな」


「獣族の感覚って人族と何か違うの?」


「五感全部優れてたり、身体能力高かったりするはずやで」


「へぇ~」


正直、馬鹿力と謎の耐性意外は特に変わっている感じはしない。

今魔物の存在に気付いたのだって、迷いの森で襲われた時になんとなく気配が掴めるようになっていただけのことだ。


なんというか、魔力的な何かを感じるのだ。

アリスちゃんやアリスちゃんのお友達もそうだが、どうやら私は魔力を持っている生物?の場所がなんとなく分かるらしい。

というのも、現世で感じたことのない異質なものである魔力?の場所がなんとなく分かる程度だが。


「あー、見えた。あれコボルドか。どうする?やりあったら勝てそう?」


「「余裕」」


「ほな助け入ろか」


「商人的には助けて恩を売っておきたいもんね」


「お、サキちゃんよぅ分かっとるやん」


御者台で操作するユウカが馬を加速させ、馬車が襲われている現場に急いで向かう。


どうやら襲われているのは人族の行商人か何かの一行。

そこそこ戦えるようで、複数のコボルドに襲われながらもなんとか持ちこたえている様子。


「ほないってら~」


「は~い」


十分近づいたところで私とアリスちゃんは馬車から飛び降り、そのまま走って助けに向かう。


コボルドは大きな犬型の魔物で、その体躯は小さいものでも2mを超えている。

そんな魔物たちの攻撃をかなりの時間凌いでいるのだから、行商人の人たちはかなりの手練れだと窺える。


「助けにきました~」


「ました~」


行商人の一人との戦闘に集中しているコボルドの脇腹に、走ってきた勢いそのままに蹴りをお見舞い。

回避が間に合わないコボルドは、明らかに普通の獣族にしか見えない横槍の攻撃とは思えないほどの衝撃に軽く数十メートルは吹っ飛ばされる。


そんな光景を見て、他のコボルドは唖然として動きを止める。

行商人も。

なんならユウカも。


「はい、じゃあもう……死んでくれる?」


サキを警戒して少し距離を取ったコボルドたちの足元に、巨大な闇色の渦が現れる。

その原因は当然、サキの後ろで杖のような何かを構えるアリスだ。


一応人族ということでユウカに一緒している身分、魔法の杖という触媒を用いて魔法を行使しているように見せかける。


効果:相手は死ぬ。


その渦から伸びる無数の触手に捕まったコボルドたちは、もがいて逃れようとするも当然かなわず徐々に生気を失っていって遂には倒れ伏してしまう。


「うわぁ、悲惨。人には当たってないよね?」


「大丈夫じゃない?一人二人死んでも問題ないでしょ?」


「そっちの意味の『大丈夫』ね!?……あー、怪我ないですか?」


「だだだ大丈夫、助かったありがとな。じゃ、俺らはこれで」


助けた行商人たち、お礼もそこそこに馬車に乗り込んで去って行こうとしてしまう。


なんだろう、急ぎの用事だったりするのかな?


「ちょい待ちや」


そのまま見送ろうとしていると、ユウカがその馬車を制止する。


「二人とも、急いでこいつら捕まえて」


「え?」


「は~い」


「ぐっ……なんだこれ、解けねぇ……!」


困惑する私をよそに、アリスちゃんはもう一度杖を振って魔法で彼らを拘束する。


「……それ大丈夫?なんか吸い取る系だったりしない?」


「うん、多分大丈夫」


「多分かぁ~」


人の命だとかに関する関心がなさすぎるのは現世と同じ。もう諦めることにする。


「……やっぱりか。サキちゃん、これ開けたって」


「……これって?」


行商人の人たちの馬車の荷台を指さすユウカ。

促されるままにその荷台を見ると、そこに……。


「んー!!んんー!!!」


猿轡を噛まされ、両手を縛られて檻の中に入れられた獣族の少女たち。

猫、犬、キツネなどその種族は様々だ。

……よく見るとその中に見覚えのある顔が一人。


「すぐ助けてあげるからね」


そう言って、檻を引きちぎって開ける。

猿轡も外して、両手を縛る縄も解いてあげる。


「なんや、キツネや思ってたけどゴリラやったか」


「いやキツネじゃい」


若干引いたような感じのユウカに反射的にツッコみ、他の獣族の子たちも順番に解放していく。


「にゃ、助かったにゃ……。みーの名前は山神ミタマにゃ。狐人さん、助けてくれてありがとうにゃ」


つづく。

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